第三話『虚構の凱歌』
アースワット連邦国の王城。
薄紅色を主色とした、巨大な城だ。
“世界二冠”――
この世界にわずか二つしか存在しない、最高峰の城。
その一つである。
その中枢、最奥の会議室には、
重苦しい空気に包まれた静寂が満ちていた。
誰も口を開かない。
張り詰めた沈黙。
――その空気を打ち破るかのように、声が響く。
「……正直、状況は芳しくないな」
テーブルを囲む重鎮たち。
その中央――縦長の席の最奥に、
ひときわ巨大な椅子が据えられている。
そこに腰を下ろすのは――皇帝。
この国の統治構造は、明確だ。
・皇帝(象徴にして最終決定権を持つ存在)
・議会(貴族・有力者・軍人による統治機関)
・各州の統治者(地方権力)
――すなわち。
今、言葉を発した者こそが、
この国の頂点に立つ絶対的権力者。
名は、ザブス・ケイン・ファルス・アーレスワット。
その男が、不機嫌そうに状況の悪化を告げた瞬間――
それまでの静寂は崩れ、
重鎮たちは一斉に動き出した。
「そうですね……魔人どもを撃退できたのは幸いですが、
隣接する同盟国――ミグルバ王国の戦場都市は壊滅。復旧は困難です。
さらに、度重なる再侵攻も確認されています。
このままでは、自国だけで対抗するのは極めて厳しいかと……」
「ミグルバが落ちれば、我々南側勢力の安定は揺らぐ。
それどころか、魔人連合国と国境を接する事態になりかねない。
そうなれば――最悪の場合、国民感情を抑えきれず、
全面戦争に発展する恐れもある」
その言葉に――
会議室が、どよめいた。
「……今思えば、三年前の防衛戦は“成功”などではなかった。
ゴブリンロードは討ち取れていない。
敵は目的を達成し、撤退した――ただ、それだけの話だ」
「八英傑筆頭――勇者クラフトをはじめとした看板戦力四名を投入した作戦だ。
それが“失敗”に終わったと公表すれば、
魔人どもへの恐怖は抑えきれなくなる。
――だからこそ、あの時の会議で“成功”とした」
「だが、その結果――
国民は本気で信じてしまっている。
その気になれば、我が国は魔人連合国にも勝てる、と。
それに加え、防衛戦で家族を失った者たちや移民が、
敵意をさらに増幅させている」
⸻
何十年か前までは――
この認識は、決して間違いではなかった。
魔人連合の明確な弱点は、数と統率力。
個の力では人を凌駕するが、繁殖力には決定的な差がある。
そして何より――
人のように“悪魔に近づく”ことができない。
だが。
数年前から状況は一変した。
個の力に加え、戦略と統率力。
さらに、竜種という一騎当千の最強種が加わった。
――構図は、一気に逆転し始めたのだ。




