第二章第五十六話「桃色の聖騎士」
白桃色に銀が混ざる鎧。
大きな六翼の薄桃色の翼と桜色の龍角。
そして、肩と腰、また背中に羽織られた、撫子色のマント。
鎧の下のきっちりとした軍服の様な制服は、他と違って少し色が濃く、蛍光色でラメがかかったショッキングピンクをしているが……、
そんな桃色然とした装いと、彼女自身の、風に靡く白に薄っすらと赤が混じった長い淡桃髪から、その様相は、ほぼピンクの聖騎士と言って過言ではない。
そんな美少女聖騎士が、翼と障壁で落下速度を軽減しようとして互いに抱き寄せ合っていた瑠璃と紅葉を、その更に上から抱き抱え、ふわりとした着地で、真下の四角い石塊の上に舞い降りる。
「ふぅ、大丈夫だった? 貴女達」
そうして、謎の美少女は助けた二人にやれやれと言った感じで優しく話しかけるが、現在、少女はフル装備では無いらしく、鎧は靴と手袋に当たる脚鎧と籠手しか付けておらず、抱き抱えられている位置関係上、二人の顔はもろに少女の胸に押し付けられている為、赤くなりつつもこれは僥倖とばかりに目を伏せ、全く抵抗する気の無い瑠璃は元より、とりあえず離れようと藻掻いてみる紅葉についても、素の腕力が違い過ぎて全く離れられず、その少女のそこそこある胸に、制服の上から、とはいえ、顔が埋もれてまともに返答が出来ない。
「むぎゅ……」
「んーっ! んーっ……!!(じたばた」
しかし、そんなある意味幸福な時間はすぐに終わり、何処に転移していたのか、レルゥシャが三人と同じ石塊の上に降りた所で、少女は二人を解放し、瞬時に背中の大剣を抜いて、その平らな方でレルゥシャに殴り掛かる。
「このあんぽんたん!!」
―ギィン!!―
その少女の行動に対し、レルゥシャは片手を上に翳して防御するが、如何にRと言えど、片手で彼女の一撃を防げる筈も無く、すぐさま防御した右手の手首を左手で持って持ち堪えようとするが、それでもその腕力には叶わず、徐々にその態勢が仰け反っていき、とてとてと脚も後ろに後退させられていく。
だが、そんな彼女の行動に対し、レルゥシャはきょとんとしながら、左手の指を立てつつ首を傾げ、その少女に問う。
「えっと、セラフィリア君? 何故僕は今怒られているんだろう? 僕はただその二人に冥道要塞の全景を見せてあげようとしただけなのだが……」
そうして問われたセラフィリアは、眉間に皺を寄せ、はぁーと溜息を付きつつ、「じゃあ、もう少しやり方は無かったんですか、っていうか空に飛ばすんなら相手が飛べるかどうかぐらい確認してください」と呆れた様な敬語で対応し、剣の角度を変えてその平がレルゥシャの頭に当たる様にしてから、その剣を上下に動かしてレルゥシャの頭をごりごりと削り、少しお仕置きした後、剣を背中の鞘に戻す。
そして、向き直って二人に自己紹介をする。
「はぁ、二人共、うちの上司が迷惑かけたみたいね。このアホ上司はレルゥシャ。私はセラフィリア。貴女達は? たぶん貴女達がレルゥシャの言ってた何とかの鍵なんでしょ?」
そのセラフィリアの自己紹介には、彼女とレルゥシャが何処の所属で、どんな者なのかなどの基本的な情報が丸ごと抜けていたが、それでも気になる情報は入っていた為、瑠璃と紅葉は自分達も名前だけ自己紹介して、その、何とかの鍵とやらについて尋ねてみる。
「初めまして、レルゥシャさんに迷惑をかけられました。御砥鉈瑠璃です」
「同じく風祭紅葉です。……何とかの鍵とは?」
「さぁ? いつもの謎言語ワードじゃなさそうだったけど……、貴女達も知らない感じ? その辺どうなのよ、レルゥシャ」
だが、そうして尋ねた事柄についてはセラフィリアの方はほとんど何も知らないらしく、それについては、話を振られたレルゥシャ本人が答える。
「世界記憶の鍵の事だね。それはまぁさておき、瑠璃君が空に堕ちる事が出来ないのは知っていたが、君は空も手にしている筈だろう? 紅葉君」
しかし、その謎の鍵については名前以外教えられず、別の事柄について問われた為、紅葉は(世界記憶……?)と、その名称に首を捻りながらも問いに答える。
「空も手に……、えっと、飛べるって意味? 滑空を飛べると認識するのなら一応飛べるけど……」
「? 体構造からして君は空を統べる者の筈だが……、まぁいいか。ほら、あの門が君達の目指す場所だ。案内するよ」
そうして、レルゥシャは何故か噛み合わない会話をした後、翼を広げて石塊の上から門など見えない壁に向かって飛び立ち、その後からはセラフィリアが「だからこの二人飛べないって! あっ、だから私も連れて来られたの!? もうっ!!」と、レルゥシャのよくわからない言葉をある程度まで読み取った上で、瑠璃と紅葉を両脇に抱えてレルゥシャの後を追う。
向かうは冥道要塞。
現在、緋煉国主たる、神楯黄泉が滞在している、要塞である。
[神楯黄泉が滞在している、要塞である。]
(! 一応向かう場所としては合ってたんだ!)




