10.なんなのアイツら
荷物を置きすぐに部屋を出ようとすると
「ちょっとゆっくりしたいでヤンス」
スライムの癖に生意気な事を言い出す。肉体的な疲労などあるはずがないのだが、、
まあ、知力もあり意思もあるのだから精神的に休みたい、とか、ゆっくりしたいと思うのも当然の事かもしれない。
「そうだな」
部屋の中は、それなりに広い。
ベッド2つにテーブルと椅子が置いてあるだけという事も、部屋を広く見せている要因だろう。
これだけの広さがあれば風呂も創れるな。
先程まで何も無かった空間に突如風呂が現れた。周りの岩肌の見た目と合わせた、まるで洞窟の中に温泉が湧いているかのような風呂である。
「オイラも入るでヤンス」
いつの間に服を脱いだのか、裸になって目をキラキラと輝かせているヤンスが後ろに立っていた。
「あぁー。いい湯だ。洞窟の宿屋ってのもいいもんだな」
「いやいや、親分様々でヤンスよ」
そんな会話をしながら風呂を楽しんでいると。
トントン。
部屋をノックする音がする。
「ヤンス出てこい!」
「嫌でヤンス。これは譲れないでヤンス!」
気持ちは分かる。入ったばかりなのに1回出て色々やってまた入るなんて、まあ面倒だ。
この際風呂に入ったままでいいだろう。
「どうぞ!」
「お邪魔するわ」
ドアが開き、白猫が入ってきた。白猫はこちらを見るなり驚きを隠しきれずに「はぁー?」と、声を上げ、、無かった。寸前で我慢したのだ。必死に冷静さを保ちつつ
「ごめんなさい。食事は無し、外出は自由と言うのを伝え忘れたわ。それだけよ」
と言い放ち、足早に部屋を出た。
彼女、白猫のサーシャは困惑していた。この洞窟の中で魔法を使う事などできるはずがないのだ。この洞窟の岩は乱魔岩と言う岩でできており、その名の通り魔力を乱す岩である。
乱魔岩や乱魔樹といった魔力の流れを乱す物質に囲まれていながら通常通り魔法が扱えるなどあり得ない。いや、熟年の魔道士であれば、魔法を使う事は可能なのかもしれないが、普段の1割の力も出せないだろう。
そんな中で、あんな物を作れるなんて馬鹿げている。
土創世魔法の微妙な力加減、水と火の混合創世魔法。乱魔岩が無い状況でも、そんな事ができる人は多くはいない。
サーシャはカウンターの上に丸くなりながらそう考えていた。
「そろそろ昼だよな」
「そうでヤンスね。ご飯でヤンス!」
そんな話し声が聞こえてきた。何となくそのまま話を聞いていると、不思議な話をしている。
「そういえばお前飯食う時楽しいの?」
「楽しいでヤンス。親分に味覚付けてもらってから食事するのが楽しみでヤンス!まあ、必要では無いんでヤンスけど」
といった内容である。サーシャはこの人達は頭がおかしいのかと思った。人間でも魔物でも動物でも食事は必要である。
普段何事にも無関心な自分が、この2人に興味を持っているのだと気が付いた。
興味はあるが、目的も何も分からない以上危険人物には変わり無い。急に何か不安になってきた。
「んじゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
定型文のような挨拶を交わした後、サーシャもすぐに洞窟を出た。向かうは『パステノス自警団』名前はイマイチだが実力はピカイチである。
丸太をただ乱雑に積み上げた小屋。看板には『BAR パステノス』と書いてある、看板も丸太でできている。テーブル椅子ももちろん丸太だ。
サーシャが小屋に入ると中から2mはある大男がでてきた。
炭鉱族のゴードンだ。ゴードンは自警団のリーダーであり、優秀な戦士兼武器職人だ。
「おう!サーシャか。引きこもりが出てくるなんて珍しい。明日は大雪かね」
なんて、茶化されたがサーシャは相手にしない。
「私の宿屋で魔法を使った奴がいるわ。部屋の中に立派なお風呂を作っていたわね」
その話を聞いたゴードンは一瞬で真顔になる。サーシャの話によると敵対する意思は見せていないそうだが、自警団のリーダーとしては、万が一に備えておかなければならない。
「2人はカーニバルにいってるんだな?」
「ええ、間違いないと思うわ」
ゴードンはサーシャと共に、カーニバル会場へと向かった。
知識の泉は、知ろうと思った知識しか入ってこないご都合設定です。




