第二章第五十二話「行き詰っても差す光」
『観測知性』の移動範囲は絞り込めたので、後は囲い込めれば勝てる筈なのだが、肝心の囲い込む為の結界が普通のものでは利用出来そうにない。
そんな結論に対し、一向は何とか道を切り開こうと知恵を絞るが、なかなか良いアイデアは、出てこない。
「うーん、私の『幸運』の権能だと、出て来るであろう範囲の中で何処に出て来るのかはわかりますが、誘い込むのはちょっと無理そうですしねぇ……」
「というか、この『観測知性』の情報を見る限り、『現状の周辺状況から予測したほぼ確定的な未来予知』なんて異能か権能が予想される以上、危険な地域には元々侵入しないだろうし、初めから都市にある結界を瞬間的に強化して閉じ込める以外の方法はなかなか難しそうかも?」
「とは言ってもぉー? 移動出来る障壁塔の親機は民間のだと、最高でもAランク止まりでしょうしねぇ……」
「Aランクの障壁塔が使えた所で、SSランクぐらいの障壁塔の親機が使えないと、例え結界張って閉じ込めても破られちゃうから意味ないし?」
「それ以前に禊祓には元々Sランクの結界が全域に多重構造で張られてるし、次元の狭間を経由してるとはいえ、それが抜けられてる以上はSS未満の結界じゃ役に立たない……」
「むむぅ! 困りました!!」
そうして、瑠璃、鴉亜、ライベリー、祇祁、アレックスが互いに頭を捻りながら考えるものの、なかなか良い案は出てこない。
一応、ライベリーの話していた通り、値段は張るものの、Aランク程度の障壁塔であれば、自律移動式のものや車両積載式のものがエーテルネットのショップにも販売されており、黎明学園の施設でも即時購入出来る様だが……、
(Aランク障壁塔、1基1兆ヴィスト、か……。これを買う意味はないかな……)
Aランクと言えば、惑星や小惑星などの岩石天体を破壊出来る程度の戦力であり、その攻撃が防げる防壁という事は、惑星や小惑星を破壊出来る程の威力の攻撃を防げるという事なので、決して弱くは無いのだが、……少なくとも今回の作戦では使い物になりそうにない。
いや、それ以前に、エーテルネットから得られる都市情報によれば、創誓世界の都市には、その都市の防衛機能として、その都市の防衛軍の兵装と同ランクの結界が張られているらしく、大国の中核都市である禊祓には、初めからSランクの結界が全域に張り巡らされている様なので、その結界をすり抜けられる『観測知性』に対しては、それ以下の結界はどれも意味が無い。
「せめて地下の隔壁より下に落とせれば、都市の主要な区画防壁は全て軍の防壁と同じ複合障壁だから、都市神経から直接エネルギーを送って区画ごとEX化する事で閉じ込める、とかも出来るんだけど……」
「それについては『観測知性』の方でも気付いてるのか、今までの襲撃も全部地表より上の場所しか襲撃してないんだよねー」
そうして議論が行き詰る中、聞きなれない単語が出て来た為、それに紅葉は質問する。
「……地下の隔壁?」
「ん? あぁ知りませんでしたか? 都市の地下は1km毎に厚さ200mの防護隔壁で隔てられてるんですよ。かくいうここも、表層とはいえその隔壁の下ですね!」
「「!?」」
そのアレックスの語った事実に対し、驚いた瑠璃と紅葉はすぐに空を確認するが、その晴れ渡る青い空に首を傾げる二人に対し、祇祁が笑いながら説明する。
「あぁ、それは疑似的な空だよ♪ 天井を全部画面にして、映像で空を表現してるの。ほら、さっきまでの場所と違って天空要塞とか飛んでないでしょ?」
「? ……! ほんとですね……。地表から800m上空に壁がある……」
それを聞いた瑠璃は先程作り出していた賢者の石の指示棒から光を出し、その光を地面と天井に向けて放ち、距離を測っているが、紅葉は目視で距離が測れるので、その計測と合わせても、確かに地表から天井までは800mである。
その事から、隔壁は1km毎にあり、隔壁の厚さは200mという事なので、天井と床はそれぞれ厚さ100mずつで合わせて200mとなり、アレックスの証言とも一致する。
「………………うわまじだ。いつの間に移動したんだろ……」
「ここに来る途中、幾つも転移門経由してますしぃ? 階段や昇降機もありましたから、その時ですねぇ」
何気無く聞いた事柄が、知らなかった事実を解き明かす。
/(地下施設も地上と同じ形で機能してるんですか……。なるほど、街そのものが立体に広がってる感じなんですね……、という事は人口密度が少ないのもその辺りが原因の一つですか……)/
「あれ? でも隔壁が転移門で超えられるって事は、街中の転移門も塞いどかないとそこから逃げられるんじゃ?」
「うん。だから地下に追い込むにしても、転移門の限定された閉鎖区画に追い込む必要がある……」
移動に便利な転移門だが、その便利さはこういう所では仇となる。
そうして、議論は行き詰るが、そこで瑠璃が、ふと神妙な顔付きで一見矛盾している様な推理を話し出す。
「ふむ……。こちらで議論しても行き詰りますか……、という事は、実はもう解決法は出揃ってるのかもしれませんね?」
その言葉は、瑠璃以外が話していれば意味の無い言葉だが、他ならぬ『幸運』の権能を持つ瑠璃の言葉としては意味が通る為、それをいち早く察した紅葉は、瑠璃に「その心は?」と、問答風に詳細を促す。
「民間で出来る事には限りがありますし、私の権能による出現場所の固定と、先程の移動能力限界の情報さえあれば、後は軍の方で何とか出来るんじゃないかと?」
そうして話された内容は極めて他力本願なものだったが、確かに政府側も動いている以上は、この場合は軍に頼るのも正しいだろう。
そして、そう話す根拠として、瑠璃は更に自身の権能の詳細をも付け加える。
「それに、私の権能は情報収集にも作用しますので、私が居て情報収集に行き詰るとなると、それは既に私の手の届く範囲で情報が出揃ってるって事だったりするんですよね。私の権能、必要なものなら隠し情報も全部ピンポイントで引き当てますので。ですから、行き詰った場合は議論するより、情報持ってそうな人に手当たり次第聞き込んで情報照らし合わせた方が早かったりします」
そう、瑠璃の権能は因果に作用し、瑠璃に必要なものを周囲から集めて来る。
それは情報も例外ではないが、その『幸運』の権能は必ずしも瑠璃を起点に発動するわけではなく、最終的に瑠璃の益になる様に因果を収束して発動する為、瑠璃の側が情報に行き詰る事もあり、その場合は、何処か瑠璃では手の届かない場所を起点に『幸運』が発動しており、そちら側の『幸運』が最後は瑠璃の下に集まって、最終的に瑠璃に必要な全てを形成する様に働くのである。
そうした権能の性質から、どうあっても最終的には全て瑠璃にとって良い様に事は運ぶ為、瑠璃としては別に何もせずに待っていても良いのだが、その『幸運』の権能による因果は瑠璃の意思に合わせても動く為、行き詰った場合は瑠璃の方からその『幸運』を取りに行って時短を狙う事も可能である。
[時短を狙う事も可能である。]
その権能の詳細を、瑠璃の言葉だけでなく中空の文からも知った紅葉は「因果系の能力はこれだから……」と、口を半開きにして、やや呆れながらに、それが最善である事を認め、瑠璃の言葉だけで詳細をある程度理解した祇祁やライベリーは元より、瑠璃の言葉だけでは、その詳細を理解出来ていなかった面々も、その紅葉の様子から、それが最善である事を悟って納得する。
「よくわかりませんが、色んな権能があるんですね! 理解しました!」
「権能については私にはちょっとわからなかったけど、軍については賛成かも……。軍なら民間が用意出来るものより遥かに良い品も揃ってるし……」
そうして、理解も得られた所で、瑠璃が黄泉に連絡しようとして……、
ここで、ふと大きな問題に差し当たる。
「あれ、そういえば……、連絡先とか貰いましたっけ……?」
致命的なミスである。




