33話 気後れしちまうよ
「シグサ・・・・・・うちの村にそんな名前の子供は居ませんよ。」
その夫婦は、何も覚えていなかった。灯りの弱い一軒家の玄関で、床が軋む音だけが残る。
黙り込んだ彼女は感情を必死に押し殺していたが、暗い廊下の角から覗く少年を目にした途端、せき止められた想いが溢れ出す。
音もたてず頬を伝う涙を手で覆うこともしないで、その痛々しい無表情のまま立ち尽くす彼女。それに駆け寄る夫婦を前に、俺は拳に力を入れた。
不甲斐ない、情けない悔しい苦しい。俺はいつも通りそう思って助けを待つのだろうか?
そんなのが許されるはずがない。責任も役目も、今は俺に託されている。
大口叩いてシグサを連れ出したんだ、もう少しくらい粘らないとだめだ。
(俺にしか・・・出来ないことだ!!!)
「少し、下がってください。」
「お、ああ、分かった。・・・ぬぉ!あんた何をしてるんだ!?」
夫婦を下がらせてシグサの前に立った俺が急に剣を引き抜くのだから、驚くのは当然だ。だが、見知らぬ少女として抱きしめられ、更に傷つくシグサを目の当たりにした俺には、その夫婦に優しさを振りまく余裕は無かった。
「静かに・・・してください・・・!」
「──ひえっ!!」
五感を全て遮るようにして、極限まで集中する。
「・・・・・・・・・『感覚』・・・『共鳴』・・・!!!」
深く、大きく呼吸した俺は、その目を大きく見開いた。
「・・・なに・・・目が、金色に光って───!!」
「──『憂いを断ち切る魔法の剣』。」
────────!!
────
「・・・・・・シグサ・・・姉ちゃん??」
「っ──!!」
「シグサ・・・なのか・・・?」
「ぅっ…くぅぅ……!!」
両親と小さな男の子は、全てを思い出したようだ。ついに膝をついて震えだした彼女だったが、その意味は今までと全く違っていた。
初めて見せる心からの安堵、頬を伝ったまま色を変える涙に、剣を納めた俺は圧倒的な幸せを噛み締める。
「行きたいところがあるんで、しばらく外の連れと散歩してます。この村のお土産屋さんとか・・・名物料理店とか!」
ノブが固く、やけにうるさい扉をしっかりと閉めた俺は、そわそわしながら動き回る小動物を二人連れて歩き出した。暗くなった道はオリエンタルな灯りに照らされ、一風変わったお祭り気分だ。シグサの家族が記憶を取り戻したことを伝えると、二人は自分の事のように喜んだ。
(全く、良い奴ばっかりだよ。・・・まあ今は、何も考えず楽しむか!)
「はいっ!こちらがこの村名物の、『シューティングスター☆オアゲ』ですっ!!」
「これ・・・きつねうどんだな。横に添えられているのは・・・げえっ!!」
調和がとれていたはずの椀に、圧倒的な存在感を放つ天ぷらがトッピングされていた。
「せ、先輩????」
「はぁぁ。・・・それ、全部こっちに寄越してくれ。俺が食うから。」
顔を見合わせた二人は、俺の皿に虫を移すことなく、固唾を飲んでこちらを向いた。
「せーので食べるよ!絶対だからね!」
「良いんだな?」
「「「せーのっ!!」」」
今度は三人で、顔を見合わせる。
「これ、すごく美味しいっスよ!!」
「・・・本当だ!俺の飯と同じ位美味い!!」
「それ、自分で言うんだもんね・・・。明日、シグサちゃん連れてもっかい来ようか!」
そんなこんなで食事を終えた俺たちは、ミコという人物が営む土産屋にやってきた訳だが・・・
「なぁミコ。今日はちゃんと売れたんだろうな?もし在庫が余ってるなら、やっぱり俺がなんとか───」
「──余計なお世話よ!ミカドの助けなんて少しもいらないんだから。アンタはそこで喋ってるだけでいいの!!」
ミカドとミコはかなり仲がいいみたいだ。話がひとしきり済んだようなので、三人でしれっと店に近寄った。
「これ・・・巫女服だな。」
「え!!名前知ってるの!?私が創ったからミコ服って名付けたんだけど・・・」
「あ、ああ!まあな!・・・じゃ、記念に一つ買っておこうかな。・・・って、代金安すぎだろ!」
誤魔化すようにして手に取ったミコ服だったが、質感がすごく良かった。希少価値は相当高いはずだし、ケチな俺が十万はくだらないと本気で思ったんだが・・・
「手織りにしちゃ精巧に出来過ぎているし、千ゴルドは割に合わないだろ。」
「代金は安くても良いの。その代わり、大事に使ってよね!」
「っはは。ほんと、気後れしちまうよ」
俺は思わず感嘆の声を漏らす。
たとえ裕福な暮らしが出来なくても、良心が飛び交うことで皆が幸せを掴んでいるという訳なんだろうか・・・。
(この村には、また来たいな。)
俺は鞄から一つの石を取り出し、ベンチに座るミカドに差し出した。
「さっきの案内のお礼に、受け取ってくれないか。換金してもらって構わないし、要らなかったら捨ててくれ。(・・・あと、ミコさんのこと、大事にしてやれよ?)」
「なっ!!お前!!」
「そんじゃまた!!揚げ蛍、食ったら美味かったよ!」
手を振りながら去り、シグサのいる一軒家に帰る。なんやかんや泊めてもらうことになり、シグサも合流して四人、和室(?)に寝袋を敷いて頭を寄せ合う。寝袋が足りずに俺だけ雑魚寝なのは、単純にじゃんけんで負けたからだ。まさか、シグサまで最初がパー確定のお茶目さんだとは思わなかった。
「シオト・・・その・・・ありがと。おかげで私は───」
「──お礼をしたいならその耳とかさわらせてほし──あだぁっ!!」
三人同時に枕で叩かれた。なんでこいつらそういう時に息ピッタリになるんだ。
「・・・でもアンタ、どうやったのよ?私、もうだめだと思ったのに・・・」
「奇跡は起こるもんだよ。やっぱり。」
「答えになってないっスよ・・・。まあ、私もそう思うっスけど。」
「ふふっ。私も!」
軽く結ばれた純白の髪をおろした彼女は、はにかんで笑った。
「・・・まあ、そうかも!」




