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ルシアンの物見遊山 II【毎日更新/21:20】  作者: フジイさんち
レストロワ収穫祭

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【祝祭の宴】


その日は夕暮れまで収穫祭の空気を楽しみ、ふたりはギルド書庫の本を返すため、西部旅宿広場の冒険者ギルドを訪れていた。


収穫祭のような大きな祭りでは、冒険者ギルドも人の出入りが極端に減る。街の機能が止まり、"祝祭"となるためだ。

閉館することこそないものの、依頼や任務の動きが止まり、ギルドは静かに――なるのだが、このレストロワでは違った。



狩猟祭というギルド主催の大きな催し物を終えたギルド職員たちや、会場の警備に当たった冒険者たち、狩猟祭に参加した若手たちが、まるで祭りの続きのように、併設の酒場で杯を酌み交わしていた。



「おや……賑やかだね」

「……いい、さっさと本返して来い」


ホールから酒場のほうを一瞥したルシアンに、面倒そうにしたガルドが手を払うような仕草をする。小さく頷いて、さっさと二階の書庫へと上がっていく柔らかな背中。

ギルドホールの柱に肩を預けようとしたガルドだったが、……巨躯は当然、目立つ……。


「あっ、あっ、あっ、無哭さん!!無哭さん見ててくれましたか!!」

「えっ、無哭来てんの!?うわっ、ほんとだ!!」

「無哭さんも飲みましょうよ!あれ、無紋は……?」


ほどよく酔いが回って気の大きくなった連中が、エールの杯を掲げながらそれぞれに椅子から身を乗り出した。無哭は怖い。それはそう。それはそうだが、"見ててくれた"ことを、全員が知っている。


これには……ガルドも無視をしようかと顎を引いたが、……なにぶん、ルシアンを楽しませた功労者たちでもある。

呆れ混じりのため息をついて、のそりと酒場のほうへ一歩だけ足を踏み入れた。


「……書庫に寄っただけだ。すぐ帰る」

「ええええ!!」

「一杯だけご一緒してくださいよ!」

「俺!お、おれ最優秀者っス!!俺に免じて!」

「……何でお前に免じなきゃなんねぇんだ」


苦々しく文句が返されるものの、声色に棘はない。

わずかに階上に意識をやるが、……雇用主が戻ってくる気配は当然、まだない。


いつもより無造作に並べられた丸卓が、この雑多な祝杯の夜を語るようだった。いつの間にか席が空けられており、無哭を逃がすまいとギルドの給仕が慌ててエールを運んでくる。若手たちも、どこかびくびくとしながら駆け寄ってくる。


「おい……」

「い、い、一杯だけでも……!!」

「記念に……!!」


酒の力を借りた連中が、もはや殴られるのを覚悟でガルドの背を押す。ベテラン冒険者たちが、ギルドの職員たちが、無謀にも見える若手たちのその勇姿に歓声すらあげている。


用意された席にガルドが渋々と座れば、流れるようにエールの杯を持たされた。


ぬるく泡立つ黄金色の液体。

その向こうでは、どことなく高揚しきった若手連中が、押し合いへし合いで乾杯の準備をしている。


「早く早く誰か乾杯!!」

「お、お、よし、えっとじゃあ今年も無事越冬できそうで――!!」

「――収穫祭と狩猟祭に、乾杯!!」

「冬が来るぞー!!」


がしゃん、と無数の杯がぶつかり合い、ざぶりと泡がこぼれる音が重なった。四方八方から杯を寄せられ、ガルドが半ば諦めたような顔で、ごきりと酒を呷る。

それを見て上がったどよめきと歓声は、まるで天井の梁にまで届くほどだ。


――うるせぇな、とガルドが舌打ちをひとつ。けれどやはり、その顔はさほど険しくない。


「……ふん」


小さく鼻を鳴らし、呆れを隠しきれぬまま、酒をもう一口。

目の前に皿が置かれ、肉の串やら煮込みやら包みやらが次々と差し出される。


「むっ、無哭さん飯食いました?」

「え、ところで無紋は……?」

「書庫じゃないですか……?」


冒険者と職員らの会話に、ガルドがぴくりと眉を動かす。視線だけをそっと、酒場の入り口から向こう、ホールの奥に見える二階への階段へ向けた。

淡灰のローブは、まだ降りてこない。来たら来たで面倒なことになりそうで、――だが心のどこかで、早く来てくれと思っている自分もいた。


「無哭に乾杯されちまったよ……!」

「レストロワ来てよかった……」


緊張も忘れ、呆けたように椅子にもたれる若手たちの声に、ガルドもやれやれと息をつき――瞬間、階段の上から降りてくる静かな足音に、首をわずかにそちらへ向けた。


動きを止めたガルドの様子に、冒険者たちの間で瞬時に緊張感が走る。

杯を持ったまま、誰もが口を閉ざす。



「――あれ、ガルド……?」

「……こっちだ」


低く呼ぶような声に、ルシアンが静かに視線を巡らせ――外套をゆったりと揺らしながら、ホールと酒場の境に足をかけた。集中する耳目に軽く会釈をして、柔和な微笑みを浮かべる。


「皆さんと楽しんでいたのかい」

「捕まった」


ンンッ、と咳払いや喉が詰まったような音がいくつか。……場が、再びざわめきを取り戻す。

しかし、さっきまでのような賑わいはどこか抑えられた熱量となり、いささか照れたような空気が漂う。


それはさながら、いたずらが見つかった子どものようであった。






――【祝祭の宴】

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