20話 シャキッとしてください
地中から音が迫り、俺たちの前の地面が大きく盛り上がる。
「なんだ・・・こいつは・・・!?」
なにかブヨブヨしたものが、床を飲み込んで姿を現す。
「っ──────!!」
グロテスクな肉塊は、瞬く間に空間を覆い、来た道をピッタリ塞いでしまった。
こちらに向いた肉塊の先端はおぞましい音を立て、
鋭い牙を剥きだした!!!
「───こいつはまあ・・・。走るしかないよなあああ!!!」
遅く見える動作だが、その巨体ゆえに進む距離が遠く、俺たちが全力疾走するのと同じくらいの速度で迫ってくる。
「まさかあいつ、蚯蚓か!?」
「あんな巨大なワーム、見たことないよ!!」
「見た目はイートワームそのものっス!!口に入るものを何でも取り込むことだけを目的として生き、急速に成長する魔物っスけど、最初はルーンペンにも満たない大きさで天敵も多く、うまく生き延びて大きくなったとしても、せいぜい直径が十センチ、長さは一メートルってとこっス!!このサイズは規格外すぎっスよ!!緊急脱出のルーンを───」
緊急脱出のルーンは、設定した位置の方角に、しっかりと矢印を向けている。消耗品だが、使用すれば一瞬で脱出できる。しかし、
「──待ってくれ!!」
「どうしたんスか!?」
「急速な成長に限度がないなら、こいつもみるみるでっかくなるんだろ!?それなら天敵になる魔物は減る一方だし、どうにかしないと手遅れになるんじゃないか!?」
二次関数的に肥大するこいつは、一日でも放っておけば悲惨なことになるだろう。こいつを今止めない限り、町に甚大な被害が出ると考えられる。
「・・・・・・だけど、もし二人の片方でも死んじゃったら、私は!!」
ラウラの言う事はもっともだ。俺だって、二人には死んでほしくない。だが───
「俺は残るよ。あの町に被害が出るかもって思ったら、見過ごす気も失せる。あの町の人々に比べたら、俺の命なんて軽いもんさ。」
「シオトの命が軽いって・・・、ふざけないでよ・・・!!」
ラウラの瞳に涙が滲み、初めて見るラウラの本気の表情に胸が締め付けられる。
が、ここは下がれない。半泣きの二人に笑いかける。
「秘策があるんだ。失敗したら俺は死ぬけど、成功させてみせる。二人は足手まといだから、下がっていてくれ。」
「そんなこと言って突き放そうとしても無駄っス!!一緒に帰るっスよ!!」
アリスも泣きながら抗議する。彼女の震える唇に、俺まで泣けてきそうだ。だが、引き下がるわけにはいかない。
「簡単な話、俺は良い奴じゃないんだ。で、ここで俺が会った人達はみんな良い奴だった。だからさ、みんなには死んでほしくない。ここでちょっとでも巻き返させてくれ。」
誰もが持っているであろう、結構汚くてしんどいが、そう思ってもどうも改善されないような部分。自分や周りのそういう部分に嫌気がさしていた俺だが、こっちに来てからというもの、あまりそういうことを意識するようなことが無かった。そいつらのためであるなら、俺は命を懸けてみたいと思った。
覚悟を決めた俺を眺め、二人は走りながら黙り込んだ後、口を開く。
「先輩・・・・・・私も残るっス。」
「もちろん私も残る。どんな理由があっても、シオトの命は軽くなんてない。後でお説教するから、覚悟しておいてね!!」
本来なら、ありがたい台詞を言われたところで、二人の命を危険にさらすような真似はしたくない。・・・だが、正直俺よりこいつらの方が強いし、更に正直に言えば一人でやるよりずっと心強い。
「後で、ね。・・・分かった。二人とも筋金入りのお人よしなんだな、全く。・・・成功率を上げるために、情報が必要だ。ラウラはできる範囲で攻撃、アリスはできる範囲で俺に敵の特徴を説明しながらできる範囲で支援を頼む!」
「『できる範囲で』は不要っス!シャキッとしてください!!」
「すまん・・・。じゃあ、行くぞ!!」
踵を返し、巨大蚯蚓と相対する。
「ダメもとで閃光を使ってくれ!」
瞼が眩しく見えるほどには激しい閃光が、蚯蚓の至近距離で炸裂したようだが、動きに変化はない。
「やっぱり効かないっスね。あいつは視覚がなく、光も認識できないっス!!目つぶし系の技はもちろん、光を使った幻術も効かないっスよ!頭の司令塔を壊せば倒せるから、攻撃してみるっス!」
「了解!!───って、斬ったそばから元通りになるんだが!?こいつ、回復してやがんのか!!」
どれだけ斬り刻んでも、驚異的なスピードで再生していく。
「精霊を見た感じ、回復というよりは活動加速っス!!皮膚から地中のマナを吸い取り全ての活動を活発にしているみたいっスね!!私たちを狙う理由は、土や岩よりマナが多いからでしょう!!」
攻撃するよりも再生する速度の方が速いとなると、削りきるのは不可能だろう。
「・・・・・・なるほどな。・・・二人とも、後でお詫びはするから、協力してくれないか。」
「何言ってるの。協力するに決まってるでしょ?」
「良いんだな?」
二人は固唾を飲んで、覚悟を決めたようだ。
「いつでもいいっスよ・・・!」
蚯蚓のくせに牙をもった魔物は、威嚇するような脳も持っていないだろうに、ガチッと音を立てて口を閉じる。
「右側の唇を集中攻撃して、口内に入る!!」
「口内!!?・・・・・・でも、勝てるのね!?」
「ああ!多分!!」
「多分ってなんスか!!・・・まあ、死なば諸共っス。凍結氷柱砲・収束!!」
「ふぅぅぅ・・・我流:疾風剣・・・!!」
ラウラの氷柱が着弾したのを確認してから、風魔法を腕と剣に纏わせ、無我夢中で斬りつける。集中状態を維持しないと暴発するほど繊細な技だが、制御できれば圧倒的な速度で斬撃できるようになる。感覚ぐらいしか取り柄のない俺が編み出した、我流の連撃という訳だ。
「合わせるよ!!はああああっ!!」
俺が攻撃するのと互角以上のスピードで連撃を加えるラウラ。
魔法も使わずこの速度、チートか・・・!!・・・だがまあ、心強い限りだ!
ガキッと痛烈に音を響かせ、人よりおおきく肥大した牙が折れる。
「崩せる!───今だ!!!」
分厚い唇を一気に削り取り、ラウラと合わせて剣を突き立てたタイミングで、三人が口内に飛び込む。その次の瞬間には、巨大蚯蚓の唇は再生し、口は牙の檻と化していた。
「閉じ込められちゃったっス!!こんな状態からどうするって───うわぁあ!!」
「しっかり摑まってろよ?」
二人を片手で抱き寄せる。肉塊に斬撃を加えて剣を納め、急速に再生する傷口に・・・腕を突っ込む!!
肉壁に腕が埋まり、絞るような痛みが襲う。
「くっそ痛ェが・・・いくぞ!!感覚を・・・共鳴させる!」
痛む腕に意識を集中させ、激痛を覚えながら叫ぶ。
「精神支配・微弱!!!」




