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ルシアンの物見遊山 II【毎日更新/21:20】  作者: フジイさんち
ガルドと村娘の三日間騒動

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【ガルドと村娘の三日間騒動】


夜も更けた頃、第三陣が、静かにガルドの寝床の戸を滑らせた。


カンテラの薄明かりの中、布団の上で巨躯が寝返りを打っている。

軽装のシャツが、身体にぴたりと沿っている。村の男にはいない、いい身体。


娘の足がそっと、床を踏む。近寄る。眠っていれば整った顔立ち。


(……いける)


そう思った次の瞬間、ぱちりと赤い瞳が開いた。


「おい」


と、低い声。

ギクリと肩を震わせた娘の前に、無造作に起き上がったガルドのがっしりとした腕が伸びる。

抵抗する間もなく、肩ごと持ち上げられ――、


「ひえっ!?」


廊下に、ぽすんと下ろされる。

無言で引き戸が閉められた。




数分後、また別の娘が突入。

今度は正攻法。正面から布団に乗りかかる。


まったく他の女たちは、ちんたらしているからいけないのだ。

素早くガルドの服に手をかける。


が、手をがちりと掴まれる。想像以上に大きな手に、ドキッとしてしまう。


「きゃっ……」


可愛らしく声を上げたものの空しく、即座に腰を両手で持ち上げられ、玄関側へ180度回転。ののち、着地。




――その夜、結局五人が集会所から"搬出"された。




廊下の隅、娘たちに「近くにいて」とお願いされていたルシアンは、最後に運ばれてきた娘がぽすんと置かれるのを見届けて、小さく目を細めた。

声も立てず、静かに五人のそばへと寄る。肩に掛けた薄手のストールがふわりと揺れ、足音はほとんどしない。


運び出された娘たちは、床に座り込んだまま肩を寄せ合っていた。

誰もが布団の中で一度は"確信"を得て、それでも――丁寧に"ご返却"された顔。


唖然。呆然。放心。

中にはちょっと頬を染めている者もいた。


「……ダメでしたか……」

「ダメでした……」


娘たちの誰かが、ぽつりと呟く。


「……でも、悪くなかったかも……」


すると、隣で膝を抱えていた娘も、小さく頷いた。


「なんか、ぎゅってされた……」

「……私も。あんな風に持ち上げられたの初めて……」

「怒られた……?でも怖くなかった……」


戸の向こうでは、もう物音はしない。

ものにはできなかったのに、ちょっとだけ心に残った男の寝息を想像しながら、彼女たちはゆっくりと立ち上がる。


「お邪魔しました……」


ぺこり、とルシアンに頭を下げ、静かな足音が、集会所の外へ。勇敢な娘たちが、それぞれの家へ、少ししおらしく、しかしどこか誇らしげに帰っていく。


それを見届けたルシアンも、一度だけくすりと肩を揺らして、そっと扉を閉めた。


「……おやすみ」


――そう小さく呟けば、ふん、とかすかに鼻を鳴らす音だけが返ってきた。






淡々とした搬出作業を終え、翌朝。


村の広場には、変わらず柔和な笑みをたたえるルシアンと、少々寝不足のガルド。

意気消沈気味ながらも、どこか晴れ晴れとした村の娘たち。それを受け、ガルドに羨望の眼差しを向ける男衆。

何度も礼を言う老人たちと、行かないでと騒ぎ立てる子どもたちという、なんとも混沌とした光景があった。


「ほんとに助かったよ!」

「おふたりならいつでも歓迎するから、また来てくださいよ!」


そんな言葉とともに、保存食と手土産が包まれた荷物を、男衆がガルドに手渡す。

干し肉と乾燥果実、素焼きの壺には甘味のある酒。子どもたちからは、手作りした歪な花輪と、絵の描かれた手紙があった。


「これ、おっちゃんの顔だよ!」

「これね、先生と……ぼく!いっしょに描いたの!」


それらを、ガルドは少しだけ、視線を逸らしながら受け取り。

ルシアンは、どこか嬉しそうに拙いその絵を覗き込んでいた。


やがて簡単に挨拶を済ませ、過不足のない一礼をし、……ルシアンが踵を返す。――名残惜しげな村娘たちの視線から逃れるように、ガルドもその背に続く。




「……。……なんか、さぁ……」


――遠くなった、ルシアンらの背を見送っていた娘の一人が、ぼそりと声を漏らした。


「……気づかないふりしてたけど……ガルドさんがルシアンさんを見る目が……ね……」

「そうね……わかるわ……」


きょとん、とする男衆を蚊帳の外に、娘たちが互いに頷き合った。


「うん、なんかこう……優しいっていうか……ずるいっていうか……」

「たまに、めっちゃ見てたよね。こっちじゃなくて……ルシアンさんのほう」

「そうそう、こっちが頑張ってるときとかも、ちらって……」


そうかぁ?相棒だからだろ?という男衆の声は……取り合う価値もない。

ああ、これだから男ってダメね、と一括りにしたいがしかし、"男ってダメね"の括りに入れられない男たちを、まさにこの目で見てしまった。


「ねぇ、ルシアンさんって、ガルドさんのこと……どう思ってるんだろ」

「……わかんない、けど……」


ぽそぽそと交わされる、うら若き彼女たちの、未練とも探るようなぼやき。


けれどその視線の先、並んで歩いていく背中がすべてを物語っていた。

気づけば、あの威圧的な戦士は、柔らかな歩調に自然と合わせていたし。

あの穏やかな旅人は、時折、振り返っては隣の男の反応を伺っていた。


肩は触れず、言葉も交わさず。

それでも空気が、ふたりでひとつのようだった。



「……あれは……無理よね」



誰かが、ため息混じりにぽつりと漏らす。

納得と、敗北と、少しの羨ましさを孕んで。


それでも不思議と、悔しさはなかった。


――やっぱり、どこかしっくりとかみ合っていたのだろう。

ああして隣り合う、あのふたりの後ろ姿が。






――【ガルドと村娘の三日間騒動】

《旅の記録》

・場所名(通称):山間の集落

・最寄り街:カドゥル

・景観種別:静/暮

・特徴メモ: 街道から外れた道の先に位置する、小さな集落。自給自足と慎ましい暮らし。老若男女、等しくいい笑顔をしていた。

・時期・時間帯:秋

・再訪:可

・個人的メモ:

「土砂崩れで孤立しており、彼はそれを見逃せなかったようだ。戦闘外においても頼りになる人物だとは思っていたが、それが顕著に見れた滞在だった。」


――ルシアンの手帳より

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