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図書室の文通相手は…  作者: しゅり
彼Side
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彼Side 第4章 前編「近くて、遠い」

教室で、黒板を見る。


連絡事項が並んでいる。


誰かが書いた文字。


整っていて、読みやすい。


――その中で、ほんの一瞬だけ、目が止まる。


「……あれ」


なんとなく、見覚えがある気がした。


なんでだろう。


ただの文字なのに、胸の奥がわずかにざわつく。


覚えているはずのないものを、どこかで知っているような感覚。


思い出せないのに、忘れてもいないみたいで――少しだけ落ち着かなかった。


でも、すぐに消える。


気のせいかと思い、視線を外す。



……なのに。


そのあとも、何度か同じことがあった。


掲示物。


ノート。


プリントの記入欄。



整った文字を見るたびに、

ほんの一瞬だけ、引っかかる。


「……なんだろ」


理由は分からない。


でも――


無意識に、“探している”気がした。



昼休み前。


学級委員の仕事で、プリントをまとめているとき。


隣で同じように作業している女子。


同じ学級委員。


ペンを走らせるその手元が、ふと目に入る。


整った文字。


癖がなく、読みやすい。


「……あ」


一瞬だけ、引っかかる。


似てる気がする。


なんで、こんなふうに見てるんだ。


ただの字だろ。


それなのに、無意識に重ねてしまう。


手紙の文字と、あの空気と。


まるで、答え合わせでもするみたいに。


少しだけ見比べるように目を細める。


でも――


「……いや」


小さく否定する。


なんとなく違う。


きれいすぎる、というか。


線がまっすぐで、迷いがない。


あの文字は、もう少し柔らかかった。


丸みがあって、少し余白がある感じ。


「……気のせいか」


それ以上は考えなかった。



別の日。


クラスで一番頭のいいやつのノートを見せてもらう。


字もきれいで有名なやつ。


ページをめくる。


整っている。


めちゃくちゃ整っている。


「……」


一瞬だけ止まる。


似てる、気がする。


でも――


すぐに違和感が出る。


「……なんか違うな」


ぼそっと呟く。


きれいだけど、ちょっと神経質そう。


詰まってる感じがする。


余裕がない。


あの手紙の文字は、もう少し力が抜けていた。


「……ていうか」


ノートを閉じながら思う。


「男と文通は、ちょっとな……」


……違っていて、少しだけ安心した自分がいた。


なんとなく。


できれば“あの文字の主”は、

女の子であってほしいと思っている自分に気づいて、

ほんの少しだけ戸惑う。


思わず小さく笑う。


それだけで、候補から外れた。



それでも。


文字を見つけるたびに、無意識に比べてしまう。


似てるかどうか。


違うかどうか。


……なんでこんなことしてるのか、

自分でもよく分からない。



昼休み。


廊下の掲示板の前で、足が止まる。


「おすすめ図書」


手書きの紹介文。


何気なく目を向けて――


止まる。


「……これ」


近づく。


一行ずつ、目で追う。


整ってる。


でも、それだけじゃない。


どこか、見覚えがある。


視線が離れない。


そして――


一文。


――“読んでいると、少しだけ優しくなれる気がします。”


「……」


完全に止まる。


それ。


見たことある。


手紙で。


同じ言い回し。


同じ空気。


「……マジか」


胸の奥が、どくんと強く鳴る。


見つけた、と思った。


まだ確証もないのに。


でも、そうであってほしいと、どこかで願っている。


一気に繋がる。


文字。


雰囲気。


言葉の選び方。


偶然とは思えなかった。


「……図書委員、か」


頭の中で自然と浮かぶ。


さっきまで“ぼんやりした誰か”だったものが、

一気に形を持つ。



教室に戻る。


視線が自然とそっちに向く。


図書委員の女子。


普段は、そんなに意識したことなかった。


静かで、目立たないタイプ。


でも今は――


少し違って見える。


「……」


視線を逸らす。


いや、まだ確定じゃない。


ただ似てるだけかもしれない。


でも――


ほぼ、そうだと思った。



そのとき。


「そうだ、昼休みまでに二人組作れー」


先生の声。


「普段組まないやつと組めよー」


教室がざわつく。


あちこちで声が上がる。


席を立つやつもいる。


――その中で。


一瞬だけ思う。


「……チャンスじゃん」


何を期待してるんだ、俺は。


確かめたいだけ?


それとも――


もし本当にそうだったら、何かが変わると思ってるのか。


自分でも、少し驚く。


そんなこと考えるタイプじゃなかったはずなのに。


でも――


気づいたら立っていた。


近づく。


一歩。


もう一歩。


距離が、やけに長く感じる。


近づくほど、鼓動がうるさい。


たった一言なのに、妙に重い。


こんなことで緊張するなんて、らしくない。


……でも、今さら引き返せない。


「……」


声をかけるタイミングを探す。


でも、うまく掴めない。


――いや、いいか。


考えるの、やめる。


「……あのさ」


声をかける。


びっくりしたみたいに、顔を上げる。


一瞬だけ目が合う。


それだけで、少しだけ心臓が跳ねた。


「よかったら、その……組まない?」


言いながら、ちょっとだけ後悔する。


言い方、もっとあっただろ。


「……」


返事が、ない。


女の子は少し驚いたまま止まっている。


あ。


やばい。


これ、失敗したかも。


「……あー、無理なら全然――」


言いかけた、そのとき。


チャイムが鳴る。


「はい、席つけー」


先生の声。


ざわつきながら、みんな席に戻っていく。


結局、返事はもらえなかった。


「……」


自分の席に戻る。


座る。


前を向く。


――でも。


全然、集中できない。


なんであのタイミングで言ったんだよ。


ていうか、急すぎだろ。


普通に無理だって。


……いや、でも。


別に変なことは言ってない。


よな?


さっきの一瞬の沈黙が、何度も頭の中で再生される。


あの表情は、驚きだったのか。


それとも、迷惑だったのか。


考えれば考えるほど、分からなくなる。


頭の中でぐるぐるする。


黒板の内容なんて、全然入ってこない。


「……」


ちらっと横を見る。


女の子は普通にノートを取っている。


さっきのこと、どう思ってるのか分からない。


そもそも――


覚えてるのかも分からない。


「……はあ」


小さく息を吐く。


やっぱり、やめとけばよかったか。


でも。


――このまま終わるのは、なんか違う。


あの文字が、あの言葉が、

ただの偶然で終わるのは嫌だった。


まだ何も始まっていないのに、

終わらせたくないと思っている自分がいる。

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