第54話 楓ちゃんの気持ちを聞こう!
引っ越しを終えた!
「黒ぶっちゃん、私も行っていい?」
「いいよ。 行こう!」
楓ちゃんも乗ってきて、2人で散歩することになった。 玄関で靴をはくと、外に出て、街の中を歩いていく。
まだ細かく確認したわけではないから、どんな地域かよく分からない所もある。
今まで住んでいたところから遠くないから、街の印象は大きくは変わらない。
海にすごく近いのが特徴で、ごちゃごちゃした繁華街や住宅街が多く、昔ながらの地域がそのまま発達したような場所だ。
私たちは街の様子を眺めつつ、適当に話しながら歩いた。 普段の生活で楽しかったことや、最近書いた小説の内容なんかをお互いに話していく。
初めて会った時から時間がたって、楓ちゃんともずいぶん話し慣れてきた。
前は気づかなかったが、楓ちゃんは話しやすい。 楓ちゃんは話題を積極的に振ってくれるし、つねに相手のことを思ってくれているのが伝わってくる。
同い年だし、話題も見つけやすい。
葉月はいまだに話がうまくいかないみたいだが、私は気にならない。 人の相性って、あるもんだなぁ。
流れに身を任せて歩き続け、アーケード商店街のような場所へと入っていった。 人が多くて活気があるみたいだ。
私の実家の近所にも、こういったアーケード型の商店街はあるが、完全にさびれ切っている。 こういうのも、場所によるんだろうか。
アーチをくぐって影に入り、商店街の中を歩き始めると、楓ちゃんが唐突に呟くように聞いてきた。
「……ねぇ、葉月ちゃんって、私のこと嫌いなの?」
「葉月?」
突然の話題に驚きつつ、私は聞き返す。 楓ちゃんはうつむいたまま頷いた。
「うん。 なんか、いつも私避けられてるみたいなんだよね……。 話しかけても、うつむいてるだけだし。 話してもテンションがぐちゃぐちゃになってて、意味わかんないし……」
そういう話か。 別に、葉月も悪気があるわけじゃないと思うんだけど。
「別にいいんじゃない? 葉月なりに頑張ってるみたいだし、楓ちゃんのことは嫌いじゃないと思うよ」
「……でも、未来くんとか銀杏さんとかとは、ちゃんと話せてるよね」
まぁ、それはそうだけど。
私は思うのだが、良くも悪くも、葉月は正直すぎるのだ。 たぶん、表面を繕うのが極端に下手なんだと思う。
私はなんだかんだ葉月とは相性は悪くないこともあって、それが好きだし居心地がいいのだが、ふつう社会では、ある程度の表面的な社交性を求められるものなのだ。
それは別に悪いことではなく、自然なことだと思う。 全てにおいて正直でいたら、あっちこっちでムダに衝突してしまう。
ネットや海外なんかも含めて、色んな人たちと相手をする時代なら、余計に重要なのかもしれない。
互いに痛みの少ない浅い部分で駆け引きをして、衝突が少ない中で決着を見出す。 攻撃してくる危ない人を、いなしてうまくやり過ごす。
表面的な社交性も、奥が深くて、重要な意味があるんだろう。
葉月は、その駆け引きが苦手なんだと思う。
銀杏や未来くんは元々自分を繕わないタイプだ。 だから葉月は、2人とは自然に話しやすいんだろう。
ついでに私も、同じ理由で2人と話しやすいんだけども。
私は考えながら、言葉を口にしていく。
「何となくだけど……葉月は社交的に、うまく周囲とやり取りするのが苦手なんだと思う。 銀杏とか未来くんって、表面をあんまり繕わないから話しやすいんじゃないかな」
楓ちゃんは納得いかないようにうーんと唸っている。
少し間を置いて、楓ちゃんは心の内を吐露するようにして、苦しそうに聞いてきた。
「……じゃあ、私も繕ってるってこと?」
「うーん、分かんないけど」
私は言葉をにごす。
楓ちゃんはうつむいたまま、自分のことを話した。
「私は……たぶん、人に嫌われるのが怖いんだと思う。 だから、いつも笑ってないと不安なんだ」
そうか……。 楓ちゃんは、そういう気持ちだったんだ。
楓ちゃんはいつも笑顔で楽しそうだ。 社交的で、人に気を配るのも得意だ。
こんなに性格が良い人がいるのかぁ、善性の具現様様なんてバカみたいに思ってたが、心の内は意外とドロドロらしい。
人それぞれ、ちゃんと生物らしい理由があるんだなぁ。
……でも私はそんな楓ちゃんが好きだ。 人のことをちゃんと思ってくれている気持ちは、なぜか私には偽りのものには見えないのだ。
「私は、別にそれでもいいと思うけど」
「ほんとに?」
楓ちゃんは真剣な顔で、覗き込んで聞いてくる。 本当もクソも、私の混じり気なしの本音である。
私はまっすぐに頷いた。
「うん。 だって、そんなもんでしょ」
楓ちゃんはうーんと唸りながら、自分の考えへと戻っていく。
別に楓ちゃんは、葉月と相性が悪いわけではないと思う。 小説の内容も、お互いにぶっ飛んでるし。
少しずつ、時間をかければ、いつか仲良くなる気がするのだ。
アーケード商店街を歩いていると、一風変わった場所にやってきた。 アーチ構造が、部分的に壊れている場所みたいだ。
天井を見上げると、もはや補修できないほどボロボロになっている。 一体何が起きたんだろう。 雨が降ったら、ここだけ濡れそうだ。
楓ちゃんは黙って考えながら歩いていたが、周りの景色に目をやって、何かに気づいたように声を上げた。
「あっ! スモモさんっ」
一つの建物から、見覚えのある女の人が出てきていた。 見るとたしかにスモモさんだ。
仕事を終えた後みたいな様子だ。 今出てきた建物が勤め先なんだろうか。
スモモさんもこっちに気づいて、笑顔で手を振りながら近づいてきた。
「黒縁ちゃんたち! どうしたの? お店に食べに来た?」
「いや、散歩してたらたまたま通りがかって……」
「なるほどぉ、そういうことか!」
スモモさんはそう言って、楽しそうな笑顔を浮かべる。
スモモさんは毎日接客業をしているらしい。 今も、仕事終わりなのに、まだ笑顔を作れるのか。
私は立ち止まって、スモモさんが出てきた建物に目をやる。
ごちゃごちゃと賑やかな装いをした、若さと新しさのあふれるカレー屋だった。 アニメキャラっぽい絵がいたるところに張りつけられてて、時代の新しさを感じる。
建物自体は古くて、リフォームで外装を新しくしているように見える。 元々ここにあった建物を買い取って、別の店にしたんだろうか。
なるほど、スモモさんが勤めている場所はここだったんだ。
直で見ると、少し店自体も気になってきた。 私は、こういう新しくてテキトーな感じの場所が好きなのだ。 今度一回、勇気を出して行ってみようかしら。
スモモさんを加えて、再び私たちは歩きだした。




