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地の文「なんか私が見える小娘が主役みたいですよ?」  作者: 咏柩
第二章『咎人と断罪者』
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第二章第五十七話「紫霧道中幽境墓地」


 紫色の霧の上。


 霧から突き出た幾つもの石の塊を経由して、瑠璃と紅葉を抱えたセラフィリアは、レルゥシャの後を追って冥道要塞と呼ばれる巨大な壁に近付いていく。


 その最中、急に視界がブレ、見ている景色が変わる事が何度もあった為、術式にある程度詳しい瑠璃は、それが一種の迷宮の結界である事を読み取り、自身を片手に抱えるセラフィリアに尋ねる。


「あの、セラフィリアさん。結局ここってどういう所なんです? あの建物が冥道要塞でそこに向かってるって事はわかるんですけど、その詳細を知らなくて……」


 その瑠璃の質問に対し、セラフィリアは時折足元の石塊を蹴って加速しつつ飛翔しながら、この場所の簡単な概要を教えてくれる。


「この場所、っていうと幽境墓地の事? それならこの禊祓全体の共同墓地兼屍兵工廠ね。死体で兵士作る所。冥道要塞の方についてなら、冥府本国、黄泉國の最大軍都『咎絶』と、この緋練の首都『禊祓』を繋ぐ出入口よ」



 そうして説明された話によると、冥府やこの創誓世界では、基本的に「死者よりも尊ばれるべきは生者」「使えるものは塵芥までも残さず使う」といった合理思想が蔓延している為、高度な生体部品の塊である死体は国や企業によって回収され、死霊術式や操霊術式は勿論、魔導術式に機械術式、その術式の系統を問わず、ありとあらゆる技術系統の部品へと使われ、有効的に再利用されるのだという。


 それは、単なる家畜などの死骸に留まらず、元は知性体である市民の遺体なども同様であり、この場所、幽境墓地はその中でも特に、元知性体である市民の遺体を国家の主導で回収し、改造し、屍兵として造り上げ、生体兵器として軍に送り出す為の軍需工場であるという。



「ちなみに下の紫色の霧は屍兵制御用兼侵入者防止用の瘴気で、さっきから私達が飛び跳ねてるこの四角い石は墓石という名の製造工場ね」



 そんな常世界であれば人権団体やら何やらが黙っていなさそうな死体改造事業に対し、自身も死霊術式が使える筈の瑠璃も、少し目を丸くして「まじですか。え、人道とか大丈夫なんですか? それ……」と、若干引き気味に問うが、その問いに対し、セラフィリアは、頭に疑問符を浮かべつつ涼し気に応える。


「人道? なにそれ? 確かに『人はパンだけによって生きるのではなく、神の言葉によって生きる』から、単純な生産性より神が話す配慮や気遣いなんかの善性の方が大事なのは真実だけど、神でもない只人のよくわかんないお気持ち表明なんか知った事じゃないし、悪魔みたいな道理を弁えない感情的な馬鹿の意見は聞いても行動が制限されるだけで良い事は何も無いわよ。お気持ち優先で実際には飢えるんじゃ仕方無いでしょ? 死肉より生者の方がずっと価値があるのよ。そもそも唯一真の神様だって死んだ者の神じゃなくって生ける者の神だしね」



 そうして、やはり何処かで誰もが聞いた事のある格言を交えて話された事柄は、常世界の価値観とはだいぶ異なるものの、決して理解出来ない様なものではなく、セラフィリア自身の態度からも、その思想はこの世界ではどちらかというと誇られるべきものだという事も理解出来る。


(死者より生者を尊ぶ、ね。常世界だと真逆の思想も多いけど……)


 黄泉から聞いた通り、この世界において、死体はただの肉塊であり、もはや魂とは何の関係も無いものとなるのであれば、確かにその行動は大いに合理的である。


(とはいえ、死体を悉く生体部品として流用するってまでなると、流石にちょっとやり過ぎな気もする……?) 


 ……このどう考えても溢れんばかりに満ち足りている世界で、何故そこまで節制する必要があるのか。


 そんな疑問が紅葉の頭をよぎるが、そんな疑問もまたすぐに思考から掻き消え、セラフィリアは墓石を踏破して空を飛び、途中、中天の次元の歪みを伝いながらに冥道要塞の瓦にまで飛び移る。


 そして、そこからは、更に、幾つもの瓦上に発生している時空の歪みを経由して、瓦から瓦に移り、正しい瓦を通りながら、そこにも張り巡らされた見えない迷宮の結界を踏破し、屋根瓦の奥に設置された堡塁と特火点が混ざり合った様な、大砲と機関銃が並ぶ何千もの重なり合った陣地を越えていく。


/(! 瓦の間が全部自動火器と銃眼ですね……)/


(瓦の中に仕掛け式の誘導弾が仕込まれてたり、地雷原になってる瓦もある……、どうなってんのこれ……)


 恐らく、建物自体が自動再生と兵器の自動補充を行う為、整備性ガン無視で火器を設置する事が出来るのだろう。


 今は先行するレルゥシャと、二人を抱えるセラフィリアが複雑怪奇な正規ルートを通って進んでくれている為、全く被害は出ていないが、これをもし正面から強行突破しようとすれば、まず間違いなく通る事は不可能であろう。


 それ程に、割とヤバ目なデストラップが張り巡らされている。


 とはいえ、道中すれ違った警備兵は、誰もがこの二人は顔パスらしく、緋煉兵の正装なのか、全員が顔の無い鬼の面を被っていて表情は見えないものの、ひらひらと手を振ったり、軽くこちらに会釈したりして、好意的に道を通してくれるので、やはり問題が起こる事も無く、四人は入り組んだ陣地の内部を疾走して、陣地の中にもあった鳥居型の転移門を幾つもくぐり、最短で要塞の中に入る事が出来る。



 そうして着いた要塞の中。


 鳥居を出てすぐそこは、四人が出て来た高さ5m程の鳥居を中心に、正面と背面に身長20m程の鬼の様な姿の機兵が両脇に控えた、高さ50m程の大門があり、側面には誰もいない、鳥居の高さと同じ、高さ5m程の小門が、左右それぞれ4門ずつある、100m四方の大広間であり、そこでようやく、二人はセラフィリアの腕から降ろされ、自分の足で立つ事が出来る。


(大広間に巨大な機兵……。ふむ、さっきの兵士達も分布としては疎らだったけど、かなり沢山すれ違ったし……。ある程度等間隔に兵士が配置されてる感じなのかな……。だとすると……、この要塞一つで一体どれほどの兵が……?)


/(顔の無い鬼の面に、緋色の和鎧……、黄泉さんと一緒にいた軍の皆さんも同じ見た目でしたけど……、緋煉の軍はみんなあの姿で統一されてる感じなんでしょうか……。男女で少し姿が違うみたいですが……)/



 そうして、二人は様々な事に思考を巡らせつつ、新居に連れて来られた犬猫の様に周りをきょろきょろと見回しながら、レルゥシャを先頭に、セラフィリアに後ろから促されつつ、要塞を進む。


 そして、二人が見渡してみた所、降ろされたそこは、外観的には和風の室内だが、その床は役所神社で見た板張りに似た、インゴット敷きの金属張りであり、何処か独特の、硬くて冷たい異界的な雰囲気を感じさせる。


/(あー、冥府って感じがしますね……。……私がこっちに来る時に通った道にもこんな感じの建物あったあった……)/


(木造に見える様で、全部完全な金属造り……。なんかの建築様式なのかな……)


 そうして考えつつ進む中、要塞独自の造りのせいか、正面の門ではなく、鳥居を回り込んで背面の門をくぐり、その中にあった、長く広い廊下の脇の階段を上って、ようやく高さ3m程の普通の人型生物用の通路に出た辺りで、その要塞らしい雰囲気に全くそぐわない、極めて明るく溌剌とした声が聞こえてくる。


「れっ、ルゥシャー♪ ひっさしぶりー!!!!」


―ゴォオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!―


 風を裂く様な轟音と共に、大音量で。


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