第58話 ナミ子30歳の誕生日っ!
ついにこの日が来たっ!!
秋のある日、ナミ子さんが30歳になる誕生日である。
スーパーでの買い物から帰ってきたナミ子さんは、手に買い物袋をさげていた。 リビングの扉を開けた瞬間に、クラッカーを鳴らして出迎える。
「誕生日おめでとうっ!!! ナミ子さん30歳おめでとおおおおぅぅっっっ!!!! イェイっっ!!!wwふううぅぅぅっっ!!!!!wwwww」
ナミ子さんは絶望の表情を浮かべて、買い物袋をドサッと床に落とした。
本人の気持ちは置いておいて、みんなで盛大に祝う会の始まりであるっ!
チキンにオードブルに、ありったけの豪勢な料理を用意してパーティーが始まった。
みんなで食べ物を食べ始めてからも、ナミ子さんは死んだように床に寝転がっている。 ニートのまま30歳の誕生日を迎えてしまったのに、現実を受け止められないみたいだ。
ナミ子さんは死にかけの虫のように体をねじっていたが、突然飛び起きて私に叫んできた。
「そうだっ! 黒縁ぃぃいい、授乳する小説書いてるんでしょおぉ? 私にもおっぱいちょうだああいいぃっっ!!! バブウウウゥゥッッ!!!www」
「ギャーーーっ!!!! ちょっとナミ子さんっっ!!!!!」
私の体をめがけて一直線に飛びかかってくると、服の下に潜り込もうとしてくる。 赤ちゃんのくせに力は強くて、引きちぎれんばかりに私の服を引っ張ってくる。
私は振り払いながら立ち上がり、部屋の中を逃げ回った。
「ぎゃ”ああぁああっっっ!!!!!!!! 助けてええぇええっっっ!!!!!」
「お”っぱ”い”いいいぃっっつ!!!」
私は部屋の中を走り回るが、ナミ子さんは本気で追いかけてくる。 廊下に出ようとドアを開けていると、追い付いて捕まえてきた。
私は開いたドアの隙間から、廊下に倒れこんで這うようにして逃げていく。 ナミ子さんの力は驚くほど強くて、全然振り切れない。
下を見ればナミ子さんは服の中に到達して、私の下着もはだけている。 ヤバい、この人本気だ! と思った瞬間、ナミ子さんは本当にパクっと乳首をくわえてきた。 ぎゃああぁああああっっ!!!wwww
「おぉ、やってるぅーっ! 楽しそうだねぇっ!」
顔を上げると、玄関からスモモさんとアキさんがやって来た。 2人もパーティーに呼んだのだ。
私たちの衝撃的な姿を見ても、2人とも平然としている。 どういうことなの。
下ではナミ子さんは私の腰をがっしりと腕で抱え込んで、ものすごい勢いでちゅうちゅう吸っていた。
まさか、始めて授乳する相手が30歳なんてね。 私もびっくりだ。 そんなに吸っても、まだ母乳は出ないわよ。ははっ!w
部屋に戻り、再びパーティーを進めていく。
おっぱいを吸って元気が出たのかは知らないが、ナミ子さんは起き上がって料理を食べ始めた。 死んだような顔をしてモグモグとチキンをほおばっている。
アキさんは、初めてナミ子さんを見たそうだ。 話を聞いて、小声で私に聞いてくる。
「……これ、俺と同い年なの?」
「はい、そうですよ」
アキさんは信じられないのか、愕然とした顔で目の前のナミ子さんの姿を見つめている。
アキさんは18歳から働いてきたらしいから、それは驚くだろう。 今まで自分が働いてきた時間を、ナミ子さんはずっと寝そべって過ごしてきたんだから。
私はナミ子さんの隣でご飯を食べながら、何気なく離れた席の瑞を見る。 瑞は、隣に座った楓ちゃんと話しているようだ。
最近は瑞は、以前とは変わった気がする。 『自分が嫌い』と家出した時からの話だ。
色々あったからか、すでに吹っ切れているように見えるのだ。 動きも機敏だし、顔がすっきりしている。
しかし本人は何も言わないし、ネット小説も更新してないままだ。
……まあいいか。 まだ考えることはあるのかもしれない。 健康的になっているように見えるなら、問題ないだろう。
「そうだ、ナミ子ちゃん、バイトとかしてみない?」
パーティーを進めていると、不意にスモモさんが話を切り出した。
ナミ子さんは何の話か分かってないようで、ぼんやりした顔でゆっくり振り向く。
「私が普段働いてるところは、とっても楽しいカレー屋なんだけどねぇ。 もしよかったら、ナミ子ちゃんも一緒に働いてみないかなぁって……」
「い”や”ああぁぁああぁぁぁああぁあっっ!!!!!!!!!!!!!」
話を聞いた瞬間、ナミ子さんは苦手なものが食事に出てきた3歳児ぐらいの勢いで泣きだした。
隣にいた私の体をガシンと掴んできて、ガタガタ震わせてくる。 あ”あぁ”あぁあっ!!!!! 私の手に持ったチキンのソースが飛び散るううぅっっ!!!!イェイっ!!ww
「ナミ子ちゃんが、何が得意で苦手なのか分からないんだけど、接客とかは……」
「ぎゃあ”あ”あああああああああああああああっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「接客は苦手? じゃあ他のところは……」
「う”あ”あ”ああああああああああぁぁぁあぁああああああああああああぁっっっっ!!!」
もう聞く耳も持たずである。 体全体をじたばたさせて、本当に子供のようだ。
スモモさんは笑顔で楽しそうに、そんな様子を見て笑っている。 実はドSかもしれない、この人w
「あっ! じゃあ、黒縁ちゃんも一緒にバイトしてみる?」
「へ”え”ぇっ!!??」
いきなり私に話が飛んできて、変な声が飛び出る。 なんで私?!
しかしナミ子さんは即座に理解したようだ、声を張り上げた。
「そうだっ! 黒縁、一緒にバイトして! 私、黒縁の赤ちゃんとして通うからさぁぁ! 毎回一緒にシフト入れてもらってぇ、この子赤ちゃんだから優しくしてください! ばぶぅーーっ!!ww みたいなwwww ぶっははっっ!!!!wwww ウケるwwwwwwwww」
ナミ子さんはそんなことを言って、私の膝の上で手を叩いて一人で爆笑している。 いや、意味わかんないんだけど。
「ともかく、少し考えておいて! ね?」
最後の一押しを入れると、ナミ子さんは苦しそうな顔に戻った。 死にそうな芋虫みたいに床を這って、私の膝にすがり付いてくる。
「ダメだろぉ……。 ニートは店長に苛められるよぉ……。 死にたくなるよぉ……」
聞けばナミ子さんは、主にネット由来の知識で働くのが嫌になったそうだ。
学生の時に、ブラック企業などで日々起きていることをたくさんネット上で目にして、働く前から嫌になったのだという。
なるほどなぁ、そういうことなんだ。 ……まあ今の情報社会だと、そういうことはありそうだけど。
私自身も、その影響を受けている当事者に思うし。
……ところで、ナミ子さんのこんな様子を見てると、ふと疑問が浮かぶ。 ナミ子さんは今までパソコンで一生懸命に何かをやってたみたいだが、あれは何だったんだろう?
私は今まで気になってたことを、膝の上のナミ子さんに聞いた。
「最近パソコンさわってたのって、仕事探してたんじゃないんですか?」
「はぁ? ……ゲームだけど」
「ゲームかよっっ!!!!」
渾身のツッコミを入れて、私は力が抜ける。 今までずっとゲームをしていただけらしい。
必死の形相でカタカタやってたから、頑張って自分の人生を見つめてるんだなぁと感心してたのに。
「別にニートで生きてこられたなら、ニートでいいじゃん」
私たちが話をしていると、テーブルの向こうで話を聞いていたアキさんが会話に入ってきた。
アキさんはゆったりとした姿勢で、ボリボリと枝豆を食いながら言っている。
初対面なのにいきなりこんなことを言えるなんて、やっぱりアキさんすげぇ。
大胆不敵なアキさんの言葉だが、思った通り、ナミ子さんはそれを聞くと即座に激高した。
「あ”あ”ああああああぁあぁぁぁぁっっ!!!!!」
と雄たけびを上げると、野生動物のように勢いよく襲いかかっていく。 テーブルに素足のまま乗っていき、料理も蹴散らしてガタガタと走り抜け、そのままアキさんに向かって突進していった。
「うわ”あ”あぁぁあっっ!!! スミマセンっっ!!」
アキさんも、流石に本気の突撃を受けるとは思ってなかったみたいだ。 びっくりして目を丸くすると、慌てて枝豆を落としながら逃げている。
そんな騒ぎを気にしないがごとく、離れた場所に座っていた瑞が、立ち上がって私のそばに来た。
「フミー、ちょっといい? 今度また違ったイベントがあるらしくてね」
隣に座って、ノートPCの画面を見せてくる。 何か、私に見せたいものがあるらしい。
画面を覗き込むと、そこには、今までとはまた違ったイベントが表示されていた。
「これから創作界をもっと盛り上げるにはどうしたらいいかを考える会なんだって。 フミ、こういうの興味あるんじゃない?」
おっ、その通りだ。 私は、未来的なものや建設的なことが大好きなのである。
イベントの概要を見ると、規模も大きくて楽しそうではないか。
「よーっし、じゃあ今度はここに行ってみようっ!」
私は立ち上がって、勢いに任せてこぶしを突き上げた。
てな感じでイベント当日の日がやって来たっ!
みんなでイベントに行こうっ!(黒縁)




