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『おばちゃん冒険者、爆誕! 〜60歳以上の限定ダンジョンで主婦業を極めたら、地域の生活インフラを牛耳ってました〜』  作者: れんれん


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5話

その日の夕方。


シズエとのぶ子がダンジョンから持ち帰った一升瓶入りの『幻の神級極上プレミアム出汁』の噂は、スーパーのタイムセール前の立ち話を発端に、波紋のように地域へと広がっていった。


「ねえカズちゃん、聞いた? シズエさんのところ、今夜のおでんのお出汁、料亭の最高級品なんですって」


『スーパーふじの』の野菜売り場。小林マサコ(68歳)が、長年培った鋭い眼光でキャベツの巻き具合を吟味しながら、隣にいた渡辺カズエ(63歳)の耳元で囁いた。


「あら、聞いたわよ! なんでも、のぶちゃんがトング一本で肩こりを治しながら仕入れてきたとか……」

「しかもタダよ、タダ! 買い出しついでに数分入るだけで、一生ものの調味料が手に入るらしいのよ!」


特売のネギを手にした二人は、顔を見合わせた。

主婦にとって「無料」「最高級」「家事の短縮」という三拍子が揃って、動かない理由などどこにも存在しない。

その夜、地域のおばちゃん連絡網は全開で稼働した。

昔ながらの黒電話から最新のスマホまで、あらゆる通信手段が火を吹く。

プルルル、と固定電話が鳴り、受話器を取る鈴木カヨコ(61歳)。


「もしもし、カヨちゃん? マサコだけど。明日ね、朝の掃除が終わったら『ふじの』の隣のギルド前に集合よ。シズエさんとのぶちゃんが手ほどきしてくれるらしいから。持ち物はエプロンと、一番頑丈な調理器具ね」


LINEグループ【立川・自治会婦人部(特売情報)】には、怒涛の勢いでメッセージが流れた。


『のぶ子:みんな、明日行きますよ! トングか泡立て器があると便利です!』

『カズエ:私、孫に美味しいオムライス作ってあげたいから絶対行く!』

『カヨコ:うちの中華鍋持っていくわ! 油跳ねガードなら任せて!』


主婦たちのネットワークは、軍隊の緊急招集以上の完璧さとスピード感で、瞬く間に「最強の討伐隊」を作り上げていった。

◇

翌朝8時30分。

(仮)立川第3ダンジョンの前は、いつになく殺伐として――いや、どこか和やかな熱気に包まれていた。

全身をゴツゴツした金属鎧で固めた若い男たちや、魔導書を抱えた魔法使いの若者たちが、門の前で大声で騒ぎ立てている。


「くそっ、今日も結界が開かない!」「Aランクの『赤き焔』パーティすら弾かれたってマジかよ!」

そんな重圧な空気が漂う中、堂々とやってきたのは


【結成メンバー5名】のおばちゃんたちだった。

全員が洗濯機を2回回し、ベランダに布団を干し、夫や家族の昼食を作り置きし――午前の家事を完璧に終わらせて集合した強者たちだ。


佐藤 シズエ(65歳):リーダー。買い物かごを肘にかけ、ペティナイフをウエストポーチに忍ばせる。

田中のぶ子(67歳):アタッカー。ステンレス製トングをカチカチと打ち鳴らし、準備運動に余念がない。

渡辺 カズエ(63歳):クラッシャー。「孫にオムライスを作るわ!」と、大型ステンレス製泡立て器を握りしめる。

小林 マサコ(68歳):スカウト。UVカットのサンバイザーを深めにかぶり、「魔物の鮮度と特売情報を見極める」と目を光らせる。

鈴木 カヨコ(61歳):ガード。実家のラーメン屋から持ち出した特大の鉄製中華鍋を盾代わりに抱え、「油跳ねも魔物の攻撃も通さないよ!」と胸を張る。


「ちょっとおい……あのババァたち、何しに来たんだ……?」

若い冒険者が呆然として呟く中、5人は気にも留めず「入場判定測定器」の前へ向かった。

シズエが先頭に立ち、慣れた手つきで機械の前に立つ。続いてのぶ子、カズエ、マサコ、カヨコが順に並んだ。


その瞬間――。

ピンポンパンポーン♪

スーパーの開店告知のような軽快なチャイムが周囲に響き渡った。


『対象者5名検知。適合条件クリア。適合資格:満60歳以上の女性(アクティブシニア層)』

『佐藤シズエ様、田中のぶ子様、渡辺カズエ様、小林マサコ様、鈴木カヨコ様。新規登録および入場を承認します』


測定器が眩いばかりのエメラルドグリーンに発光し、機械の吐き出し口から『ポコン! ポコン!』と音を立てて、カードが5枚連続で吐き出された。

金の装飾が施された、重厚感溢れる最高級プラスチック製の『特務冒険者証(ゴールドカード)』である。


「あら嫌だ、ゴールドカードなんて貰っちゃったわ。クレジットカードでも作ったことないのに」

カズエがカードを手に取って笑う。


「見て、裏に『有効期限:家事の合間』って書いてあるわよ」


マサコがサンバイザーを押し上げながらカードを突っついた。

そして――若手冒険者たちの攻撃を一切寄せ付けなかった漆黒の結界が、スーッと大型スーパーの自動ドアのように、滑らかに左右へ開いた。中からふんわりと、エアコンの効いた心地よい冷気が吹き抜けてくる。

「「「「「お邪魔しま〜す」」」」」

口々に挨拶しながら通り抜ける5人のおばちゃん。

「は……!? 入った……!?」「ゴールドカードが一発で出ただと……!?」

後ろで若手冒険者たちが泡を吹いて倒れ、ギルド職員が書類をぶちまけて大騒ぎしている。

しかし、シズエたちは振り返りもしない。


「みんな、準備はいい? 目的はプレミアム出汁の確保と、生活の質(QOL)の向上! 夕方のお迎えと『スーパーふじの』のタイムセールまでには絶対に帰るわよ!」

「「「「おーっ!!!」」」」


エプロンを戦衣に身を包み、買い物かごや中華鍋、泡立て器を掲げた5人のおばちゃん冒険者たち。家庭の食卓とお茶の間の平和を守るための、最強で痛快な「午前中の集中仕入れ作戦」が、今まさに幕を開けたのだった。

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