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29話 これでチェックだ

「半泣きの女の子、ここにもいた。君が誰かは・・・もう知ってる。」


「っ──!!」


彼女は複雑な顔でこちらを睨んでいる。しかし、一番最初に彼女が見せた悲しげな表情も、感情の色がついた言葉も、もう忘れない。


「・・・要件は分かってると思うけど、敢えて言うよ。」

「・・・」


俺のやることは、俺よりずっと細い肩の彼女にしてやれることは、ナンパみたいにしつこく、少々暑苦し過ぎるテンションで話しかけることくらいだ。


「ボードゲームやろう。」


「全部・・・思い出したの?」


「ああ。君のことは、もう忘れない。一個知ってるのがあるんだったな。それをやりに来た。」


俺が全てを思い出したことが分かると、なにか決意をした様子で落ち着きを取り戻す。


「・・・・・・やったら帰って。ここにはもう、来ないで」


やる気になったみたいだ。まずは第一歩だな。だが、もう後戻りはできないらしい。



「・・・分かった。一度帰った後は、君が望まない限りここには来ない。これで『チェック』だ。」


「そのようね。」


「じゃあ、ルーンチェスな。知ってるだろ?『チェック』ってチェス用語だし。」


ラウラの家に泊めてもらっていた時に、「親子でやる遊びはチェス一択よね」と話していたな。

どうやらこの子が知っているのはチェスのようだし、あの表情から考えるに親子がらみの悩みをかかえているのだろうか。もしそうなら、チェスをやっている内にここの真相に近づけるかもな。草原に直でチェス盤をおき、駒を動かす。


「ちなみに、金色の草原って見たことある?」

「ない・・・けど。」


あの草原はこの子が引き起こしたもので、奇妙なものなのかもしれない。だが、俺はあの景色を、この子が見たことがない景色を、どうしても見せてやりたい。

彼女が望んでこの場所にいるなら、俺のやっていることはただのお節介かもしれない。だが、とうに希望を捨てているような表情の彼女を、放っておきたくない。


「悩みなんか吹っ飛ぶくらい良い景色だから、いつか君に見せたい・・・って、めちゃくちゃ強いな!!」


元の世界では少しかじった程度だったんだが、俺は元々ゲームが得意だ。こっちに来てからはラウラと結構対戦していたし強い方だと思っていたんだが、この子も相当やり手で防戦一方だ・・・!

彼女は不敵な笑みを浮かべる。


「結構やるもんでしょ?」


上目遣いでニヤッと笑う彼女にドキッとしながらも、ちょっとした探りを入れていく。


「ああ。話したくなかったら良いが、前にやった時のことを教えてくれないか?」


「・・・いいわ。最後だし、話してあげる。・・・私の両親、私が物心つく前に死んじゃったの。で、拾ってくれた若夫婦と一緒に暮らしてた時に、いっぱいチェスで遊んでもらったの。それで上手くなったってわけ。」


「なるほどな・・・」


彼女は自分がうまいことには肯定的だ。チェスで遊んだのはいい思い出なのだろう。だが、チェスのことを思い出した時のあの顔から考えて、その若夫婦との間につらい出来事があったのは確かなはずだ。


「チェスってのは親子でする遊びだって聞いたよ。大事にしてもらってたんだな。」


「うん。本当の子供みたいに可愛がってもらってた。でも、私は本当の子供じゃなかった・・・」


あの顔だ。今すぐ抱きしめて慰めたい衝動に駆られるが、俺がそれをしてもどうにもならないだろう。もどかしさと悔しさが混ざると、自然と拳に力が入った。


「聞かせてくれ。その夫婦と、なにがあったのか。こんなデリカシーない俺じゃ、優しい言葉とかで君を慰めることはできないかもしれないけど、そんな顔して欲しくないんだ。」


そう言って駒を動かすと、彼女はゆっくりと話し始める。


「・・・・・・。・・・二人の間に子供が生まれたの。その時の私はすっごく喜んだわ。男の子だったから、弟ができたー、ってね・・・でも、そのうち分かったわ。貧乏だったその家族にとって、私は重荷だった。

それで、ママは私を学校に通わせようとして無理に働いて、パパはそんなママを見てられなくて、二人の仲がだんだん悪くなってって・・・」


ぽつぽつと語る彼女の瞳はセピア色に染まっていたが、泣きそうに揺れていることは分かった。


「だから、私のことなんか全部忘れて欲しいって、毎晩泣きながら祈ったの。そしたら、頭の中にイメージが湧いてきて、生き物の記憶とか、存在とかを忘れさせる『忘却』の霊技が使えるようになった。だから、私の存在に霊技を使ったの。・・・チェスでいうサクリファイスやギャンビットみたいなものよ。駒をわざと捨てて動きやすくする、私がそのポーンだったってこと。」


自分を捨て駒だと言いきった彼女は弱々しく笑う。


「んな・・・!!そんなことしたら、その夫婦は全部忘れちまうんじゃないのか!?」


「そう。その二人は私のことを忘れたら、すっかり仲良し夫婦に戻ったわ。それで気づいたの。世界に私の居場所なんてない、って。それでできたのがこの世界、




全部が全部忘れられた『忘却の世界』よ。」

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