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図書室の文通相手は…  作者: しゅり
彼Side
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彼Side 第8章 中編「途切れませんように」

図書室の扉が閉まる。


「……はあ」


小さく息を吐く。


さっきまでの空気が、まだ残っている気がした。


――言えなかった。


分かってる。


タイミングはあった。流れも、悪くなかった。


それでも。


「……何やってんだよ」


ぼそっと呟く。


廊下を歩きながら、頭の中で何度もさっきの会話をなぞる。


「終わる感じ、しないね」


「うん」


あそこまでは、よかった。


その先。


踏み込めたはずの一歩を、結局、踏み出さなかった。


「……ダサ」


小さく笑う。


告白するつもりだった。


図書室に来る前は、ちゃんとそう決めていたのに。


顔を見た瞬間、全部、飛んだ。


「……」


足はそのまま、昇降口の方へ向かう。


でも。


途中で、ふと止まる。


「……あ」


思い出す。


――手紙。


さっき。


彼女が、書いたやつ。


本棚に入れていた。


「……」


視線が少しだけ揺れる。


今なら、まだある。


たぶん。


まだ、誰にも触れられてない。


「……」


少しだけ考える。


このまま帰れば。


読むのは、また後になる。


年明け、始業式の日。


「……それまで待つのか」


ぽつりと呟く。


長い。


今、彼女が何を書いたのか。


すぐそこにあるのに。


「……」


一歩、戻る。


気づけば、体が勝手に動いていた。


「……いや、待て」


自分で自分にブレーキをかける。


今戻ったら。


「……バレるだろ」


さっきまで一緒にいた。


その直後に戻ってきて、手紙回収するとか。


どう考えても不自然だ。


「……」


でも。


それでも。


「……読みたいだろ」


小さく、呟く。


答えは、最初から決まっていた。


もう一度、踵を返す。


今度は迷わない。


さっきよりも少し早い足取りで、図書室へ戻る。


――


扉の前で、足が止まる。


「……」


さっきの光景が頭に浮かぶ。


距離。沈黙。視線。


「……もう帰ってるよな」


担当の曜日じゃない。


今日は、たまたま来ていただけ。


用事が終われば、長くいる理由はない。


「……」


ドアノブに手をかける。


ゆっくり開ける。


――静かだ。


さっきと同じ空気。


でも。


「……いない」


誰もいない。


本棚の前にも、机にも、カウンターにも。


さっきまであった気配が、すっかり消えている。


「……帰ったか」


小さく呟く。


胸の奥に、少しだけ安堵が広がる。


同時に。


ほんの少しだけ、物足りなさみたいなものも残った。


「……」


首を軽く振る。


今は、それじゃない。


本棚へ向かう。


あの場所。


手を伸ばす。


――《まだ知らない君へ》


本を引き抜く。


背表紙の奥に指を入れる。


紙の感触。


封筒を、ゆっくりと取り出す。


「……」


白い封筒。


見慣れた、丸みのある文字。


さっき、彼女が入れたもの。


「……ほんとに、あるな」


当たり前なのに、そう呟く。


机へ向かう。


椅子に座る。


封筒を手に持ったまま、少しだけ止まる。


「……」


さっきの顔が、浮かぶ。


少し照れたみたいな表情。


言葉を選んでいる間。


短いやり取り。


「……」


封筒を、軽く押さえる。


これを、彼女が書いた。


今、この中にある。


「……読むか」


小さく呟く。


もう、迷いはなかった。


封を開ける。


便箋を取り出す。


広げる。


視線を落とす。


――


『――私も、同じです。』


――


「……」


一瞬、呼吸が止まる。


目が、動かない。


もう一度、読む。


同じ一文。


短い。


でも。


「……それって」


言葉が、続かない。


分かる。


意味は、分かる。


でも、ちゃんと口にしようとすると、少しだけ勇気がいる。


「……そういうこと、だよな」


確認するみたいに、呟く。


胸の奥が、じわっと熱くなる。


さっきまでの迷いも、落ち込みも。


一気に、どこかへ消えていく。


「……マジか」


思わず笑う。


嬉しい。


想像してたより、ずっと。


「……はあ」


息を吐く。


でも、それはさっきとは違う。


軽い。


ちゃんと、前に進んでる感じ。


「……」


便箋をもう一度見る。


短い一文。


でも、それで十分だった。


“続けたい”


そう言われているのと、同じだった。


「……」


ゆっくりと、便箋を折る。


封筒に戻す。


そのまま、しばらく動かない。


考えているわけじゃない。


ただ、余韻が残っている。


「……」


やがて、小さく息を吐く。


立ち上がる。


本を開く。


封筒を、元の場所へ戻す。


背表紙の奥。


いつもの位置。


「……」


少しだけ手を止める。


でも、すぐに離す。


本を閉じる。


「……よし」


小さく呟く。


今度は、迷いはなかった。


――このままでいい。


このやり取りを、ちゃんと続けていく。


それだけで、十分だと思えた。


リュックを持つ。


図書室を出る。


廊下に出た瞬間、現実に戻る。


でも。


「……悪くねぇな」


ぽつりと呟く。


さっきまでの自分とは、少し違う。


何も解決したわけじゃない。


何かが大きく変わったわけでもない。


でも――


確実に、前に進んだ。


「……次、どうするか」


小さく笑う。


考えることは、まだある。


言いたいことも、まだある。


でも。


「……まあ、ゆっくりでいいか」


焦る必要はない。


ちゃんと繋がってる。


そう思えるだけで、十分だった。


外に出ると、空気が冷たい。


冬の匂い。


吐く息が、白くなる。


「……」


空を見上げる。


――冬休み。


少し、間が空く。


でも。


「……大丈夫だろ」


自然と、そう思えた。


さっきの一文が、頭に残っている。


『――私も、同じです。』


それだけで。


十分だった。


「……帰るか」


小さく呟いて、歩き出す。


今度は、足取りは軽かった。


「……」

 

ふと、思い出す。

 

さっきの会話。

 

“初詣くらいは、行くと思うけど”

 

 

「……」

 

顔を上げる。

 

「……あ」

 

小さく声が漏れる。

 

 

「……行くのか?」

 

独り言みたいに呟く。

 

初詣。

 

つまり。

 

外で会う可能性。

 

図書室じゃない場所。

 

「……いや、でも」

 

すぐに否定する。

 

偶然だろ。

 

そんな都合よく――

 

「……」

 

止まる。

 

いや。

 

完全に偶然でもない。

 

場所は、限られてる。

 

近くの神社。

 

「……ありえる、か」

 

小さく呟く。

 

心臓が、少しだけ速くなる。

 

もし。

 

もし、会えたら。

 

 

「……どうすんだよ」

 

思わず笑う。

 

教室ですらあれなのに。

 

外で会って、普通に話せるわけがない。

 

 

「……いや、でもな」

 

視線を落とす。

 

手の中の便箋。

 

 

“私も、同じです。”

 

 

その一文が、背中を押してくる。

 

 

「……行くだけなら」

 

ぽつりと呟く。

 

会えるかどうかは、分からない。

 

でも。

 

行かない理由は、ない。

 

 

「……」

 

少しだけ考える。

 

どこに行くか。

 

大きい神社か。

 

それとも、近所のところか。

 

 

「……どっちも行くか」

 

思わず笑う。

 

 

「……いや、二回目ってなんだよ」

 

一人でツッコミを入れる。

 

初詣って、普通一回だろ。

 

 

でも。

 

「……まあ、いいか」

 

小さく呟く。

 

理由なんて、後付けでいい。

 

 

大事なのは――

 

「……会えたら、いいな」

 

それだけだった。

 

 

便箋を丁寧に折る。

 

封筒に戻す。

 

 

机の上に置いて、しばらくそれを見つめる。

 

 

終わりじゃなかった。

 

続いてる。

 

 

そして。

 

少しだけ――

 

先に進み始めてる。

 

 

「……よし」

 

小さく呟く。

 

 

この冬休み。

 

ただ過ぎるだけじゃない気がした。


――


止まっていたものは、

もう、動き出している。

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