【復旧、完了】
山の生活道。
朝の気配が斜面に差し込む頃には、すでに男たちの姿があった。作業も大詰めとなり、村には女と子どもを残し、若い衆も老人も、村の男たちは全員集まっている。
今日は、仮道の仕上げと、簡易排水路の設置が主な作業だ。
「旦那、こっち明け方の小雨でちょっと水溜まってたっすね」
「……流れ逸らさねぇとまずいな……」
ガルドが先頭に立ち、斜面の端を踏み締めながら道を見下ろす。
崩れやすい箇所に杭を打ち込み、竹と小石を組んだ排水溝を這わせていく。
「そこ、横に溝を掘ってくれ。……印の高さまで」
「うす!」
鍬を手にした若い衆が、慣れない手つきながらも懸命に土を掘る。その傍で、年嵩の男たちも積んだ石を木槌で叩いて固定していく。
「おーい旦那よ、これでどうだ?」
「……いい。流してみろ」
誰かが木桶に汲んだ水を傾ければ、小さな流れが石の隙間を通って落ちていく。
皆が静かにそれを見届けて、ガルドもひとつ、小さく鼻を鳴らした。
「これで、ひとまずは保つだろ」
斜面の上では、鋤を手に下げた男が、地場植物の種子を蒔いていた。山肌に根を張る、乾燥に強く保水性のある草種。崩落を防ぐために、法面全体に薄く均等に蒔いていく必要がある。
これは村の貯蔵庫にあったもので、作物が実るでもないことから持て余していたらしく、村長らの話を聞いたルシアンが目を付けたものであった。
「ルシアンさんは物知りで学者さんみてぇだよなぁ」
「このタネ、行商人が置いてったんだっけか」
「いやぁ、まさか役に立つたぁなぁ!」
途中、何度か袋の口を破ったり、手を滑らせて尻もちをついたりしながらも、笑い声が混じるほどには余裕が見えるようになっていった。
そんな調子で昼にはすべてが整い、斜面はすっかり人の手で整えられた山の顔をしていた。
生活道はまだどこか被害の跡が残ってはいたが、荷車が安全に通り抜けられるほどには踏み固められ、その脇をなぞるように排水溝と土嚢列が並ぶ。
山肌には種蒔きが終わった草の筋がまだらに見え、数か月後を思わせる静かな景色をつくっていた。
「……よし。これで終いだ」
ぐ、と腰を伸ばしながら、ガルドが一言。面々の間に、ゆるい安堵の笑みが広がる。
「はぁ~……いや、旦那のおかげだよ」
「最初、どうなるかと思ってたけどなぁ……」
「この道に、こんなに人が集まるなんて、初めてだぜ」
それぞれが水を飲み、布で額や頬を拭いながら、どこか誇らしげな顔をしていた。
さらり、山間に秋の風が渡る。――危うく冬を、迎えられないところだった。
「よし、じゃあ、戻るか!」
「ああ、今日の夕餉は腕をふるうって、女たちが張り切ってたぞ」
「爺さん、俺あとでカドゥルに食材調達に行くからな!」
皆、口々に声を交わし合いながら、土埃の舞う斜面に背を向けて、集落へと歩き出す。
最後に振り返ったガルドの目に映るのは、整った道と、風にそよぐ山の陰。
束の間の滞在の終わりの気配が、そこにあった。
集落に戻った男衆は、その足ですぐに畑の手入れへ向かった。
女たちは洗濯や炊事、家畜の世話に精を出しており、ルシアンは今日も子どもたちを一手に引き連れている。
手持ち無沙汰になったガルドも、当てもなく村の中をぶらりと歩き、――やがて道具置き場で柄の取れかけた鍬を見つけ、黙ってそれを手に取った。
道の復旧で余った材木の中から、適当に手頃な木材を拾い上げる。削った木をあてがい、麻紐で締め、刃を焚き火のそばで焼いてから油を塗る。
その後ろから、村の男が一人、覗き込んだ。
「あ、俺の鍬あった。旦那、直しといてくれたんすか?」
「……ああ。放っときゃ次折れる」
たはー、と誤魔化すような笑い声。楽天的なようでいて、やはりどこか、憎めない男たちだった。
――【復旧、完了】




