第60話 ナミ子に授乳しようっ!
なんと、ナミ子さんがバイトすることになった!
場所はスモモさんのカレー屋だ。 スモモさんの誘いを受けて、バイトをしてみると言い出したらしい。 まさかの展開である。
言ったものの、ナミ子さんが一人で行く勇気がないと言うので、私と瑞はカレー屋まで送っていくことになった。
しかしいざ店の前に来ると、ナミ子さんはやはり嫌だと言い出した!
「いや”あ”あああぁぁあっっ!!!! しに”たく”ないよおおぉ”おぉぉつっ!!!!!!」
ぎゃあぎゃあと泣き喚くナミ子さんを、瑞と私の2人で引き戻していく。 そばにはスモモさんもいて、楽しそうにニコニコとその様子を見守っている。
力強く逃げようとするナミ子さんを引っ張りながら、私たちは叫んだ。
「ナミ子さん、あなたがやりたいって言い出したんでしょう!」
「そうですよ、大丈夫です! ナミ子さん、やればできる子なんですからっ」
逃げようとしていたナミ子さんは、商店街のアスファルトの上に倒れこむと、今度は瑞に向かってすがりついていった。
「瑞ちゃああん、おっぱいちょうだああいいいっ!!」
「い”や”あ”あああああああああああああああ”ああっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
瑞はビンタをかますほどの勢いでナミ子さんを振り切ると、全速力で商店街の外へと走って逃げていった。 どんだけ嫌なの、瑞w
私は心の中で笑っていると、ナミ子さんは今度は私にすがりついてくる。
「黒縁いいいぃぃっ!!!! おっぱいいいいい”い”ぃっっっ!」
「ナミ子さん、大丈夫ですって」
「い”や”あ”あああぁぁっ!! おっぱい””いいいいぃぃつ!!」
ナミ子さんはそう言って、泣き叫びながら私の服を引っ張ってくる。 本気らしく、胸を思いっきり鷲掴みしてくる。 あんた、どんだけおっぱい欲しいのよw
実は、誕生日の日に初めて吸われた日から、また何度か吸われたのだ。
私も最初は抵抗していたが、逃げずに勝手にさせるようになってきたのである。
私は泣き喚くナミ子さんを連れて、カレー屋と隣の建物の間に入っていった。 細い路地みたいな中で、積んであったコンクリートブロックの上に座る。
そばには瑞とスモモさんもいて、周囲を警戒してくれている。
周囲をさらっと確認しつつ、私は服をまくって片方だけおっぱいを出した。 私が勧めるのを待たずに、ナミ子さんは勢いよく私の乳首に吸い付いてくる。
あぁ来たっ、このこそばゆい感覚ううぅうっっ!!ww
ナミ子さんは私に抱き着いて、ジュウジュウと激しく吸っている。 おぉ、いいじゃない。 どんどん飲んで、いい子に育つのよ。ふははっ!
瑞やスモモさんはなんてことない顔をしていて、気にしてないみたいだ。 はたから見れば、完全にヤバい人たちである。
私の『出ない母乳』を吸っていたナミ子さんだが、5分ぐらいすると、落ち着きを取り戻したみたいだった。
「落ち着きましたか?」
「ばぶ」
私はナミ子さんの手を引いて、建物の横から出ていった。 商店街の道路を歩いて、改めて店の入り口に向かう。
「よぉーし、行こうナミ子さんっ!」
「おぅよぉっ!!」
「私は30歳ニートだっ!!」
「私は30歳ニートじゃあっっ!!!! 道を開けよっ!!!!wwブハハッ!!ww」
気持ちをムダに奮い立たせながら、今度は落ち着いてカレー屋の入り口まで来ることができた。
「じゃあ、行こっか」
スモモさんがそう言って店の扉を開け、引き継ぐようにしてナミ子さんの手を引いていく。 ナミ子さんはまた泣きそうな表情になったが、頷いて入り口へ向かった。
私と瑞は、店の入り口から離れて道路を歩きだした。 振り返ってナミ子さんに手を振る。
「じゃあ、バイバイ!」
振り返ったナミ子さんは、我慢の限界みたいな顔になっていたが、再び泣き始めた。
「ぎゃあぁああぁっっ!!! おかあしゃああぁぁあああぁんんっっ!!!!!!!!!!」
今度はスモモさんが落ちつけながら、10代後半ぐらいのバイト仲間っぽい女の子たちと一緒に、少し強引に店の中に連れていく。 すぐに扉は閉まり、ナミ子さんの声は聞こえなくなった。
私はその様子を見ながら、変な感慨にふけった。
あぁ、私が子供の頃を思い出した。 保育園に最初に行くときに、あんな風に最後まで泣き喚き続けたのだ。
さっきの私と同じようにして、手を振って『バイバイ!』と去っていく母親の姿が、ひどく冷徹に見えたものだ。
……ていうか、私のことお母さんって言った? あらゆる意味で、ナミ子さんの本当のお母さんが可哀そうである。
ナミ子さんは、大丈夫だろう。 理解のあるスモモさんも、そばにいることだし。
私は妙なさびしさを感じつつ、カレー屋を離れていった。
そのまま私と瑞は、とあるファミレスに向かった。
アキさんがまた会おうと言ってきたのだ。 今日は、新作マンガの構想を作ったから意見が欲しいらしい。
あと、その前に別の人も合流してきた。 チャラい感じの男子生徒、早川スバルくんだ。
スバルくんも、特に意味はないが一緒に行くことになった。 ネット小説部の部室で瑞と話していたら、興味を持ったらしい。
瑞を含めて3人でファミレスに向かいつつ、私たちはいつもの会話をくり返す。
「先輩、俺何したらいいんすかねー」
「うーん、何したらいいんだろうねぇ」
スバルくんは最近は自分なりに調べているらしく、創作に関する知識も増えてきた。 しかしそれでも、何をやっていいか分からず悩んでいるらしい。
まだ高校1年生だし、時間はある。 前みたいにイベントに参加したり、色々やってみればいいんじゃないかな。
刺激にさらされていれば、自然に向かうべき道は見えてくると思うのだ。
ファミレスに行くと、アキさんは先に来ていた。 私たちは誘われるままに、窓際のテーブル席に座っていった。
私は意見に自信がないと言ったが、アキさんは構わないようだった。 思ったことを素直に言っていいと言われたので、私たちは新作マンガを手に取って読んでいき、感想を口々に言っていった。
今回もアキさんがおごると言ってくれたので、私たちはそれをいいことにパフェやらなんやらを注文しまくって、お腹いっぱいになりながら偉そうに意見を言った。
話し合いは意外と長く続き、時間はあっという間に過ぎていった。
「いやぁ、助かったよ! 黒縁ちゃんたちみたいなタイプが、俺の周りにいなくてさぁ」
数時間後、話し合いを終えて、アキさんはテーブルに広げた書類をたたみながら言った。
「色んな人に見てもらわないと、自分の作品がどんな風に見えるか分からないじゃん? 俺も広く人に見てもらいたいし、いろんな意見が欲しいんだよね」
「あぁ、分かります」
私は同感して、頷く。
自分がどれだけ良いと思っても、他の人にとって良いかは分からない。 ある集団が良いと思っても、その集団にも偏りがあるかもしれない。
アキさんのようにプロとしてやっていく人なら、意識せざるを得ないことだろう。
……私も今までは好きに書いてきたけど、そろそろそういうのを考えなきゃいけないのかなぁ。
「あ、ところでさ。 黒縁ちゃんたちの『部活』って、他の人も入っていいの?」
「え?」
急な話題に、私は驚いて聞き返す。
『部活』の話? ていうか、最近はもう色んな人と関わるようになったから、ぐちゃぐちゃになってどうでもよくなってる気がするけど。
アキさんは言う。
「興味がある人が何人かいるみたいでさ。 俺がふだん使ってるマンガ投稿サイトで話したら、面白そうって食いついてきた人たちがいてね。 いっそのこと、サイトの違いも飛び越えたコミュニティ化してしまったらいいんじゃない?とか思ってさぁ」
なるほど、そういうことか。 なら葉月に聞かないと分からない。 私たちの活動が『部活』なのだとしたら、部長は葉月だからだ。
しかし、葉月が首を縦に振るだろうか……?
サイトを超えたコミュニティにするって、色んな人が出入りする可能性があるってことじゃないのだろうか。 葉月には抵抗が大きいかもしれない。
ともあれ言ってみないと分からない。 葉月にとって良い面もある。 向こうから興味をもってきてくれるんだから、主導権はこちらにあるからだ。
私は頷いて答えた。
「分かりました。 とりあえず、葉月に聞いてみます」
「OK。 あと、製本出来たから、うちに取りに来てもらえる? もう、俺の家に届いてるから」
お、来たっ! 実はすでに印刷を頼んでいて、待っていたところなのだ。
自分の小説が商品になったものを、ついに手に取ることができるらしい。
アキさんが席を立ったのを合図にして、私たちもテーブルを立っていき、ファミレスでの会合を終えた。
私たちはそのまま車に乗って、アキさんの家に行った。
普通の賃貸の一軒家に、一人暮らししているらしい。 家の中は、玄関からリビングにいたるまで、マンガやアニメのフィギュアなんかが大量に置いてあり、まさにオタクって感じの家だ。
「おぉー、すごいっ」
「何が?」
玄関に入ってきょろきょろと見回す私たち3人の様子に、アキさんが笑っている。
家の奥に入って、私たちは自分の本を受け取っていった。
表紙のイラストは、なんと私たち全員の分をアキさんが描いてくれることになった。
いま手に持っている私の小説にも、表紙には私が作ったキャラが生き生きと躍っており、本屋で売っているような本に仕上がっている。
「おぉ~っ!!」
私と瑞は思わず声を出して、ベタベタと必要以上に自分の小説をさわる。
指で紙をめくっていると、自分が書いていたのがただの文章ではなく、本当に小説だったのだという実感がわいてくる。
スバルくんが、すげえと言いながら横から覗き込んでくる。
私たちが初々しい反応を示すのに、アキさんも楽しそうだ。
アキさんが車で運んでくれるというので、お言葉に甘えることにした。 家に帰るスバルくんを途中で下ろして、そのまま私たちはマンションに向かう。
部屋に飾ろう。(黒縁)




