28話 俺の思考パターンは単純だからな
「ボードゲーム、やんない?」
「は?」
「あ、もしかしてボドゲ一つも知らない?」
「知ってるのは一つだけあるけど・・・・・・やらない。」
彼女は複雑な表情をして口をつぐむ。
「どうせ暇だろ?結構面白いのいっぱいあるからさ。やろうよ。」
「やらない・・・!」
「そ?じゃあその知ってるっていうのやって、俺が勝ったらボードゲームをやる、負けたら大人しく帰るってことで───」
「──やらない!!」
風もない無音の草原に、高い声が響く。
なにか嫌なことを思い出したのか、彼女は涙をこらえるように下唇を噛み、ひどく悲しそうな顔でうつむいた。俺はそんな彼女にそれ以上何も言えず、
「・・・他に用がないなら、もう帰って。」
こちらに向けられた、か弱く震える彼女の手のひらを見て、ただ悔しいと思った。
「・・・全部忘れて、普通の日常にもどるの。・・・さよなら───」
「っ───!!」
・・・
・・・・・・
「──ト─、───オト─!───起きて、シオト。」
「ハッ──!?・・・ああ、朝か。」
「珍しくお寝坊さんっスね。いつもは早起きして素振りなんかしてるのに。」
確か、二人の安全を考えて番をしようと思ったはずなんだが・・・昨日は結局疲れて寝てしまったんだろうか。
「なんか夢を見てた気がするんだが・・・覚えてないや。朝飯にしよう」
テントを出ると、一瞬の一瞬別の景色が脳裏をよぎった。
「うぅぅむ。」
「どうしたの?」
小さな坂の上からラウラが声をかける・・・が、なーんか見覚えあるような・・・?
「気のせいか。・・・
とは、いかないよな!!」
昨晩俺は夜通し番をしようと思っていた。
思っていたなら、それからすぐの記憶が無いことも、朝起きるのが遅かったこともおかしいのだ。
疲れると眠くなると言っても、限度があるだろう。俺は自分の感覚には多少自信がある。昨日の健康状態に異常はなかったし、野宿生活を送っていた時は疲れ果てて寝ても決まった時間に起きていた。
そしてもう一つ、割と強く徹夜しようと思っていた俺が、一晩も起きていられないなんてことがあるだろうか。
異世界に来ても体内時計が狂うようなことはなかったし、原因は環境の変化でも疲れでもなく、この奇妙な草原と関係する『何か』だと考えるべきだ。
何か変わったことは無かったか?
思い出せ!!考えろ、考えろ!!
色が変わった草原、記憶の違和感・・・
・・・夢・・・
あともう少しなんだ・・・!もう少しで・・・!!
「せんぱーい!!ここの草はマナを通すと丸まって、もうちょっと通すとパリンって割れるんスよ!!だからこうやって・・・ほら、サイドテールっすよ!!───」
──その瞬間、会ったこともないはずの少女の顔が鮮明に浮かぶ。
赤い草原とセピア色の空、消え入りそうな少女。一枚絵のようにはっきりと、その景色が蘇る。
俺はあの子を・・・笑顔にしたい・・・!!
目を閉じて感覚を研ぎ澄ませ、開く。
そこには、見たことのない、しかしはっきりと覚えている景色が広がっていた。
「なっ!アンタ、どうして!!?」
「・・・・・・君が誰だか分からないが、ここについて何か知ってたら教えてくれ。」
「っ──!!私は・・・!」
小さな坂の上の少女に一言聞くと、彼女は明らかに動揺していたが、しばらくして、深呼吸した少女は落ち着きを取り戻し、不自然な笑みを浮かべる。
「し、心配しないで。私が記憶を消すから、あなたは全部忘れて元の世界に戻るの。いいわね?」
「うあぁあちょっと待った!!」
差し出される彼女の手のひらから逃げるようにのけぞる。
「・・・!・・・なに?」
「一個聞かせてくれ。ここには君一人なのか?」
「そ、そうだけど。」
「・・・ボードゲーム、やんない?」
「っ──!!?・・・なんで?」
彼女が動揺するのは、多分俺とここで会って同じことを言われた後に、記憶を消したからだろう。俺の思考パターンは単純だからな。
だが、そんなことはどうでもいい。今は本心をぶつけるだけだ。
「何故かは分からないが、俺は君ともっと話したいし、何よりも・・・君の笑った顔が見たい。すっごく。」
彼女は驚きを隠しきれずに絶句している。
「だからさ、頼むよ。って、待った待った!!うわあっ!!──」
────────
────
・・・
───────
「・・・・・・君が誰だか分からないが、ボドゲやんない?」
「っっ──!!」
───────
「君が誰だか分からないけど、無性にボードゲームが───」
「──なんでっ!!」
───────
「何かの縁だし、ボードゲームでも───」
「──なんでよっ!!」
───────
──────────────
・・・泣きそうなラウラとアリスがこちらを見ている。
「先輩!!どうしちゃったんスか!!?いきなり消えたと思ったら急に現れて、同じようなこと何回も言って!!」
「・・・ははは、悪かったよ。やりたいことがあるんだ。もう何回か気絶するかもだけど、必ず帰ってくる。」
「ほんとに?」
「ラウラ、子供みたいだな。本当だとも。絶対帰ってくるから、待っててくれ。」
───────
セピア色の空の下に、弱々しく膝をつく少女が一人。
「はぁっ、はぁっ、なんで!どうしてあんなに何回も来てっ・・・!
どうして私!・・・嬉しいなんて思っちゃってるのよ!!!」
・・・
「・・・半泣きの女の子、ここにもいた。
・・・君が誰かは・・・
・・・もう知ってる。」




