再び、城徳
再び、城徳
『本日の団体戦、準々決勝に出場する各校の監督、ならびに代表者は、大会管理室までお越しください』
場内放送が終わった。
五人がなんとなく小松崎を見る。
小松崎も四人を見る。
「……俺だよな」
「たぶん」
熊谷が答えた。
大島が立ち上がる。
「行くぞ、小松崎」
「はい」
やっぱりそうだった。
小松崎は赤いジャージを着ると、大島と一緒に大会管理室へ向かった。
山口は二人の背中を見送っただけだった。
朝から珍しく、余計なことを言わない。
拓真も何も言わなかった。
もうアップはほとんど終わっている。
あとは抽選が決まるのを待つだけだった。
*
大会管理室には、八校の監督と代表者が集まっていた。
小松崎にとっては、どこを見ても見覚えのある顔ばかりだった。
昨日、試合場で見た選手。
強いと思った学校。
勝ち残った者だけが、ここにいる。
その中に黒いジャージがあった。
「おう」
島田晋作だった。
城徳学園。
大島も軽く頭を下げる。
「島田先生」
「残ったな」
「なんとか」
島田は小松崎を見る。
「小松崎も、よくここまで引っ張ったな」
「ありがとうございます」
「昨日見てたぞ」
小松崎は少しだけ困った顔をした。
「見られてたんですか」
「全国大会なんだから見るだろ」
「そりゃそうですけど」
島田が笑った。
県大会では、あれほど大きく見えた城徳だった。
全国まで来てしまえば、同じ茨城の学校だった。
もっとも。
また当たりたいかと聞かれれば、それは別の話だった。
「できれば今日は当たりたくないですね」
小松崎が言った。
「俺もだよ」
島田はあっさり返した。
大島が苦笑する。
「お互い、ここまで来てまた県大会やることないですからね」
「ほんとだよ」
その近くには、高校空手を扱う雑誌の記者もいた。
昨日から何度か取材をしている記者だった。
「霞北高校さん、少しいいですか?」
大島が振り返る。
「はい」
「五年ぶりの全国大会出場でベスト8ですが、ここまで来ることは想定されていましたか?」
「いや」
大島は笑った。
「そんな余裕なかったですよ。一試合ずつです」
「小松崎選手は?」
突然振られ、小松崎が少し姿勢を正した。
「俺も……あ、僕も同じです」
島田が横で笑った。
「普段通りでいいぞ」
「うるさいですよ」
小松崎は言い直すのをやめた。
「昨日の最初の試合から、次のことなんてあんまり考えてなかったです。勝ったら次があったんで」
記者が何かを書き留める。
「霞北高校は、かつて全国優勝経験もある伝統校ですね」
「それは俺らじゃなくて、ずっと前の先輩たちなんで」
小松崎は答えた。
「俺らは俺らで、ここまで来ただけです」
少し離れたところで、抽選の準備が進んでいた。
*
そのころ。
残された四人は場内で待っていた。
「まだかな」
拓真が言う。
「抽選だけじゃないんじゃね?」
熊谷が答える。
山口は軽く脚を動かしている。
神戸は一度身体を伸ばした。
誰が来てもやる。
もう八校しかいない。
朝から何度もそう思っていた。
やがて、場内放送が入った。
『本日の全国高等学校空手道選手権、男子団体組手、準々決勝の組み合わせをお知らせいたします』
「あ」
四人が顔を上げた。
「もう出るの?」
熊谷が言った。
どうやら小松崎たちが戻ってくるほうが遅かった。
順番に学校名が読み上げられていく。
そして。
『――霞北高等学校、対、城徳学園高等学校』
「……」
拓真が瞬きをした。
山口も止まった。
熊谷が最初に口を開いた。
「城徳か」
神戸が短く息を吐く。
「またか」
県大会。
代表決定。
全国大会。
ここまで別々の道を進んできた。
なのに全国ベスト8で、もう一度。
城徳だった。
山口が黒い道着の一団を探すように、場内を見た。
加藤正輝がいる。
田川秀吉もいる。
近本。
田川秀長。
渡会。
知っている。
知っているからこそ、何も言う必要がなかった。
そのまま放送が続いた。
『ウォーミングアップ中の選手は、順次アップを終了し、観客席へお戻りください』
「戻るか」
熊谷が言った。
「はい」
山口が答えた。
四人は荷物をまとめ、場内を出た。
*
観客席へ戻ると、かなと栞がいた。
風呂もいる。
「城徳だってな」
風呂はいつもと変わらなかった。
「はい」
熊谷が答える。
「まあ、どこが相手でも一緒だ」
風呂はそれ以上、大げさなことは言わなかった。
「まずは自分の空手だぞ」
「はい」
それだけだった。
全国ベスト8だからといって、急に特別なことを教えてくれるわけではない。
むしろ、かなと栞のほうが変だった。
二人とも静かだった。
いつもなら戻ってきた山口に何か言うかなが、今日は荷物を確認している。
栞も試合場のほうを見ている。
明らかに、選手より緊張していた。
拓真は自分の荷物を置いた。
「あ、そうだ」
かなと栞を見る。
「朝の準備リスト、ありがと。役に立ったよ」
栞が振り向いた。
「そんなのいいから」
「え?」
「城徳戦なんだから、まず集中しなよ」
妙に神妙だった。
「……うん」
拓真も素直に答えた。
かながドリンクを一本差し出した。
「拓真」
「ん?」
「まだ空手戻って半年くらいだけどさ」
「うん」
「拓真だって、ここまで来たんだから」
かなは少しだけ笑った。
「自分のこと信じてね」
「……うん」
「はい、これ」
今度は軽食を渡された。
「食べられそうなら食べて」
「ありがと」
それ以上は言わない。
かなはすぐに熊谷や神戸たちへ飲み物を配り始めた。
「熊谷先輩、これ」
「ありがとう」
「神戸先輩も。あと試合まで時間あるから、食べるならこっち」
「うん」
配り終えると、今度はビデオの準備へ向かう。
栞も大島が戻ったらすぐ話せるように、手元の記録を確認していた。
拓真は二人を見た。
なんだ。
俺らより緊張してるじゃん。
少しだけ、おかしかった。
でも口にはしなかった。
風呂が隣で座っている。
いつも通りだった。
そのいつも通りが、今はありがたかった。
「来たよ」
栞が言った。
通路の向こうから、大島と小松崎が戻ってくる。
小松崎は四人の顔を見るなり言った。
「もう聞いた?」
「はい」
熊谷が答えた。
「城徳ですよね」
「ああ」
大島も合流する。
これで、霞北が揃った。
全国ベスト8。
相手は城徳。
茨城で一度届かなかった相手と、日本武道館でもう一度戦うことになった。




