32話 今なら絶対大丈夫
『霊技:忘却』によって自分の世界に閉じこもっていた少女「シグサ=ノービス」を連れ出し、彼女の両親が住む村へと歩を進める。
「先輩が消えたり現れたりしてると思ったら、いきなり戻ってきて、その上こーんなに可愛い女の子も一緒にいたんスから、驚くのも当然っスよ!!先輩にはもうちょっと自重して欲しいっスね!!」
シグサの頭を好き放題に撫でているアリスは、何故かキレ気味だ。
「何を自重しろってんだ・・・っというか!アリスこそ自重しろよ!さっきからモフモフモフモフ、シグサの頭ばっかさわりやがって。」
「私らはシグサちゃんに許可取ったから良いの!それにしてもこの耳と尻尾、本当にモフモフね。」
「あんたらねえ・・・もう、結構緊張したのが馬鹿みたいじゃない。・・・・・・ほんと、変な人たち。」
ラウラも加わり、両側から引っ付かれた彼女は呆れ気味に溢す。
「でも、嫌だとは思わない。」
「う、うるさいわよっ!!」
俺がニヤニヤしながら煽ると、百点満点のリアクションを返すシグサ。ラウラやアリスとも上手く馴染んでいるようで、微笑ましい限りだ。
黄金の草原を抜けるまでの間も、元々パーティーメンバーだったかのように自然に会話することが出来たように思う。尖った口調の中にも愛を感じる、すごくいい感じの女の子だ。
(・・・だからこそ、もう悲しませたくはないんだが・・・)
草原の色が大きく変わっている境に立って振り返る。
草の緑と魔物の姿が戻らない草原を見たシグサは、案の定顔を落とした。
「シグサ。俺をあの世界から出すときは、どうやってたんだ?」
「何かを『忘れる』には時間がかかるから、早いうちに解除すれば元に戻るの。・・・でも・・・」
「なら、ぱっぱと解除しに行こう。・・・絶対、何とかなるから。」
彼女の暗い顔を遮るように、俺は言葉を被せた。
「・・・・・・うん。」
頷いた彼女に笑いかけて再び前を向くが、俺は顔をしかめざるを得なかった。
おそらくだが、長い間あそこにいたものは全て、存在そのものが不安定なのだ。シグサの説明した通り、ものを『忘れる』のが基準であれば、元々存在が希薄である魔物や草花が戻ってこないのにも合点がいく。
だが、問題なのはそこではない。
霊技を喰らってすぐの俺でも、彼女と何度も接触しなければ思い出せなかった。時間経過で悪化するなら、彼女の両親の記憶は・・・
(・・・・・・頼むから、覚えていてくれ・・・!!)
心配を表に出さないよう努めながら、傾いた日が照らす村に入る。
和風、とは少し違うが、それに似た伝統を感じさせる変わった雰囲気の村だ。
「よお、旅の方。ゆっくり休んで行ってくれ。あ、名物料理って看板出してる店には近づくなよ?どいつもこいつも自分の料理が名物だあ、つって奇抜なことやったもん勝ちみたいなノリになってっから、光る虫とか食わされるぞ。で、ミコってやつが開いてる土産物屋なんだが・・・・・・やっぱ何でもねえ。楽しんでけよ!」
活発そうな青年が話しかけてくれたが、やはりどこか和風テイストが入ったような服装をしているようだ。役人も刀らしき武器を腰に下げているし、修学旅行っぽくて少しテンションが上がる。少し照れ気味に話していた土産屋には、後で絶対に行こうと思った。
(けど今は、彼女が最優先だ。)
シグサの案内で、村はずれの家屋にやってきた。朽ちた板が剝がれかけており、廃屋と言われても納得する程に年季が入っている。
「ほらここ、表札に『ノービス』って書いてあるっス。灯りは点いてるし、中にいるっスよ!!・・・って、シグ姐さん?」
「うぅ・・・・・・。」
シグサは制服の裾を掴んで、俺の背中に隠れている。まあ、緊張も恐怖もあって当然だ。記憶が全て消え去っていて、拒絶される可能性すらあるわけだし、もし真実を告げることで両親の関係に亀裂が生まれたら、今まで彼女が思い悩み、痛む胸を、会いたい衝動を抑えて耐えてきた日々が台無しになってしまうかもしれない。
(そんな彼女に、俺は何と言葉をかけたら良いんだ・・・)
震えるその手を握れないでいると、俺よりずっと小さな手が近づき、シグサの手を包み込んだ。
「大好きだから、大切だから悩んできたんでしょ?それなら、ちゃんと伝えた方が良い。気持ちを伝えるのって結構難しいけど、今なら絶対大丈夫。・・・・・・(このばかがいる時は、そういうの大体何とかなっちゃうから。)」
ラウラの言葉で、シグサの表情がガラリと変わった。アデルさんとの一件を想起させるラウラの言葉には、胸に直接振動するような重みがあり、シグサの心に強く響いたのだろう。
最後に耳元で何を囁いたのかは知らないが、家屋の灯りをまっすぐに見つめるその瞳には、熱を持った勇気が垣間見えた。




