二十五話目
数時間後。
お茶会が無事にお開きとなったので、父上とともに帰路についた。
少しだけ、警戒する。
その警戒も杞憂におわった。
無事に屋敷に帰ってこれたのだ。
家族の団欒の時間を過ごし、ノア殿下へ今日のお茶会のことを報告しようと手紙を書いた。
やがて、メイドたちによってベッドへと寝かされる。
寝たフリをして、その時を待った。
深夜、傍付きのメイドが交代した。
そして、
「おーい、起きてるか?
スレ主??」
声を掛けられた。
俺のことをわざわざ【スレ主】と呼ぶ存在は、限られている。
俺は、のそりとベッドから体を起こした。
【星灯】を発動させる。
ベッドのすぐ側に、メイドが立っていた。
よく知っている、俺の世話係の一人だ。
「こんばんわー、そしてリアルじゃはじめまして。
【スネーク】だ」
「……スレ主だ」
「あ、この顔はちょっと借りてるんだ。
俺の顔じゃないぞ。
魔法で顔を変えてるんだ。
大丈夫大丈夫、メイド本人に危害はくわえてないから」
信じることにしよう。
それより、まずは本題だ。
「上手くいったのか??」
「あぁ、もちろん」
スネークは頷きつつ、サムズアップする。
考察厨の提案はこういうものだった。
俺を監視していた人物を捕らえ、ボコったあと相応の場所に突き出すというものだった。
突き出す時に、リリ関連の情報もリークしたとのこと。
リークした情報の真偽に関しても、疑われないようまた別のカルト教団の情報も置いてきたとか。
さて、その相応の場所というのがどこかというと、
「龍皇様に直で渡してきた。
事前に色々調べてただろ?
その時に知ったんだけど、龍皇様としてもリリのことを怪しんで身辺調査してたのを知ってな。
なにも出てこなくて困ってたんだと」
愛人とはいえ、皇太子や皇族と親しくする人物は徹底的に調べられる。
ノア殿下の婚約者として俺が候補で上がった時も、当然調査されているはずだ。
少しでも後暗いところがあれば、友人にすらなれない。
それはそれとして、いきなり行ってご迷惑にならなかったんだろうか?
俺の表情からいろいろ察したのか、
「ちょっと暗殺者に間違われたけど、なんとかなった」
スネークは軽くそんなことを言ってくる。
ちょっと暗殺者に間違われて、なんとかなるようなものなんだろうか????
まぁ、なんとかなったならそれでいいけど。
「あとついでに、助言してきた」
「助言?」
「皇太子、やばい薬盛られてるか、精神操作の魔法掛けられてるかもだから、お医者さんにみせたほうがいいですよって」
「え、そうなの??」
「スレ主は気づかなかったかー。
あのさ、昼間の茶会のとき皇太子様が話しかけてきただろ?
あの時、皇太子様の様子が変だったんだよ。
こう、ちょっと夢心地というか、ぼーっとしてるというか。
くわえて、スレ主が見たリリと監視者達の会話で、リリが気になること言ってただろ?
だから考察厨が、俺についでに皇太子のことも調査させたんだよ」
最後は不満そうにぶつくさ言い始めたが、俺はなんのことかわからず聞き返した。
「なにか言ってたっけ??」
「皇太子様がフィアナ嬢との婚約を破棄するよう、約束させたって」
あぁ、そういえば言ってたなぁ。
スネークは説明を続ける。
「約束してもらった、でも、言質をとったでもなく、【約束させた】んだ。
これ、リリからなにか仕掛けをしてそう言わせたってことだろ。
で、よくよくお茶会の皇太子様の様子を観察してみれば、目の焦点はあってないわ、かと思ったらギンギンにキマってる時もあるし、会話もなんか微妙に噛み合ってないわで、あー、これ薬キメてそうだなって」
とにかく、ヤバそうという観点でも龍皇に助言してきたのだという。
どこの誰かもわからない馬の骨の言葉を、よく信じたものだ。
それがそのまま口から出ていた。
すると、スネークはあっけらかんと言ってのけた。
「そこはほら、集めた情報に信ぴょう性があったからだろ。
あぁ、そうだ一応言っておくと、お前のことはちゃんと伏せておいた」
「……」
「お前が気にしてるのは、それだろ?」
「別に気にしてたわけじゃない」
「……三歳の幼児が、私兵使って色々調べてるって思われるよりいいだろ。
今のところ、侯爵家の令嬢って地位と神童の評価が独り歩きしてるから好意的に見られてるけどな。
実はいろいろ嗅ぎ回ってて、三歳らしからぬ行動をしてるってバレたら、さすがに気味悪がられるだろうし」
「それも考察厨の考えか?」
「いんや、俺の当てずっぽう。
まぁ、そんなわけで今の龍皇様には【円環教団】と敵対してる謎集団がいて、俺はそこの所属ってことにしたんだ」
あながち間違ってないから、こういう嘘に慣れているのだろう。
いや、それよりも、
「私兵って、スレ民のことそんな風におもったことないけど」
というよりも、そもそも今回に限って言うなら善意で動いてくれたのがスネークだったというだけの話だ。
「主観と客観は別だろ」
「わかってるけど」
「まぁ、とにかくだ。
今の龍皇が色々動くだろうし、だいぶ最初の世界から色々変わったんじゃないか?」
スネークの言葉を受けて、考えてみる。
これで俺の知らなかった流れを変えることが出来たのだろうか??
少なくとも、ノア殿下の闇堕ちに必要だった人達の死は、避けられたと思う。
それ以外にも、この国を悪い方向へ向かわせようとしていた人物の一人であるリリも、なにかしら罰を受けることになるだろう。
皇族へ薬物を盛ったというのであれば、死罪か永久の禁固刑、つまり終身刑のかなり重いバージョンといったところか。
と、そこまで考えた時、遠くで何かが爆ぜる音が聞こえた。
窓をみる。
カーテン越しに、赤い光が瞬いた。
「なんだ??」
ベッドから飛び降り、窓へ近寄りカーテンを開ける。
すると、月明かりに照らされて赤い炎と煙が立ち上っているのが見えた。
ちょうど、庶民が暮らすエリアと貧民街の堺目のようだ。
「おっとー?
これは、突っつき過ぎたか?
いや、それにしては早すぎるような……」
いつの間にか横に立っていたスネークが呟く。
「あそこな、【円環教団】の教会があるとこなんだよ」
「!?」
マジか。
そこが燃えてるということは……。
さまざまな考えが浮かんでは消えていく。
やがて自分の口から漏れ出たのは、とても平和な考えだった。
「なら、これで終わり??」
この死に戻りのやり直し生活が終わる、そう思ったのだ。
しかし、スネークの考えは違うようで。
「情報が漏れたかねぇ。
そうすると、龍皇周りにも【円環教団】が入り込んでる可能性が高いな。
例の、表向き過労死イベントもあるし」
淡々とスネークは考えを口にする。
そう、そうなのだ。
これから龍皇は、過労死する未来が待っている。
いや、この場合は待っていたといった方が正しいだろうか。
でも、それは本当に過労死だったのだろうか?
もしも、だ。
それすらも【円環教団】による行いだったのなら……。
俺は、月夜に照らされる火事を見た。
もしも、だ。
もしも、龍皇が王宮が動くよりも早く向こうが動いたのなら……。
この火事は、【円環教団】が自ら起こしたものの可能性は否定できない。
なにせ、自分たちのためだけに何人死のうが、貶めようが気にしない連中なのだ。
俺は、赤黒い炎と煙が上がっている街をただ見つめることしかできなかった。




