↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルシアンの物見遊山 II【毎日更新/21:20】  作者: フジイさんち
雇用主、うきうき

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
73/116

【それはデー……】


結局その日の昼食は、旅宿通りの屋台を流しながら、気になったものを買ってみようかということになった。


通りには様々な屋台が立ち並び、焼物や小麦を練って蒸したもの、果物、温めた地酒、果ては菓子だけが並ぶ店まで、品揃えは数え切れたものじゃない。

しばし目移りをして、どうにも決めかねて、――ルシアンが隣の男を見上げる。こういう時は、鼻の利く護衛に頼るに限った。


「……文句言うなよ」

「ふふ、うん」


もはやお決まりの誓約を交わし、無造作に歩き出すガルドの背を、ルシアンが追う。


後ろをついてくる足音を耳にしながら、ガルドも時折立ち止まり、首を巡らせ、くん、と鼻を鳴らす。

山獣の内臓を使ったスープ……試してみてもよさそうだ。鉄板で焼いた卵を、チーズと一緒にパンに挟んだもの。これは恐らく外れもない。

山羊の串肉も一本。香辛料がよく効いていそうで、ルシアンにはちと辛いか。


手早くそれらを買いあげ、次々と後ろの男に手渡していく。どうせあとから果実水やら何やらも買うのだろうから、自分の担当はとにかく"飯"だ。


そのまま屋台脇の木のベンチに腰かければ、わずかに通りの喧騒から切り離された心地があった。装飾がされたアイアンの背もたれは、ガルドの身体でぎしりとかすかに鳴る。……小さな匙で、木椀から山獣のスープを掬い、それぞれに一口。



「……独特な味だ」

「んん……香草と香辛料で臭みを消しているんだね」



総評としては好き嫌いが分かれそうな味、といったところだったが、ふたりの口にはあった。

風もなく、秋の陽射しの下。屋台の呼び込みの声と、街路の隅をなでる落ち葉。

スープの具材を一口食べ、ふと思い出したように、ルシアンが隣に座るガルドに向き直る。


「ん、そうだ、書庫でね、竜の湖っていう場所の情報を見たよ。北側の森の中にあるって」

「…………」


――ガルドの顔に、あからさまに嫌そうな表情が張り付く。


「……"竜"にはあんまりいい思い出がねぇな」

「ふふ、そうだね。でも、そこは地名だけみたいだよ」

「へぇ……」


じり、と片眉を吊り上げつつ、ガルドが串肉をひとかけら食いちぎった。

隣を睨むような眼差しは、言ってみろ、という顔である。


「湖の底がね、地脈の支流の出口になってて、魔力が流れて来るみたいでね」

「……地脈も魔力もいい思い出がねぇな」

「ん、っふふ、でね、セレスにあった西の泉みたいに、湖が不規則に光るんだって。夜は綺麗みたいだよ」


警戒心丸出しの護衛と、それがなんともおかしくて、機嫌がいい魔術師。

黙らせるかのようにガルドが串肉を差し出せば、ルシアンも黙ってかぶりつく。


「……危険度は」

「ううん……」



ルシアンが肉を飲み下すのを待って、ガルドも具材を挟んだパンを食べる。


――というか今、こいつ俺の手から食べなかったか、と……はたとガルドが気づくが時すでに遅い。

ルシアンも何も疑問を抱いていないし、自分もまるで無意識だった。


「……ん、……危険とかはないと思うよ。街の観光地になってるみたい」

「観光地?」

「うん。明日の遺跡調査の依頼が早く終わったら、行ってみないかい?」


串の残りをかじりながら、ガルドは隣に視線を送る。

観光地、という響きにどこか引っかかりを覚えながらも、ルシアンの声音は終始柔らかい。

誘い文句というよりは、何気ない会話の延長だった。が、……それはデー……、……いや、いや違う、やめよう。


「……まぁ、道が荒れてなけりゃな」


かろうじて声色を保ち、短く答え、ガルドが木椀の底をさらうようにスープを飲み干す。一方のルシアンも、パンを両手で包むように持ちながら、満足げに口を動かしていた。

それを横目で見つつ、ガルドの思考が再び、ついさっきのアレに遡る。

空になった木椀に、串を入れて……、……いくら互いに無意識だったとはいえ、口にしていた串を差し出して――それを、なんの躊躇もなく食われた……。


(……何やってんだ俺は……)


いや、だが、あいつも平然としてたし、別に深い意味は……いや……。

否定しようとすればするほど、思考がどんどん余計なほうへ滑っていく。


咳払い混じりに立ち上がり、ルシアンの傍らに置かれていた空の木椀を手に取る。それを自分のものと重ね、先ほどの屋台へ戻る。

串の柄はゴミに放り、屋台の脇の返却棚へ。


「ごっそさん」

「あい、ありがとさん!」


店主が笑って見送るのに、軽く顎を引いて返す。眉間の皺は深い。

再びベンチへと戻れば、ルシアンも食事を終わらせて立ち上がっていた。こちらもゴミをまとめて、手近な屑籠に片づけている。


そのまま、街の賑わいに紛れるように、自然と並ぶ。


「……湖、な」


ひとりごとのように呟き、けれどそれきり、ガルドはもう何も言えない。何を口にするべきか。言いたいことは山ほどあるが、言えたためしがない。


ただ、隣にいるこの男が、明日も明後日も、当たり前のようにそこにいて、当たり前のように自分の串肉にかじりついてくるのなら――それはそれで、悪くはないのかもしれなかった。






――【それはデー……】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。