第47話 みんなで山に登ろうっ!
瑞の家出騒動を終えて、数日たった!
夏も落ち着いて、ほんの少しだけ涼しくなってきた。 空には写真のようにきれいに入道雲がかかっていて、ようやく『普通の夏』が来たような感じである。 ……もう秋なのに。
瑞は小説を書くのも塾に行くかの決断もすべてほっぽり出して、とりあえず全力で遊ぶ……もとい、色々試してみることに決めたらしい。
まず手始めは、古代人の生活である。 銀杏が作った竪穴式住居は、まだ私のアパートの前に残っていた。 それを見て、縄文時代の生活をやってみたいと言い出したのだ。
そして今、なぜか私は竪穴住居の中で、縄文時代みたいな恰好をして、下駄を編んで作っている。
横には同じような恰好をした瑞と、さらには江戸時代みたいな恰好をした銀杏がいる。
銀杏が瑞に、一つ一つ下駄の作り方を教えてくれている。
……なぜ下駄かって? 銀杏が履いているのを見て、自分も履いてみたいと思ったそうだ。
でも、下駄って江戸時代ぐらいなんだけど、分かってるのかしら。
それに疑問に思っていたが、なんで私がやらなきゃいけないんだろう。
「いいから、フミもやって!」
瑞はそんなことを言って、私にも下駄づくりを強制してくる。 私は黙って、作業を続けた。
……なんか瑞、どんどん強気になってない? 野性的っていうか……。 もう私なんか追い越して、本格的に野性化していくんじゃないだろうか。
ちなみに葉月は興味が無いらしく、今はマンションの中で小説を書いている。 ここにいるのは私たち3人だけだ。
私たちが作業をしていると、銀杏が突然大声を上げてごろんと仰向けに寝転がった。
「ああぁぁああっーーーー!!!!! 焼肉くいてぇなあぁっーーーー!!」
「ところでフミ、わたし山登りしたことないんだけど、一緒に行ってくれない?」
銀杏の叫びを完全に無視して、瑞が被せるようにして話し始める。
え、なに今の。 銀杏、どうしたの。 焼肉食いたい? また私たちを、遠回しに誘ってるのかな。
そう思うが、瑞の質問に答えるのが先である。
「山登り?」
「うん。 低い山でもいいから、一度登ってみたいんだ」
なるほど、登ったことが無いのか。 普通、学校行事とかで何度か登る機会がある気がするが、場合によってはそういうこともあるかもしれない。
ちょうど気温も低くなってきたし、いいんじゃないか。
私は明後日の方向を見ながら、適当に答えた。
「ふーん。 いいんじゃない?」
「フミ、どこの山がいいか調べておいて」
「ぇ? 私が調べるの?」
「うん」
なんで、行きたい本人の瑞じゃなくて、私が調べるんだろう。
まったく意味不明だが、瑞はとりあえず可愛いなぁ。 命令する姿すらも可愛く見えてくる。
そんなわけで、山登りの日がやって来たっ!
せっかくだし、他の人も誘って登ることにした。 最近見知った人たちに見境なくメッセージを送ってみると、その結果、数人が来てくれることになった。
未来くんと、働きながら一人でコツコツと小説を書いてるというスモモさんである。
同い年で遠い学校の楓ちゃんは行きたそうだったが、学校関係の行事があるとかで不参加になった。 「学校に隕石が落ちればいいのにーっ! ははっ!w」とか言っていたが、隕石が落ちたら全員吹っ飛んでいて、山登りどころではない。
アキさんは、腕が痛いから今回は遠慮すると言っていた。
うーん、これはどういう意味だろう。 山登りに誘ってるのに足が痛いと言わないのは、どういうことだろう?
私は深読みしようとするが、どうせあの人の思考は読めない。 私は早々に考えるのを放棄して、頭を空っぽにすることにした。イェイっ!w
ナミ子さんは最初はしぶっていたが、私が強引に連れてきた。 どうせやることないんだし、ちょっとは運動しなさい。
かくして私たちは大人数で、山のふもとから歩き始めた。
私は瑞に言われたこともあって、事前に山について調べてきた。
この山は350mぐらいで、低い山だ。 それでも登るのには40分ぐらいかかるという。
途中複雑になっている場所もあるが、割と登りやすい山らしい。
普段住んでいる町からは離れていて、住宅街や田んぼがあるような郊外だ。
銀杏と未来くんは、男2人でドンドン先に進んでいく。 人がいないのをいいことに、銀杏は大声で歌いながら歩いているみたいだ。 「あぁああぁ~~~♪」と下手くそな歌が、下の方まで聞こえてくる。
銀杏は元気だからいいとしても、未来くんまでも歩くのが速いのは意外だ。 先頭を行く銀杏を追うように歩いていき、素早く足を動かしているのだ。
おぉ、やっぱり元気いいなぁ。 未来くんはストレスがたまっているようだった。 山登りは合うかもと思って誘ったのだが、良かったかもしれない。
「銀杏ー! もうちょっと、ゆっくり登ってーっ!」
下の方でみんなのペースを見ながら登っていた私は、上を見上げて大声で呼びかける。
聞こえてるのか否か、銀杏はペースを落とす気がないらしく、相変わらず下手くそな歌をガンガン歌いながら登っている。
まったく、しょうがないわね。 遭難しても知らないわよ。
私はため息をついて、山の地図を確認しながら歩いていると、横からスモモさんが笑顔で声をかけてきた。
「フミちゃん、今日は誘ってくれてありがとうっ!」
「いえ、y¥■★ぉ」
何を話せばいいか分からず、私は相変わらずどもりながら返事をする。
スモモさんは気にしていないのか、並んで一緒に歩きながら話し続ける。
「実はわたし結構運動が好きでねー。 毎日、朝に走ったりしてるんだ」
「へぇ、そうなんですか」
他人事全開みたいなことを言ってしまいながら、私は話を聞く。 いや、もうちょっと話を広げなさいよ、私。
ちなみにスモモさんは、カレー屋に勤めているらしい。 その働きに出る前に、朝ジョギングをしているということか。
スモモさんはちょっと体の動きにキレがあると思ってたら、そういうことだったんだ。
小説を書くのがインドアで、それに対してアウトドアの趣味もある。 二刀流で、なかなか健康的だなぁ。
スモモさんは話を続ける。
「本当はドライブとか旅行とか、そういうのもやってみたいんだけどねー。 職場にそういうのが好きな人がいなくて、行きたいなーと思いながら何となく過ごしてるんだ」
「ふぅん……。 ネットとかで、一緒に行く人を探すとかはしないんですか?」
私はなんとなく思った疑問を言うと、スモモさんは少し苦笑いしながら答えた。
「そうすればいいと私も思うんだけどねぇ。 でも別にそこまでしなくてもいいかなーとか、思っちゃうんだよね」
うーん、なるほど。
人によっては、SNSやサイトを駆使して人とつながっていると聞く。 やる気の問題とは言え、そういうのを活用して充実している人と、孤独な人との差が、激しくなっているような気がする。
私は考えながら、相槌を打った。
「うーん、まぁ、気の知れた人と行きたいってのもありますしね」
「そう! そこまで色んな人と関わりたいとも思わないんだよねぇ」
私は同意して頷く。
うーん、私も同じだ。 ずっと一人だとさびしい時もあるが、別にそこまで交友を広げたいとも思わない。
それにネット経由で人と会うのは、私はいまだに抵抗がある。
危ない人と会うリスクもやっぱりあるし、約束などの前処理をしたり後処理をしたり、正直面倒くさいのだ。
自然に少しだけ、人と話せればいいんだけどなぁー……。
……とか言いながら、私だって葉月が無理やり引っ張り出してくれなかったら、あのまま一人で生活し続けていたんだろう。
気づけば20歳になって、30歳になって、ナミ子さんみたいになって……ギャーッ!怖いっ!!w
引きこもって生活できてしまうから仕方ないとはいえ、いい対処法はないものだろうか。
近くで歩いている瑞と葉月は、私たちの会話を聞きながら黙っている。
葉月は相変わらず人見知りを発動していて、社交的に喋ろうという気はないみたいだ。 相変わらずうつむいて、足元を見ながら歩いている。
しょうがないなぁ。 葉月のこの社交性のなさも、やっぱり私は気になるんだけど。
……というか、スモモさんは私たち3人のことをどう思ってるんだろう?
私たちは学校や立場もバラバラで、書いている小説の方向性も違う。 変な集まりのように見えているんだろうか。
話しながら歩いていると、後ろのほうでナミ子さんが遅れているのに気づいた。
私は立ち止まって振り返り、ナミ子さんに声をかける。
「ナミ子さーん。 大丈夫ー?」
「ハア”アァァアッ????!!!!!!!!」
ナミ子さんはぜえぜえと息を切らしながら、真っ赤になって汗を流した顔で見上げてくる。
あなた、どんだけ体力ないの。 まだ登り始めて数分なのに、もう死にかけである。
私たちはナミ子さんを待ってから、再び歩き出す。
しかし登っていると、ナミ子さんは何度も遅れた。 私たちはゆっくり登っているのに、それでも遅れてくる。
ふだん運動しなさ過ぎて、ただ歩くだけでも病人みたいにフラフラだしね。 人間、歩かなかったらここまで退化するのかぁ、参考になるなぁっつってね。ぶははっ!ww
葉月も、体力がないようだった。 何度も立ち止まり、息を切らして顔を真っ赤にしながら登っている。
田舎に行った時も、葉月は畑仕事が辛そうだった。 元気で力が強い時もあるが、ふだん運動はしてないし、体力は少ないんだろう。
お菓子は持ってきたよ。(黒縁)




