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図書室の文通相手は…  作者: しゅり
彼Side
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彼Side 第8章 前編「途切れませんように」

終業式の朝。


教室の空気は、いつもと少し違っていた。


ざわつきはある。笑い声もある。


でもどこか、落ち着かない感じが混ざっている。

「……」


席に座ったまま、前を見る。


黒板。連絡事項。いつもと同じはずなのに――


「……特別、か」


小さく呟く。


昨日書いた手紙。


――『今日は、少し特別な日ですね。』


書いたときは、少し大げさかとも思った。


でも今は、分かる。


これは確かに、少しだけ特別な日だった。

 

鞄の中にある封筒。


何度も確認したくなるのを、なんとか抑える。


「……落ち着けって」


自分に言い聞かせる。

 

問題は、その先だ。

 

手紙は書いた。


あとは、読まれるのを待つだけ。


――のはずなのに。

 

「……」


視線を落とす。


机の上。何も書いてないノート。

 

“直接言うか?”

 

頭の中で、その言葉が何度も浮かぶ。

 

「……いや」


すぐに打ち消す。


無理だろ。


どう考えても。

 

でも。

 

「……」


完全には、消えない。

 

手紙で伝えるのは、逃げなんじゃないか。


そんな考えが、ずっと引っかかっていた。

 

「……はあ」


小さく息を吐く。

 

チャイムが鳴る。


終業式の開始を告げる音。

 

立ち上がる。


椅子の音が重なる。


周りと同じように、体育館へ向かう。

 

並ぶ。話を聞く。

校長の話も、担任の話も。

 

ほとんど頭に入ってこなかった。

 

考えているのは、一つだけ。

 

このあと。

 

図書室に行くか。

 

それとも――

 

「……」

小さく拳を握る。

 

行くに決まってる。

 

問題は、そのあとだ。

 

 

終業式が終わる。


教室に戻る。


配られる通知表。


軽いざわめき。

 

「お前どうだった?」


「まあまあ」


適当に返す。


内容なんて、正直どうでもよかった。

 

「冬休みなにすんの?」


「……まだ決めてねぇ」


これも適当。

 

頭の中は、全部別のことで埋まっている。

 

鞄に、封筒を入れる。

その動作だけ、やけに丁寧になる。

 

「じゃあなー」

「おう」

軽く手を振る。

 

教室を出る。

 

廊下。

階段。

 

足は迷わない。

 

「……」

でも、心は落ち着かない。

 

さっきからずっと、同じことを考えている。

 

言うか。

言わないか。

 

「……」

階段を降りながら、小さく息を吐く。

 

言えたら。

 

言えたら――

 

「……いや」

首を振る。

 

考えても仕方ない。

 

そのときになってみないと、分からない。

 

 

図書室の前。

 

立ち止まる。

 

ドアノブに手をかけて、ほんの一瞬だけ止まる。

 

「……はあ」

深く息を吐く。

 

決めたはずだろ。

 

行くって。

 

 

扉を押す。

 

静かな空気。

 

窓からの光。

本棚の影。


そして――

 

「……」

いた。

 

本棚の前。

 

ちょうど、封筒を差し込むところだった。

 

女の子。

 

「……やっぱり、来てたんだ」

気づけば、声が出ていた。

 

「うん」

短い返事。

 

それだけで、少しだけ安心する。

 

距離は、前より少しだけ近い。

 

でも。

 

やっぱり、緊張は消えない。

 

「……」

一瞬、間が空く。

 

何から言う。

 

いや、違う。

 

まずは――

 

「読んだ?」

 

それが先だった。

 

「……うん」

 

小さく頷く。

 

その一言で、胸の奥が少しだけ軽くなる。

 

「よかった」

思ったより、普通に言えた。

 

「……」

また、少し沈黙。

 

でも。

 

前みたいな重さはない。

 

「終わる感じ、しないね」

 

ぽつりと、言葉が出る。

 

自分でも、少し驚く。

 

でも。

 

それは、本音だった。

 

「うん」

 

返ってくる声。

 

その一言で、十分だった。

 

「……」

少しだけ、視線を逸らす。

 

――ここで言うか?

 

頭の中で、さっきから繰り返してる問い。

 

今なら。

 

……言えるかもしれない。

 

「……」


口を開きかけて――


やめる。

 

無理だ。

 

言葉が、続かない。

 

代わりに出てきたのは――

 

「冬休み、どうしてる?」

 

「……」


一瞬、間。

 

「家にいることが多いかな」

 

少し考えてから、続く。

 

「初詣くらいは、行くと思うけど」

 

「……そっか」

 

短く返す。

 

会話は、それで終わった。

 

「……」

沈黙。

 

でも。

 

さっきより、少しだけ自然だった。

 

「じゃあ」

 

小さく言って、その場を離れる。

 

振り返らない。

 

振り返ったら、たぶん止まる。

 

 

図書室を出る。

 

扉が閉まる音。

 

「……はあああ……」

 

一気に力が抜ける。

 

「……言えなかった」

 

小さく呟く。

 

分かってたけど。

 

分かってたけど――

 

「……ヘタレすぎだろ」

 

苦笑する。

 

言おうと思ってた。

 

ちゃんと。

 

でも。

 

無理だった。

 

「……はあ」

 

もう一度、息を吐く。

 

でも。

 

完全に落ち込んでるわけじゃなかった。

 

さっきの会話。

 

“終わる感じ、しないね”

 

“うん”

 

 

それだけで。

 

「……まあ、いっか」

 

小さく呟く。

 

全部言えなくても。

 

全部進まなくても。

 

 

――ちゃんと、繋がってる。

 

 

それが分かっただけで、今は十分だった。

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