第49話 山で迷って、そして温泉!
さあ、ごはんも食べたし下山の時間であるっ!
頂上を堪能して、みんな気が緩んでるのが見え見えである。
しかし、私は違う。 こういう時にこそ、危ないことは発生するのである。
私は一人だけ気を引きしめながら、勢いよくポケットから地図を取り出した。
「よぉし……」
気合を入れて、鼻息荒く地図を見つめる。
この山は、山頂付近の道が特に分かりにくくなっている。 色んなコースが合流して、分かりにくくなっているのだ。
私は手元の地図をしつこく確認しながら、みんなと一緒に下り始めた。
登りの時はほとんど一人で地図を見ていたが、今度は瑞も手伝ってくれるらしい。 一緒に地図を覗き込んできて、「こっちじゃない?」とか言ってくれる。
あぁ、やっぱり可愛いなぁ瑞。 それに、瑞は方向感覚が良いんだろう。 じゃあ、ここは瑞に任せよう。
協力者が現れたことにより緩んだ私の脳みそは、どんどん判断が適当になっていった。
数分後……。
「迷ったっ!」
なんてことだ、やはり起きてしまった。 ヤバいなぁ、なんとなく起きる気がしたんだよね。ははっ!ww
私は心の中で笑いながら、瑞と大声でケンカするっ!
「ちょっと、瑞っ! あんた分かってんじゃなかったの?!」
「フミのせいでしょっ! さっきのところで間違ったんだよおおっ!」
「瑞の方が分かってそうだったからでしょおおお! 私が楽できると思ったんだよおおおっ!」
「だって私、方向音痴だもお”お”おおおおんんっっ!!」
おいおいと泣き出した瑞が、大声で主張してくる。
方向音痴なんかいっ!w もう、しょうがないなぁ。 私は呆れて、ため息をつく。
周りを見ると、遭難しかかっているというのに、みんな適当な雰囲気だ。
スモモさんは汗をぬぐいながら、すっきりした顔で遠くの景色を眺めてるし、銀杏もその辺の木ばかり見て、さらには一人で木と会話している。 「お前、何歳だ?」「200歳ですぅーっ!w」「おぉ、いいじゃねえか、ぐんぐん育つんだぞ……とか言ってな。フォッファッファッッ!!!!wwww」
葉月も植物ばかり見ていて、もぎとったキノコをブンブンと振り回して、「先輩っ! 変なキノコがありますよっっ! キャーッ!ww」などと言っている。
ナミ子さんは疲れ果てたのか、その辺の木の根元に腰を下ろしている。 目がぼうっとしていて、焦点が合ってない。 顔を真っ赤にして汗をかいて、ゆでだこみたいになっている。
そんな様子を見て、瑞が泣きながら大声でキレ始めた。
「ちょっとみんな! ちゃんとしてぇぇっ!! 遭難するかもしれないんだよおおおおぉぉぉぉっ!」
「そうなんかー。ふうぅうぅっっ!ww」
「瑞~、水ちょうだ~い。 飲ませてぇ~」
「瑞だけになあぁぁああっwwフゥウウゥゥツっっ!!!!www」
銀杏のノリだけのギャグを無視して、瑞は素早くナミ子さんに駆け寄っていった。 しゃがんでペットボトルのふたを開けると、せっせと水をあげている。
ナミ子さんは授乳される赤ちゃんのように目をつむって体を預けると、ペットボトルの水を少しずつ飲んでいる。
「こくこく……おいちー!」
「ナミ子さん、大丈夫ですか?」
「頭は大丈夫だよぉおww ブッハハッっ!!www」
そんな会話を背中で聞きながら、私は一人で地図を見ていた。
あぁもう、私ひとりじゃ無理だ。 私は限界を感じると、地図を手に持って、周りにいる他の人に聞いていった。
「未来くん、ここどこか分かる?」
「前しか見てなかったので……」
「銀杏は?」
「いやー、どこだろうな? ぶっはははっっ!!Ww」
「スモモさーん……」
「あ”あ”ぁぁぁぁあーーーっ!! ここ、きれいな景色だねー!」
あぁ、なんか疲れる。 私は情報収集していたが、最後にナミ子さんのもとに行った。
ナミ子さんは私たちの後についてきてただけだし、大して期待はしてないけど。
「ナミ子さーん。 ……ここ、どこか分かる?」
「ここ、さっき通ったよ」
ナミ子さんは周りを見ながらそう言う。 私は周囲の景色に目をやるが、似たような景色ばかりだったし全然分からない。
もしかしてナミ子さんは、こういう景色を憶えるのが得意なのか?
どうせ誰も分からないし、いっそのこと任せてみようか。
「ナミ子さん、先導してくれませんか? 道、分かりますか」
私が地図を差し出しながら言うと、受け取らずに立ち上がった。 地図すら見なくてもいいらしい。 よろよろとした足取りのまま歩いていく。
かくして私たちは、列をなしてナミ子さんについていくことになった。
瑞が私の横で歩きながら、心配そうに聞いてくる。
「……大丈夫?」
「うーん、でもどうせ分かんないし。 明らかに変な道に行こうとしたら、止めよう」
瑞はそれを聞くと、しぶしぶ納得したように頷いた。
数分後……。
私たちは見事に順路に戻っていた!
安堵の気持ちに包まれながら、見たことのある景色の中へと入っていく。
それにしても、ナミ子さんすごいじゃん。 アッパラパーに見えるけど、やっぱり能力は高いんだなぁ。
私は失礼なことを思いながら、再び地図を見て道の先導を譲り受けた。
そんなこんなで私たちは無事下山した!
山のふもと付近の、なだらかな斜面を落ち着いた気分で歩いていく。 先頭の銀杏が気持ちよさそうに腕を伸ばしながら、一人で喋っている。
「いやー! 山登りよかったなあっ! やっぱ人間自然を感じないといかんのかあーっ! フォッハッハッ!w」
「あぁ、気持ち良かったー!」
スモモさんも笑顔でそう言っていて、すっきりした顔だ。 色々あったが、なんとかなってよかった。
私はすり減らした神経が解放されていくのを感じながら、ぼうっと景色を眺める。
歩いていると、スモモさんが思いついたように言った。
「そうだ、これからみんなで温泉行かない? 街の中に、『ニュー最新最近温泉』ていう新しくできた温泉があって、行ってみたかったんだけど」
「あっ、いいですねっ!」
と反応したのは、葉月である。 葉月はずっとスモモさんと話してなかったのに、思わず反応してしまったみたいだ。
葉月は、その瞬間あっと口をつぐんでいる。 まったく露骨ねぇあなた。
でも、スモモさんは気を悪くしなかったようだ。 ニコッと微笑んで、答えてくれる。
「うん。 でも着替えがないから、いったん帰るかな?」
「そうですね。 いったん家に帰って、また集合しましょう。 ね、フミ」
瑞が案に乗じたのに、私も乗って頷いた。
山登りに温泉に……。 まるで充実している大学生みたいな一日である。
私がこんな体験をしていいんだろうか……と思ってしまうほどには、独りぼっちの生活をこじらせていたのだ。
電車で街に戻ると、私たちはいったん家に帰って、温泉にやって来たっ!
その温泉はつい一週間前に新しくできたばかりで、大きくて立派だった。
施設の中は和風で、……いや和風なのは当たり前か、ところどころに灯篭が立っているなど雰囲気十分だった。
施設の中の廊下を、奥へ進んでいきながら、スモモさんは楽しそうにはしゃいでいる。
「そうそう、ここに来たかったんだよっ!」
私は歩きながら、周りの奇麗すぎる壁や床を見てビビっていた。 ヤバい……。 こんなところ、私が来ていいんだろうか?
壁や床は超論理的でカクカクしていて、シンプルさと洗練さをつきつめたような最近のデザインで、奇麗さを幾重にも重ねたような感じだ。 私がどこをさわっても、すべてが一瞬で汚物と化してしまいそうで怖くなってくる。
私が一人でビクビクしていると、ほどなくして男女の分かれ目にやって来た!
銀杏と未来くんが男湯で、他は女湯である。
銀杏は分かれ目に来ると、そわそわしだした。 ムダに視線をあちこちに飛ばしながら、ようやく隣にいる未来くんへと視線を移す。
「あー……。 じゃあ、未来くん! 行こうか」
あれ? ひょっとして、銀杏は未来くんとしゃべるの苦手そう?
さっき山登りするときには、2人一緒にいる瞬間は多かったけど、話はしてないのかな。
……まあいっか。 まだ会って間もないし、そんなもんかも。 一緒に風呂に入って、お互いの背中でも洗いっこすればいいんじゃないかな。
2人はそのまま一緒に男湯へと入っていった。
未来くんが女っぽいから、若干カップルに見えなくもない。 身長差もあるから、なおさらだ。 周りの人が、思わず振り返って二度見している。
……あ、だから気にしてたってことかな。 そういうことかw
分かれ目から私たちも女湯の方に入って奥へ進み、脱衣所に来た。
広くてデザインのまとまった部屋の中で、私はスポポーンと脱いで、さっさと裸になる。 私はせっかちだし、面倒くさがりなのだ。
大浴場に入っていくと、私の頭はもはや真っ白になった。 どこを見ても、綺麗に掃除が行き届いているのだ。
あぁあ浄化されていく……。 私の18年の人生がぁぁ……。
いつもきれいなのが嫌だとか言ってるのに、悔しいがムカつくほど気持ちがいい。 今まで汚すぎたから、その反動だろうか。
クソぉ、くやしい……。 いいじゃないの、奇麗なのも。 悪くないじゃない。
私が風呂の景色を眺めたまま陶然と立ち尽くしていると、視界をナミ子さんが横切っていった。 脱衣所から来て、今から入るところらしい。
しかし、様子が変だ。 見るとタオルすら持っておらず、素っ裸でどこも隠してない。 しかも体も洗わず、堂々とまっすぐに浴槽に向かっている。
ナミ子さんっ!w 直で入るのは問題でしょう。 さすがに私もそこまでしないわよ。
私が止めようとすると、後ろから来ていた瑞が、慌てて代わりに止めに行った。
声をかけて立ち止まらせると、いつものように丁寧な口調で、まるで幼稚園児に語りかけるように、優しく教えていく。
「ナミ子さん。 こういう所では、体を先に洗ってから、お湯に入るんですよ」
「知ってる」
「知ってるんかいっっ!!!」
かくして、みんなで先に体を洗うことになった。 大量の鏡が並んだ広い洗い場で、一列に並んで座り、洗っていく。
私の隣で、泡まみれになっていた葉月が話し始めた。
「そういえば、今度体育祭があるんですよ、先輩」
「あぁ、そんな季節だっけ」
葉月の学校――前に私が行ってた学校は、秋は忙しい。 体育祭も文化祭も、秋にやるのだ。
こういうのは学校によって違う。 秋と春に分けるところもあるよね。
ちなみに私は初めの方でやめたから、どちらも経験せずに退学した。 高校の体育祭も、文化祭も、一度も体験したことがない。 ……別に、特に思うことはないんだけど。
葉月は髪の毛をワシャワシャと洗いながら、言う。
「先輩、応援に来てください! 私、ダンスを練習させられてるんですよ」
「でも、親が来るんじゃないの?」
「呼びませんっ!」
また出たよ……。 葉月は、親がよほど憎いらしい。 理解してくれなかったというが、そんなに嫌なんだろうか?
田舎に行く前に電話した時には、めちゃくちゃ普通の話せるお母さんって感じだったけど。
葉月の場合は性格が特殊すぎるから、どっちかと言えば葉月のせいなんじゃないのおお?!!www とか言ってね。ブッハハハッっ!!!ww
「先輩、聞こえてますよ」
私は体を洗い終えて、いよいよ湯船につかっていった。
お湯に体を沈めて落ち着いていくと、さらなる快楽が押し寄せた。 周りを見ると、美しい水が波紋を広げて空間を彩っている。
あぁ、ふ、ふつくしぃ……。 きれいすぎて気持ち良すぎる。
湯加減もちょうどよく、私の心臓が息を吹き返してくるようだ。 ドクン、ドクン……。 あぁ、これが生命の鼓動ね。
私はわけの分からないことを考えながら、エクスタシーの叫びをあげた。
「あ”ぁあっぁああああぁっっ……! ああ”ぁああぁあんっっ……」
「先輩、なんかエロいですよ」
かくして、みんなで一緒に温泉に浸かった。
はー! すっきりした。 たまにはこういう綺麗な場所も、悪くないもんだ。
今日も色々あったなぁ。 たった1日なのに、人と行動していると充実度がとんでもない。 私にとっては気の合う人たちだし、純粋に楽しかった。
こんな1日も、悪くないのかも。
おお”おぉ”おおぉおっっ……!んんん”んあ”あぁっっ!!(銀杏)




