表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の弟  作者: 白黒猫助
5/7

第五話『不本意な出発』


ガタガタと揺れる車内――。


とはいえ、車ではない。少し大きめの馬車だ。

その隅で、俺は不貞腐れたように身を縮めていた。


「最悪だ……なんで俺がこんな目に……」


出発してから約一時間。

俺はずっと、うずくまりながら愚痴をこぼし続けていた。


そんな俺とは裏腹に、馬車を操縦している前方はやけに賑やかだ。

俺はその様子をちらりと横目で見て、小さくため息をこぼした。


(何が楽しいんだよ……やっぱりダメな奴らだな)




手紙を渡されたあと、俺は必死に説得を試みた。


「待って待って……やだ! 次からはもう問題起こさないから!」


だが、クソ兄の頭は相変わらず頑固だった。

俺の言葉なんて聞く耳を持たず、淡々と内容を語り続ける。


こんな状況で、落ち着いて話を聞けるわけがない。

結局、俺が理解できたのは大まかな目的だけだった。


――この国の南とは反対、北側にある「ゼル・神王国」へ向かうこと。

それが、今回の目的らしい。


アーレスワット連邦国と並び称される二大覇権国家。

だが、聞くところによると、その実態は怪しげな鎖国的宗教国家だという噂をよく耳にする。



その目的を聞いた瞬間、当然のように不安が押し寄せた。


その日は一睡もできず、気づけば朝になっていた。


何を持っていけばいいのかも分からない。

結局、必需品として選んだのは、お気に入りの枕だけだった。


――それがないと、眠れないからだ。


そして、執行の時間が来た。



出発の直前、なぜか兄がやって来た。

そして、驚いたような表情で言う。


「お前、持ってく物が枕だけって……それでどうするんだよ。どうせ準備もしてないだろうとは思ってたけどさ」


「うるせぇ」


「はぁ……まあいい。役に立ちそうな物は用意しといた。これ、持ってけ」


そう言って渡されたのは、剣とショルダーバッグだった。


この剣は――俺が訓練兵として入団させられた時、兄から渡されたものだ。

白銀の柄に、青を基調とした鞘。


高級感があって、悪くない品なんだと思う。


……ただ、三日で脱走した俺には、まともに扱う機会なんてなかった。


「おう……」


機嫌が最悪だった俺は、ぶっきらぼうにそう返した。


「そろそろ出発か……。今回の件、正直、怒ってない……いや、やっぱ少しは怒ってるけどな」


そう言われて、俺は内心ツッコむ。

――いや、めちゃくちゃ怒ってただろ。


「でもな……なんていうか、いい機会になればと思ってる」


兄は少しだけ視線を逸らしながら続けた。


「こんな戦火の世で、十四で両親を亡くしたお前を見てな……強くならなきゃいけないって思ったんだ。戦って、生き抜ける意思と力が必要になるって」


幼い頃、戦争で父は死んだ。

この世界で「父」と呼べる人は、もういない。


そして母も――ストレスに耐えきれず、自ら命を絶った。


その亡骸を見つけたのは、兄だった。


あの日を境に、兄は弱音を吐かなくなった。

ただひたすらに強さを求め、やがて“勇者”と呼ばれるまでになった。


――その姿を、俺はずっと覚えている。


「だがな……それは俺の人生にとって、必要なものだったと、今なら分かる」


兄は静かに言った。


「この旅で、お前には……自分の行きたい人生を見つけてほしい」


考えたこともない問いだった。


だが――正直、自分でもよく分からない。


俺は、よくある物語の主人公みたいに、戦いを冷静にこなしたり、楽しんだりなんてしたくない。


痛い思いはしたくないし、かといって、このまま引きこもっているのも嫌だ。


……でも、馬車で寝起きして、食べたい物も食えない生活なんて、もっと嫌だ。


「色々考えたけど……やっぱ無理だ。ふかふかのベッドのない生活なんて嫌だ! やめたい!」


「うーーーん……オラ!」


次の瞬間、意識が落ちた。


――強制的に、眠らされたらしい。


そして、そのまま執行された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ