第二章第五十九話「陰陽の性質と潜在性別」
「え……」
「兄?」
現在、冥道要塞内部の大通路にて。追突の衝撃で仰向けに寝転がる紅葉の上には、白くて愛らしい超絶美少女なお姉さんが伸し掛かる形で座っている。
だが、その追突して来た白くて愛らしい超絶美少女なお姉さんは、レルゥシャの説明曰く、黄泉、すなわち冥府主神、黄泉穢大御神の兄なのだという。
そして、それを肯定する様に、そのお姉さんは紅葉の上から身を起こし、紅葉の手を引いて紅葉を抱き起しながらも、身体の向きを変え、彼女の左後ろの階段から降りて来た瑠璃の方を向いて手を上げながら、そのレルゥシャの話した自己紹介を復唱する。
「どうも、黄泉のお兄ちゃんでーす♪」
―むぎゅっ―
そうして、抱き起した紅葉を抱き寄せつつ、片手を上げる彼女の様子に嘘偽りは見られないが、そこにはどう考えても看過出来ない矛盾があるので、紅葉は、その矛盾の塊に顔を埋められつつも、反論しようと口を開く。
「兄? いやでも……」
「どう考えても胸がある」。そう言おうとしたところで、それに気付いた聖成伽が、あっけらかんとおかしな提案を行う。
「あ、それ気になる? 揉む?」
「?」
そんな提案をされた紅葉は、ふと自分の胸の膨らみを見て、(もしかして自分と同じ可変タイプ?)と、考えるに至り、自然と聖成伽の側の膨らみに手を触れる。
―もにゅん―
(! ライベリーさん程じゃないけど、でかい……!)
そうして触れる、夢の塊。
実際、紅葉自身もかなりある為、羨ましい等の感情は無いものの、どう考えても手から溢れるその大質量は、明らかに巨乳の類であり、紅葉の心は圧倒的な畏怖と感動で満たされる。
だが、そうして紅葉が特に邪気無く、その質量を確かめる様に下から持ち上げる形でその夢の塊を揉み、柔らかな驚愕と感動にぷるぷると打ち震えていると、それを提案した聖成伽の方から、少し恥ずかし気な声が聞こえる。
「あ、ほんとに揉むんだ……///」
「うぇ?」
「あー、っと、一応言っとくと私、黄泉のお兄ちゃんだけど男性って訳じゃないよ?」
その言葉を聞いた瞬間、紅葉は硬直してその手も止まるが、聖成伽は特にその手をどけるでもなく、照れ臭そうに視線を逸らしながら、片手で頬を掻きつつ、ゆっくりと、その矛盾した性別と立場の解説をする。
「うん、私と黄泉は独り神っていう無性別の神格だから本来性別とかないんだよ。でも、この世界だと、外見はヤィヴュミの影響を強く受けるから女体化してるわけで……、今の身体は普通に女の子の身体だったりする。うん」
その説明の時点で、紅葉は石化して意識が遠くなるが、聖成伽はそれには注意を払わず、続いて黄泉と自分の立場と関係性について語る。
「それで、私と黄泉は世界を二分して陰と陽の二つに分けた形での双子なんだけど、私達陰陽系列の神格は、概念的に陽気と陰気の特性にも影響されるから、陽の側は男で年上、陰の側は女で年下っていう属性が付与されるんだよね。だから、陽気の側である私は男性と年上の属性が付いてお兄ちゃんになるわけだ♪」
そうして、神格の説明をした聖成伽は、頬を朱色に染めながら、片手の人差し指を立てて説明を終わるが、その説明にはかなり重要な情報が幾つも含まれていた。
(冥府の主神と世界を二分した、陽側の主神……?)
そんな存在は聞いた事が無いが、彼女の名前からして、今目の前にいる相手が誰なのか、多少察しが付いた紅葉は、即刻彼女の胸から手を放し、そのまま頭を地面に擦り付ける様に、「すいませんでした!!!!」とダイナミック土下座をしようとするが、その「でした」で地面に付く前に、聖成伽に「おっと!」と、両手で脇を持たれて再度抱き抱えられ、高い高いの姿勢で軽く赦される。
「いや、触って良いって言ったの私だし畏まらなくて良いって! それにさっきは突撃した私を受けて止めてくれたみたいだし、恩赦、恩赦! ねっ♡」
そうして、聖成伽は耳と尻尾が垂れ下がった紅葉をあやし、紅葉はまたも聖成伽に対して、得も言われぬ魅了に似た好意を抱くが、それは何を隠そう、権能による魅了であり、それに気付いた瑠璃は、隣のセラフィリアに、こっそり聖成伽の権能について尋ねる。
「うん? あの、セラフィリアさん。聖成伽さんって、何か魅了系の権能とか持ってます? なんかさっきから私が嫉妬しそうな事が起こってる筈なのに、なんか単に微笑ましく思うっていうか……、思考が制限されてる気がするんですけど……」
そう話す瑠璃は、確かに紅葉が聖成伽に押し潰された時も、紅葉が聖成伽に抱き抱えられている時も、紅葉が聖成伽の胸を揉んでいた時すらも、特に紅葉にずるいと言って割って入る事はせず、ただほんわかと、静観を決め込んでいた。
これは、極めて欲望に忠実な瑠璃の行動としては在り得ない事であり、本来なら、確実に「紅葉さんずるい! 私も揉みたいですよ!?」と言って割り込んでいるシーンである。
それが無いという事は、確実におかしい。
そうした事情から、その魅了系の能力を見破った瑠璃であるが、これについて、セラフィリアは「うん? 聖成伽の権能が初見で気付かれるなんて珍しいわね?」と感心しつつ、聖成伽の本来の名前と共に、その力を教えてくれる。
「そうね、それは確かに聖成伽の権能よ? 天界『高天原』が主神。天之御中主神としての、『平和』と『安寧』の権能ね」
そうして、セラフィリアはあっさり聖成伽の正体を教えてくれるが、それを聞いて、瑠璃の方は耳を伏せて凍り付く。
何故ならば、天之御中主神というその名は、瑠璃の故郷たる魔界ですら、その名を広く知られた、大始源神。
数多の自然神と属性神の上位に属する、数え尽くす事の出来ない精霊と神々の長たる主神。
神道系神格の最高位に位置する、究極至高神の名だからである。
[ちょっと小話!]
そういえば、私、神話・宗教関係の事柄に関してはかなり正確に、史実通り記載する様に努めてたりするのですが……、人間側の歴史ではこの辺りの資料はかなり紛失してるみたいなんですわよね。※当然キャラ付け等は違いますわよ!立ち位置や教義等についての話です!!
しかし、現在の欠落してる文書のみを読んでいる人間は何も疑問に思わなかったんでしょうか?
一応、人間側の記録も調べましたが、性別の無い独り神とされている造化の三神においても高御産巣日神と神産巣日神が対となっていたり、天と地で天之常立神と国之常立神が対になっていたりする他、唐突に自然物として現れた豊雲野神が雲の神格で、多くの記録から欠落してしまったとはいえ、国狭槌尊という土の神格の話も出て来ていましたし……、
それらは男神だという記録もあり、神代七代の方には陽神(兄神・男神)と陰神(妹神・女神)の二柱で対になってる記録もあったので、この時点で今の記録だけではかなりの矛盾が発生するという事に気付きそうなものなのですが……、
更に、黄泉神の事は記録されてましたから、少なくともこの辺りで、神話を同じくする筈なのに出所不明の謎の黄泉神という存在に目は向く筈ですし……、
そうであれば、これらの神格は本来は全員陰陽に分かれていて、天之御中主神を始めとする対存在の記録が欠けている他の神格にも本来は対になる神格が存在し、記録に残っていない分は黄泉神側の陣営に行っているという事なども割とあっさりわかりそうな気がするのですが……、
謎、ですわね……?(ちょっと書いてて思った感想ですわ!粉蜜柑!!




