第22話 ここまで
第22話 ここまで
全国大会二回戦。
神奈川県代表、横須賀学院。
先鋒、笹川。二年、中量級。
次鋒、山木。三年、軽量級。
中堅、長尾。三年、中量級。
副将、浜田。三年、中量級。
大将、松本。三年、中量級。
霞北は変えない。
山口。
拓真。
神戸。
熊谷。
小松崎。
試合場脇。
大島貴志が一年二人を見る。
「郁人。拓真」
「はい」
「前の試合、二人ともいいところはあった」
山口がちょっとだけ首を傾げた。
「俺もですか?」
「鼻血出させたところじゃないぞ」
「分かってますよ」
「本当かよ」
拓真が笑った。
大島も笑う。
「次は勝ちにいってみろ」
二人を見る。
「もう緊張してないだろ?」
「はい」
今度はすぐに返事が出た。
全国大会。
もう一試合やった。
一回負けた。
それだけで、さっきとは全然違った。
先鋒 山口郁人 ―― 笹川
「始め!」
山口が行った。
また行った。
今度も果敢だった。
そして。
また強かった。
拳が笹川に当たる。
「止め!」
山口への注意。
大島が額を押さえた。
「またかよ……」
山口は一礼する。
けれど。
一回戦とは違った。
固まらない。
そのまま構える。
再開。
今度は笹川が来た。
速い。
拳が山口に入る。
強い。
山口の顔が動く。
「止め!」
今度は笹川にも注意。
山口が相手を見る。
笹川も山口を見る。
互いに分かった。
――今日は、この辺まで。
それが正しい理解だったかは知らない。
ただ、二人の中では線が引かれた。
そこから高校空手にしては、ずいぶん強い当て合いになった。
笹川が来る。
山口も来る。
近い。
拳がぶつかる。
身体がぶつかる。
また主審の声が飛ぶ。
両者、注意。
「山口のせいで試合の空気変わってない?」
拓真が言った。
大島が横から、
「お前は真似するなよ」
「しませんよ」
その間に。
笹川が取った。
突き。
0対1。
山口が下がる。
残り時間を見る。
そこから急に雑になった。
「郁人!」
大島の声。
山口が詰める。
バタつく。
一歩。
また一歩。
どう見ても焦っていた。
笹川もそう思った。
前拳。
そこだった。
山口が両手を出した。
受けるというより。
笹川の前拳を、両手で捕まえるように止めた。
その瞬間。
身体が回る。
後ろ蹴り。
腹へ。
「赤!」
技あり。
二点。
2対1。
「うおっ!」
霞北側が沸いた。
山口が戻る。
そのまま時間。
2対1。
全国初勝利。
山口が戻ってきた。
拓真が言った。
「お前、K-1かよ」
「空手だよ!」
「今の見て空手って言い切れるのすげえな」
「二点だぞ」
「それはそうだけど」
山口は笑っていた。
一回戦とは違う。
全国で。
一つ勝った。
次鋒 佐藤拓真 ―― 山木
拓真が立つ。
相手は軽量級。
三年。
山木。
開始。
速い。
いきなり来た。
仕留めに来ている。
突き。
蹴り。
拓真が捌く。
また来る。
そして。
「っ!」
鼻。
まともにもらった。
痛い。
「止め!」
山木に注意。
拓真は鼻を押さえながら、一度下がった。
(山口のせいだろ、これ)
今日のこのコート。
ここまで当ててもいい。
そんな妙な空気を、先鋒戦で作ってしまった。
もちろん、本当にそんなルールはない。
注意されれば注意される。
でも、試合は荒くなっていた。
拓真は息を吐いた。
落ち着く。
山木を見る。
速い。
突きも。
蹴りも。
(分かんないよ!)
予備動作。
そんなもの見えるか。
いつ出る。
何が来る。
分からない。
だったら。
考えるのをやめた。
山木との間合いだけを見る。
近づく。
来るかもしれない。
(……今?)
拓真が先に出した。
中段。
入った。
旗。
「赤!」
1対0。
拓真自身が一番驚いた。
(取れた)
山木が構え直す。
また速い。
分からない。
だから。
相手に任せた。
自分から答えを探さない。
山木が間合いへ来る。
来るか。
来るかも。
(じゃあ、打つ)
左。
上段逆突き。
山木が出ようとしたところへ刺さった。
「赤!」
2対0。
拓真が戻る。
分からないままでいい。
分からないから。
相手が来る場所だけ見る。
終盤。
山木がもう一度攻める。
拓真は防御した。
はずだった。
それでも拳をもらった。
「痛っ!」
「止め!」
山木への注意。
二度目。
警告。
山木が礼をする。
拓真も構え直す。
残り。
わずか。
再開。
互いに一度動く。
決まらない。
「時間!」
2対0。
拓真が勝った。
全国初勝利。
戻る。
山口が待っていた。
「やったじゃん」
「お前のせいで鼻痛えよ」
「俺のせいじゃねえよ!」
「絶対お前が線引いた」
「何の線だよ」
「今日ここまで当てていいって線」
「審判が決めるんだよ!」
二人が言い合う。
その横で大島が笑った。
二勝。
霞北。
もう後ろ三人のうち一人が取れば、三回戦だった。
中堅 神戸寛 ―― 長尾
神戸は。
なんだか力が抜けていた。
長い前拳。
長い足。
入らせる。
外す。
また入らせる。
今度は取る。
1対0。
長尾も返す。
1対1。
それでも神戸は焦らない。
一回戦の5対0とはまるで違う。
無理をしない。
いなす。
待つ。
残り時間。
長尾が来た。
神戸が合わせる。
突き。
2対1。
そのまま終了。
三勝。
霞北の二回戦突破が決まった。
けれど団体戦は続く。
副将 熊谷桜太郎 ―― 浜田
熊谷も同じだった。
一回戦では押し空手。
巨体で前へ前へ。
5対0。
今度は違う。
来れば受ける。
押せるところだけ押す。
浜田が一点。
熊谷も一点。
1対1。
残り。
浜田が入る。
熊谷が少し身体をずらした。
巨体の陰から突き。
「赤!」
2対1。
終わり。
山口が首を傾げる。
「熊谷先輩、今日やさしくない?」
神戸が戻りながら言った。
「一回戦で疲れたんじゃない?」
「聞こえてるぞ」
熊谷が言った。
四勝。
残るは大将。
大将 小松崎堅介 ―― 松本
小松崎だけは。
最初から気持ちが入っていた。
「始め!」
牽制。
間合いを切る。
入る。
相打ち。
旗は上がらない。
また近い。
組み合う。
離される。
松本も強い。
小松崎も引かない。
山口の先鋒戦から始まったせいなのか。
この試合は最後まで荒かった。
強い接触。
潰し合い。
互いに譲らない。
それでも点が入らない。
残り十五秒。
0対0。
松本が動いた。
大振りの蹴り。
逆転ではない。
ここで決めるつもりだった。
小松崎がかわす。
そのまま前。
刻み突き。
松本が辛うじて身体をかわす。
当たらない。
でも。
体勢が死んだ。
普通なら一度切る。
小松崎は切らなかった。
追う。
「行け!」
霞北側から声が飛ぶ。
松本が逃げる。
小松崎がさらに追う。
コート際。
もう後ろがない。
小松崎が左へ振った。
松本が反応する。
逆。
脚が回る。
上段回し蹴り。
頭部。
「赤!」
一本。
3対0。
松本は勢いを止められなかった。
そのままコートの外へ。
二歩。
三歩。
崩れるように飛び込んだ先にいたのが熊谷だった。
「うおっ」
熊谷が受け止める。
松本が慌てて離れた。
「すみません!」
「大丈夫、大丈夫」
一瞬だけ周囲が笑った。
小松崎はコートの中。
構えたまま。
残り時間。
再開。
ほんのわずかに試合が流れる。
そして。
「時間!」
3対0。
礼。
小松崎が戻ってくる。
結果。
山口、勝利。
拓真、勝利。
神戸、勝利。
熊谷、勝利。
小松崎、勝利。
五勝〇敗。
霞北高校。
全国大会二回戦突破。
初戦は、一年二人が負けた。
先輩三人に全国初勝利を持ってきてもらった。
二回戦。
今度は全員が勝った。
山口が拳を上げる。
「完勝じゃん!」
「お前、注意取られてるけどな」
拓真が言った。
「勝ちは勝ち!」
「俺まで鼻殴られたんだけど」
「それ俺関係ねえだろ!」
大島が二人の頭を軽く叩いた。
「はいはい。まだ終わってない」
その言葉で。
五人が少し静かになる。
次。
もう一つ。
そこに勝てば。
全国ベスト8。
明日も日本武道館に来られる。
栞がトーナメント表を確認していた。
同じ山の先。
一校の名前が残っている。
沖縄県代表。
首里大付属。
空手大国・沖縄が誇る、形の名門。
そして。
組手でも全国を勝ち上がってきた学校。
霞北の一日目は。
まだ終わらない。




