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第61話 葉月との衝突、色んな考え!

 アキさんの家で、自分の小説を受け取った!

 マンションの玄関を上がって部屋に入ると、ナミ子さんはすでに帰ってきていた。


「ただいまー。 ……あ、ナミ子さん、大丈夫でしたか」


 リビングには、床に()せて死んでいるナミ子さんがいた。 横には笑顔のスモモさんがいて、体をさすってやっている。 一体何があったんだろう。

 さっき話を聞いたアキさんは、その様子を見ると、ニヤニヤ笑いを浮かべながら近づいていった。


「ナミ子ーっっ!!!! 調子どう? 元気だったぁ?」


 そんなことを言いながら、ナミ子さんの(かた)扇子(せんす)で突っついている。

 この2人は大して話してもないのに、すぐに距離が近くなった。 実は相性がいいのかもしれない。

 瑞が部屋に入りながら、スモモさんに話を聞いていく。


「どうだったんですか?」

「全然大丈夫だよーっ! ナミ子ちゃん、すごいよ!」


 スモモさんはそう言って、最大限にポジティブなことを言っている。

 本当か? この人も言葉の裏表がある気がして、額面(がくめん)通りには解釈(かいしゃく)できないのだ。

 一通り言葉を()わすと、スモモさんは立ち上がって帰り支度(じたく)を始めた。

 私は玄関までついて行って、スモモさんを見送る。


「ありがとうございました」


 私は何と言っていいか分からず、一言そういって頭を下げた。 別に親ってわけじゃないのだが、保護者みたいな変な義務感があるのである。

 スモモさんは(くつ)をはき終えると、顔を上げて笑顔を見せた。


「うん、いいよ! じゃあ、また来るからねーっ!」


 奥のリビングに見えるナミ子さんへと、まるで保育園の赤ちゃんのように呼びかけている。

 私もつられて振り返ると、向こうでナミ子さんは母乳に()えているのか、誰かれ構わず抱き着いていた。


「おっぱいいいいぃっ…………」

「ぎゃあああああああぁっ!!!!!!」


 相変わらず瑞はやる気はないらしく、全力で振りほどいて逃げている。


「葉月ぃぃ……おっぱいぃぃ……」

「ぎゃーっ! やめてくださああああいっ!」

「未来くん……あれ、未来くんって男だったっけ。 女だったっけ……」

「しょうがねえなあ、ナミ子オッ!! 俺のおっぱい飲むかあぁっ?! ぶっはっはっ!www」

「ハア”ァ”アアアアアアッッ????!!!! ()き出すぞオラアアァッッ!!!!」


 私は部屋の中に戻ってきていると、思い出したことがあった。

 さっきアキさんと『部活』の拡張案の話をしたっけ。 あの話を、葉月に持って行かねば。

 葉月は部屋の端っこで、寝転んでノートパソコンをいじっていた。


「葉月ー。 ちょっと、話があるんだけど」

「はい。 何ですか?」


 私はフローリングの床に座り込むと、さっきアキさんから話した『部活』の拡張案を、話していった。

 近くにはアキさんも来て、私たちが話す様子を見ている。


「……ってわけで、」

「嫌ですっ!」


 話を終えないうちに、葉月は早々に拒否した。

 あぁ、やっぱりこうなった。 予感はしていたが、あっさりと拒否された。 葉月は、ネットを通じての部活の拡張はやる気がないらしい。

 私は(ねば)り強く、説明してみる。


「でも、向こうから興味があるって言ってくる人たちだよ。 葉月のことも、分かったうえで入ってくれるんじゃ……」

「それでも、嫌です! 私はそんなの、やりませんっ!」


 大きな葉月の声が、部屋に響いていく。 私たちの話の真剣さを感じ取ったのか、つられるようにして他の人たちは静かになっていった。

 私は座ったまま、まっすぐに気持ちを押して話し続ける。


「でも葉月、ずっとこのままじゃ仕方ないでしょ。 もっと色んな人を受け入れていって……」

「なんで私を受け入れてくれない人たちを、受け入れる必要があるんですかっ!」


 葉月の怒声(どせい)が、辺りに響く。 明瞭(めいりょう)な論理に、私は思わず反論できず、黙り込んだ。

 葉月は静かな調子に戻り、苦々しい顔になって言った。


「もういいんですよ、先輩。 別に、そこまでして社会に溶け込む必要なんてないじゃないですか。 どうせ、人には受け入れられやすい人と、そうでない人がいるんです」


 葉月が話すのを、私は黙って聞く。


「私は、そうじゃない人の方なんです。 私を否定してくる人を受け入れるのは、私は無理です」


 そう言うと、葉月はその場を去っていった。 葉月が去ると、その場は静寂(せいじゃく)に包まれた。 6人もいるのに、驚くほど静かだ。


「……あー、葉月そんなになんだ」


 アキさんが、ボソッと(つぶや)くように言った。

 葉月の人嫌いの程度を言っているんだろうか? それとも視野の(せま)さとか、別の何かなんだろうか。

 実際には、アキさんの言った『部活』の話に乗ってきた人たちが、どんな人たちなのかは分からない。 なんとなく思うが、そんな話に乗ってくるぐらいだし、多少は性質の近い人たちだろう。

 葉月が拒否するほどではないだろうし、そんなことを言ってたら、いつまでたっても他の人と関われないと思うのだが。

 私は振り向いて、自分の考えを言った。


「私は、なるべく自分と違う人も受け入れていった方がいいと思ってるんですけど……」

「別に、受け入れなくてよくね?」


 横から、銀杏が会話に入ってくる。 私は思いがけない言葉に、顔を上げた。


「え?」

「いやー、そんなに人を受け入れる必要ってあるか? 自分と人は違うだろ。 なら、衝突(しょうとつ)して当然だろ。 黒縁だって、ふだん自分のことを()が強いとか言って気にしてるみたいだけど、もっと自分の意見を押していいと思うぞ」


 そういって銀杏は笑った。

 まったく、他人事(ひとごと)だと思って適当に言ってない? これ以上押すって、どうなるのよ。 ただでさえ我が強くて苦労してるのに。

 銀杏は続けた。


「俺は、葉月はそのままでいいと思う。 その『部活』の拡張案だって、やる必要あるか? 黒縁とか瑞ちゃんみたいに、理解してくれる人が近くにいればそれでいいと思うけど」


 うーん、そうだろうか?

 私はどうしても、普通に人と交流できるほどには頑張った方がいいんじゃないかと思ってしまう。 それって、私の押し付けなのか?

 次は、瑞が話し始めた。


「私は、フミの言いたいことも分かるけど。 ……でも、葉月とフミのやり方は違う気がする。 私も、葉月は葉月のままでいいと思う。 無理に他の人に合わせる必要はないと思う」

「でも、それで一人になってしまったんじゃないの?」


 私が反論するように言う。

 だって、そうでしょう。 大きい視点で見れば、私と葉月は似てる。

 他の人に歩み寄る気が無かったから、出会うまでは一人で誰とも話さずに生活してきてた。 それが限界に達したから、葉月は痛みを覚悟(かくご)してもがいたように見える。

 瑞は考えるように(うな)った。


「うーん、まあそうだけど……」

「前言ってた話ね」


 今まで黙っていたアキさんが、不意に会話に入ってくる。

 前に、アキさんにも相談に乗ってもらったことがあった。 製本の話し合いとして、宴会(えんかい)を開いた時に、私が悩みを相談した時のことを思い出したんだろう。

 アキさんは話を理解したようだが、何も言わずに黙り込んだ。 特に、何も言う気はないみたいだ。

 私は意見を聞きたくなって、今度はアキさんにも聞いてみる。


「……アキさんは、どう思いますか?」

「うーん。 俺は正直、葉月のことは全然わからんのよね。 ……正直、あぁいうタイプ苦手だし」


 アキさんはそう言って、少しおどけたように笑って見せた。

 私は理由が全く分からず、思い切ってさらに突っ込んで聞いてみる。


「なんでですか?」

「え? うーん……なんか、あんまり他の人のこと考えてないように見えるからかなぁ」


 へぇ、アキさんからはそんな風に見えるのか。 見当もつかなかったから、少し意外だ。

 私から見ると、葉月はちゃんと人のことを考えてるように見えるのだ。 なんでかって聞かれると、説明はしづらいけど……。

 私が納得してないような顔をしているのを見て、アキさんは変な形の扇子を動かしながら説明を加えた。


「社会って、他の人もいて成り立ってるじゃん? 自分の意見だけじゃなくて、他の人の意見もあるわけじゃん。 それをすり合わせて、最終的に全体としての意見にするわけだけど……。 そのすり合わせを、最初から放棄(ほうき)してるように見えるんだよね」


 なるほど、そういう見方か。 要は、葉月が他の人と対話をする気がないことを指しているんだろう。

 合わない相手とは、最初から話さない。 自分のことを理解してくれない人は、すべて拒否しようとする。 そういう行動が、身勝手で社会的でないと言っているんだろう。

 説明されてみると、たしかに葉月はそんな風にも見える。

 アキさんは続けて、私のことにも言及した。


「正直言うと、黒縁ちゃんの考え方もよく分からないんだよね。 自分を押すとか、他の人を受け入れるとか……。 だって、もともと社会って他の人もいて成り立ってるじゃん。 自分と世界の、2つだけ?」


 私はそれを聞いて、まったく別の刺激を受けた気がした。

 確かにそうだ。 そう言われると、なんで私がそう考えていたのかもよく分からなくなる。

 アキさんは、扇子を広げて笑った。


「まぁ、まだ学生だしねっ! これからゆっくり考えていけばいいんじゃない? ……それに、俺は葉月はちょっと苦手だけど、葉月は葉月のままでいいと思ってる部分もあるし。ははっ!」


 笑いながら、アキさんは(やわ)らかな笑顔を浮かべている。 余裕がある感じだ。


「じゃ、俺は帰るわ。 さっきの話はいいって言っといて。 じゃあね!」


 私がうつむいて考え始めていると、アキさんはすぐに立ち上がり、スタスタと玄関へと歩いていった。

 アキさんが去ると、私たちの間には張りつめたような静寂が訪れた。

 銀杏も誰も話さずに、私たちはしばらく動かずにじっとしている。 各々の思考が、部屋の中でひしめきあっているようだ。

 やがてゆっくりと動き始めて、場の雰囲気(ふんいき)がほどけていった。 誰かが冷蔵庫に向かったりして、元の日常に戻っていく。

 私は立ち上がり、他の部屋の様子を探ろうと耳をすます。 さっき葉月は去ったが、玄関から出ていった様子はなかった。 たぶん他の部屋にいるんだろう。

 もう夜になってきていて、私たちも帰る時間だ。

 ……だが、なんとなくここから離れたくない気分でもある。

 私はぼんやりと部屋の(かべ)を見ていたが、銀杏に聞いた。


「……あ。 風呂使ってもいい? 今日は、ここで入りたいんだけど」

「いいよ」


 銀杏は顔を上げると、OKというように頷いてくれた。

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