第53話 引っ越しをしよう!
体育祭も終わり、さらに秋の風が感じられるようになってきた!
瑞たちは登校日で、今は家にいない。
私は銀杏のマンションで、優雅にお茶を楽しんでいた。 クソ安物の紅茶を楽しみながら、私はのんきに鼻歌を歌う。 ♪♪♪~ あぁ、今日もいい天気だわ。
相変わらず引っ越す先の家は見つかっていない。 最近は毎日のように、マンションの管理者が来て「ウワーッ!」と発狂して帰っていくが、まあ何となかるでしょう。
私は適当に考えていると、突然玄関の扉がバンと音を立てて開いた。
「黒縁ぃっ! 新しい家、見つけたよっ!」
玄関から、勢いよくナミ子さんが入ってくる。
私たちの代わりに、新しい家を見つけてきてくれたそうだ。 握りしめていたチラシを、テーブルの上に広げて見せる。
新品・出来立てのマンションの写真がのっていた。 1階がコンビニになっているマンションらしく、その真上の2階の部屋らしい。
「コンビニの上?」
「そう。 銀杏、多少うるさくても気にならないって言ってたから」
なるほど。 確かにコンビニの真上だと、音は多少は聞こえてくるかもしれない。 しかし防音機能はそれなりに高く、『コンビニの上だけどうるさくないよ!』とも書かれてある。
おぉいいじゃん。 防音機能が充実してるなら、内から外へも同じことだ。 やかましい私たちにピッタリである。
街も近くて、立地も悪くない。 今住んでるこの場所から遠くないところだ。
お値段はというと、安くはないが高くはない。 これなら私たちにもギリギリ借りられるかもしれない。
私たちがチラシを眺めて話していると、玄関から銀杏が帰ってきた!
「ただいまー」
「銀杏ー!」
ナミ子さんが大きな声を出して、玄関にいる銀杏を呼ぶ。
銀杏は呼ばれてこっちに来ると、低テーブルに座って一緒にチラシを見ていった。 銀杏は一通り情報を眺めると、軽い調子で話をまとめる。
「あぁ、いんじゃね?」
判断、はやっ。 私なら他に可能性がないか3日は考えるところだ。
私は優柔不断なのだ。 判断が早い人に、あこがれる。
新しい建物を見ると、私はなんだか活力がわいてきて勢いに任せて立ち上がった。
「よし、じゃあ引っ越そーうっ!」
「おーうっ!!」
「フォオオアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!!」
かくして、私たちはコンビニの上のマンションに引っ越すことになった!
ちなみに私は、同じマンションの上の方の階にもう一つ部屋を借りることにした。
私たちはなんとなく一緒に過ごす家を探していたわけだが、よく考えたらこの状態も変だ。
銀杏は自分の家でみんなが過ごしても構わないと言っていた。 だが秩序とか、独立性とか、色んな問題がある気がしたのである。
1日のほとんどを銀杏の家で過ごしたとしても、夜には上の自分の部屋に行って、そこで寝るつもりだ。
そして引っ越しの当日!
私たちは、ようやく銀杏の家から撤収し始めた。 『立ち入り禁止』区域を引っぺがして、散らかった本も片づけていく。
金がないので引っ越し業者を使わず、レンタカーを使って自分たちで引っ越しをすることにした。 段ボールへの荷物づめも、自分たちでやるのである。
ナミ子さんも、あまりだらけずに作業を手伝ってくれている。 最近は毎日運動し始めたので、体力がついてきたみたいだ。
ちなみに今は平日なので、葉月たちはまだ学校だ。 私と銀杏とナミ子さんの3人で、引っ越しの準備をしていく。
私たちが荷物を片づけていると、別の声がやってきた。
「やっほーっ! 手伝いに来たよっ!」
玄関の方を見ると、楓ちゃんがいた。 いつもの笑顔で、元気な声を飛ばしてくる。
先日引っ越しするという話をすると、手伝いを申し出てくれたのだ。
楓ちゃんは、催し物の振り替え休日で学校が休みらしい。 後で別の用事があるらしいが、それまで手伝ってくれるとのことだ。
私は振り返って、挨拶がてらお礼を言った。
「楓ちゃん、ありがとう!」
「いいよいいよっ! 私もヒマだったからさあ。 ちょうど地球が爆発すればいいなーと思ってたんだよね。ははっ!w」
よく分からない例えを言いながら、楓ちゃんは段ボールを運ぶのを手伝ってくれる。 1人増えるだけで、グンとスピードが上がって、作業がはかどった。
ほどなくして荷物を段ボールに詰め込み終わった。
レンタルした車はトラックみたいな大きな車で、銀杏が運転してくれるらしい。
車のそばに立って、私は改めてマンションを振り返る。
さあ行こうっ! さらば銀杏の家。
夜は静かだったし、冷房もちゃんと効いた。 私の借りたアパートよりも100000000倍マシだったから、この恩は忘れないぜ。
私たちは車に乗り込み、新天地へと旅立った! 私が助手席に座り、楓ちゃんとナミ子さんが後ろに座る。
車が動き出すと、後ろで、楓ちゃんが思い出したように話しだした。
「あっそうだ、スモモさんが、ナミ子さんのこと気にかけてたよ!」
「スモモさんが?」
「うん。 ナミ子さんのこと、今までどういう事情か知らなかったみたいなんだ。 話したら、心配だなぁーって言ってたよ」
「えぇ……いいよぉ……」
ナミ子さんは面倒くさそうに体を丸めて、別の方を向く。
聞けばナミ子さんは、他の人が自分にかまうのが嫌らしい。 ニートなのは自分でも嫌らしいが、放っておいて欲しいという。
でも、私はそんなに心配していない。 最近はますますパソコンで何かカタカタやってる姿が増えてきたのだ。
私はナミ子さんは能力が高いと思っているし、危機感もあるみたいだから、放っておいても自分で何とかしそうな気がするのである。
新居に着いた!
場所は事前に確認していたので、どんな場所かはおおむね分かっていた。 繁華街のど真ん中……とはいかないものの、かなり発展した場所である。
下のコンビニも新設で、まだテカテカと看板が光っていた。
家の中に入っていくと、まっさらでホコリ一つない住居が目に入った。
まだ誰も手をつけてない家というのは、こんなにも綺麗なものなのか。 ピカピカと光って見える壁や床を眺めながら、私はちょっとした感動を憶えつつ、家の中を歩き回っていく。
「黒縁ーっ! 風呂があるよー!」
ナミ子さんが楽しそうに、向こうの方から報告してくる。 声につられて見に行くと、汚れ一つない奇麗なバスルームがあった。
あぁ、ついに来たわね。 前の銀杏のマンションとも、風呂屋のクソ汚い風呂とも違う。
彼らも好きだし、名残惜しいけど、まぁこれからはこれでいいわ。ぶははっ!w
私たちは段ボールを運び込むと、ささっと物の配置をしていった。
大して物はなかったこともあり、小一時間で片づけは終わった。 上の階の、自分の部屋にも雑に段ボールを投げ入れて、よし、片付け完了っ!
寝転んでだらけ始めたナミ子さんを置いて、私は散歩することにした。 伸びを一つして、大きな声で言う。
「終わったーっ! じゃあ、私は散歩しようかな」
「黒ぶっちゃん、私も行っていい?」
「いいよ。 行こう!」
楓ちゃんも乗ってきて、2人で散歩することになった。
よーっし、たくさん歩くよっ!(黒縁)




