【作戦会議は、最終戦】
山間の小さなこの村には、街のような酒場も宿屋もない。
だが、家々の間に火を灯し、村の広場に大きく焚き火を設えて、最後の夜はささやかな宴となった。
「明日には行っちまうのか」
「もうちょい居てもいいんだぞ」
「仮道が崩れたら、また呼ぶしな!」
復旧が終わった高揚と酒の勢いもあってか、男衆が次々にガルドの肩を叩いていく。
村の娘たちは娘たちで、火のそばに集まり、こそこそと打ち合わせていた。
「さすがに今日は……仕留めたいよね」
「ガルドさん、お酒強いけど……身体は疲れてるはず……」
「よし、今夜は"連携作戦"で行こう!」
――とはいえ、突撃するのは一人ずつである。
なんの決意表明か、女たちがルシアンを振り返り、うん、と力強く頷いて見せる。それを受けたルシアンも、半ば可笑しそうに肩をすくめた。
ゆらゆらと焚き火の明かりに照らされながら、夜は次第に深まっていく。風が冷たいが、火の熱がそれを和らげていた。
特別な"夜更かし"にテンションの上がった子どもたちは、早々に体力を使い果たし、寝ぼけまなこで家に連れ戻されていく。
老人たちも、ルシアンとガルドに何度も頭を下げ、家路へ。今は若者たちだけが残っていた。
残りの酒を回し合いながら、男たちは焚き火を囲んで過ぎた三日間を振り返る。笑い声も穏やかで、疲労の中にも満足の気配がある。
「おい、旦那!これ食ったか?山椒の香草漬けだ!」
「……うまいな」
「だろ?俺の嫁がな、すげー自信作だってさ。アンタに食わせたかったらしいぞ!」
肩を揺らして笑う男に、ガルドが眉を寄せながらも一口、また一口と手を進める。
そんな様子を遠巻きに見ていた娘たちが、――そろりと、立ち上がった。
「……第一陣、行きます」
「行ってらっしゃい……っ」
「お願い……膝くらいまでは……っ」
膝……?と首を傾いだルシアンを目の端に、火の明かりに照らされ、娘が一人、ガルドのほうへと向かっていった。その背を、ほかの娘たちが、ひそやかに見送っている。
ルシアンは温かな飲み物の杯を手に、銀の瞳を細める。
まるで舞台を楽しむ観客のように、心の中で小さく拍手を送っていた。
第一陣は、酒壺を持っていた。
村の男を押しのけ、ガルドのすぐ真横に座る。もう遠慮している場合ではない。
酒を注ぐ姿勢に紛れて……胸元を強調する。
一瞬じっと赤い視線が落ちるが、――肘で押しのけられる。
「……ちけぇ」
――一人目は、肩を落として帰ってきた。
第二陣は、腿まで露出した腰布を巻いていた。
こちらも男性陣を軽く押しのけ、ガルドにぴったりとすり寄って座る。
足をガルドの膝に乗せれば、もう少しで腿の隙間が見えそうであった。
男衆がハラハラと横目で見ている。
ガルドは自分の足にのしかかる生足を見下ろし、――がしりと掴んで引き離した。
「やめとけ。冷えんぞ」
――二人目は、腰にひざ掛けを巻いて帰ってきた。
第三陣に見舞われる前に、ガルドがため息をついて集会所へと引っ込んでいく。
ありゃ逃げたな……、とその場にいた誰もが思ったが、村の中にいる限り逃げ場などない。
舞台が変わるだけであった。
娘たちは、すでに屋内へと照準を合わせていた。
焚き火のそばで肩を抱き合いながら、小声で打ち合わせを続ける。
「布団、二枚あったよね……?」
「誰か、先に潜っておけば……間違って入ってくるかも」
「もしくは、脱ぎかけの服を……あっちに、こう……置いて……」
「いい……いい……その自然なやつ、いい……!」
ルシアンは、そんな会話を横目に、杯の果実湯を一口。
柔らかな微笑みの裏で、すでに想像がつく。布団の中に誰かが潜んでいる未来。
そしてそれを容赦なく掴み上げて、玄関まで持ち運ぶ無慈悲な未来。
――娘たちの目が一斉にルシアンを見やる。
助けて、と言わんばかりの視線。だがルシアンは、言葉にするでもなく、やんわりと首を横に振った。
――それは、彼の個人的なことですので。
まるでそう言うかのように小さく微笑み、杯を飲み干す。
娘たちが「え~~」と声を漏らす中、次の戦への準備も着々と進んでいった。
――【作戦会議は、最終戦】




