第55話 スモモさんに悩みを聞いてもらおう!
楓ちゃんと一緒に歩いて、別れた!
スモモさんを加えて、再び私たちは歩きだした。
足取りの軽やかさが加わり、私たちの歩みは早くなった。 風を切って歩いていきながら、スモモさんが聞いてくる。
「そうだ、ナミ子ちゃん、元気? ナミ子ちゃんって、ニートだっていうの私知らなくてねぇ」
私は話を聞きながら、思わず吹き出しそうになった。 ニートてw
ニートって、若干蔑称っぽいから、優しそうなスモモさんがサラッと言うのがなんか面白いwww
私が一人で勝手にウケている横で、楓ちゃんが問いかけに答える。
「あ! さっきナミ子さんに会いましたよ。 そのことを話したら、えーっと……気にしないで欲しいって言ってたっけ?」
「うん。 まぁ、大丈夫ですよ、多分」
引っ越し中のレンタカーの中での会話を思い出しながら、私は適当に相槌を打つ。 スモモさんは歩きながら、納得しかねるように唸った。
「でも、ずっとニートなのもよくないよねぇ。 お父さんやお母さんがいるのも、永遠じゃないんだよ」
そりゃそうだ。 ナミ子さんの両親がどれぐらいの年齢かは知らないが、時間なんて気づけばあっという間に過ぎていくだろう。
「うーん、そうですよねぇ」
楓ちゃんも同じことを感じたのか、唸りながら頷いている。
……たしかに改めて考えてみると、ナミ子さんは本当に社会復帰できるんだろうか?
私はナミ子さんは能力が高いなどと言って、ある程度の信頼を置いてきたが、案外そうでもないのかもしれない。
極度に苦手なこともあるかもしれないし、不登校みたいな悪循環の話もある。
私が考えるより、社会と深い断絶があるんじゃないか?
隣のスモモさんが、ぼそっと言った。
「……私、カレー屋に誘ってみようかなぁ」
「え、マジですか?」
びっくりして、思わず、雑な言葉が飛び出る。 スモモさんは落ち着いた顔のまま頷いた。
「うん。 少しでも何かしてみると、変わってくると思うんだけど」
「あぁ……まあ、そうですね……」
私は言葉をにごして、考える。
ナミ子さんが、バイトなんてするんだろうか?
カレー屋というと、接客業なのか? 普段の様子を見てても、接客がいちばん難しそうに見える。
親のPCショップでは一応仕事はしていたわけだが、さすがにあれは他の場所では通用しないだろう。
私たちが歩きながら会話をしていると、アーケード商店街を抜けていった。
商店街のそばには、大きな時計が設置されていた。 時刻は夕方を示している。
それを見て、楓ちゃんが声を上げた。 急いでスマホを取り出しながら言う。
「あ! 私、用事があるんだった。 ごめん、私行くね!」
楓ちゃんはそう言って手を振ると、タタっと別の方へと走り始めた。 そういや用事があるとか言ってたっけ。
私は手を上げて見送りながら、去り行く楓ちゃんに声をかけた。
「楓ちゃーん! ありがとーっ!」
楓ちゃんは振り返って、笑顔を見せて軽やかに去っていく。
あぁ、やっぱり良い子だなぁ。 あんな子が楽しく住める社会を、私たちの手で作らねば。
私はよく分からない義務感を感じながら、笑顔で楓ちゃんを見送った。
残された私とスモモさんは、2人で歩き出した。
商店街を抜けて、街中に川が流れているところに出る。 道路を歩いていて、横を見れば下方に川が流れている。
もう昼は過ぎて、夕方が近くなっている。 太陽の光がギラギラとオレンジを帯びていて、辺りに影を作って照らしている。
私とスモモさんは川沿いを歩き始めると、沈黙が訪れた。 2人とも、お互いに何も言わず、ただ歩く音だけが響く。
…………。
…………。
…………?
………………。
あ”ーっ! 気づいてしまった。
これはまた、葉月と同じパターンだ。
葉月とも、最初会った時はお互い黙っていた。 いや、別にだからと言って、葉月と相性が悪かったわけではないんだけど。
……でも、この沈黙はなぜか痛い。
別に私は沈黙が嫌いなタイプではないが、そういう話ではない。
なぜか、私の社会的な問題がもろに反映されているように思えるからである。
ムダな会話はしたくない。 意味のない笑顔を作りたくない。 表面だけの薄っぺらいことはしたくない。
そんな私のどうしようもない頑固さが、ギュッと凝縮された沈黙なのだ。
でも、何か違う。 本当にそれでいいのか?
なにか、自分に明らかに問題があるのは分かっているのだ。
でも、それが何かが分からない。
横を歩くスモモさんは、余裕の表情で川を眺めながら歩いている。 くっそ~っ!! 苦しんでるのは、私だけかよっ!w
そういえばスモモさんて、何歳だっけ? 確か25,6とか言ってたような気がする。 それなら、ナミ子さんの方が年上じゃんww あの赤ちゃんみたいなの方が年上てww 世界はどうなっているのやらあぁっっ!ww ぶははwww ウケるっwwwww
「……私、社会と線引いてるって言われたんですよね」
ぎゃーっ! 何言ってんの私っ!ww
気づけば、私の口から押し出されるようにして言葉が出ていた。
静かに歩いていたスモモさんが振り向いた。 スモモさんはポーカーフェイスと言うか、何があっても穏やかな表情をしている。 余裕ですねぇ先輩、おいっ!ww
もういい、こうなりゃヤケだっ!w 私は何もかも分からず、ただ自分の言葉を押し出した。
「でも、どうすればいいか分からなくて。 我が強いし、思い通りにならない社会と、でも自分の意見を通したいって気持ちが衝突しているような気がするんですけど……」
スモモさんは静かに聞き終えると、そのままのペースで歩き続けながら言った。
「うーん、楽にすればいいんじゃないかなぁ?」
「楽に?」
「うん。 黒縁ちゃんを見てると……すごく頑張ってるよねぇ。 一生懸命に頑張ってるんだけど、でも、そんなに頑張らなくてもいいんだよ。 ゆっくり、落ち着いて楽しめばいいんだよ」
スモモさんは穏やかに景色を眺めながら、ゆっくり踏みしめるように道路を歩き続ける。
落ち着いて楽しむ、か……。
そうだよなぁー……やっぱり人生落ち着きが重要……あれ? 何か致命的におかしい気がする。
「でも、どうやって落ち着いたらいいかが分からないんですけど」
「あ、そっか。 そりゃそうだ。ははっ! ごめんね、参考にならないねぇ、私」
そういってスモモさんは笑っている。
なんか、ますます分からなくなった。
瑞は、私のことが遠く感じるといった。 アキさんは、笑顔が大事という。 スモモさんは落ち着いて楽しめばいいという。
三者三様、みんな言ってることがバラバラだ。 全員違う視点で私を見ているんだろうが、こうも意見が違うと、考えることすら難しい。
悶々と考え始めた私の横で、スモモさんは話を変えた。
「そうだ、この前の山登りも、朝に走ったのも気持ち良かったよ! またアウトドアに誘って欲しいな」
私は頷いて、同意した。 銀杏もアウトドアが好きだし、今度どこかに行ってみようかしら。
私はその後少しして、スモモさんと別れた。
一人で悶々と考えながら、新しい家へと帰ってきた。 玄関に入りながら、うつむいて扉を閉めていく。
「……ただいまー」
ハンバーグでも食べたいなぁ……。(黒縁)




