第46話 瑞の家出!
瑞が家出した!
昨日の夜から家に帰ってないらしい。
やっぱりねぇ、何かが起こる気がしてたんだよね。ハハッ!w 私は笑いながら、瑞の親からの電話を受ける。
瑞の親は慌てまくっていて、電話の向こうで意味の分からない言葉を叫んでいるが、ともかく家の中で何かあったようだ。
瑞の親とは、実は一度だけ電話で話したことがあった。 一緒に田舎に行った時に、前日に電話をしておいたのだ。 瑞は古臭い親だとか言ってたが、普通に優しそうだった印象だったのを覚えている。
何度か瑞がこっちに泊まったことがあったから、今回もこっちのマンションに泊まったのだと思ったのだという。
電話を終えると、私は外へ飛び出した。
マンションの階段を走っていきながら、知りうる限りの知り合いにメッセージを流していく。 アキさんにも、授業中の葉月や、未来くんにもお構いなしにメッセージを飛ばしまくる。
さっき私からも瑞に連絡しようとしてみたが、返事はなかった。 情報網は拡大しておこうというわけだ。
まず目指すのは、瑞と最初に会った公園だ。
実は、瑞の母親はもう近くに来ていて、この辺で瑞を探していたらしい。 瑞の親はパニックになっているらしく、一度会いたいと言い出したのだ。
近くの公園に行くと、もう瑞の母親は来ていた。 おろおろとしている中年女性が、公園の中をさまよっている。
なんとなく面影が似ていて、優しくも芯の強さが感じられるから、すぐに分かった。
「ぎゃああぁああーっっ!!! 言いすぎたあああああぁあっ!!!!」
「落ち着いてくださいっ!」
瑞のお母さんは、やはりパニックになっていた。 私が話しかける前から一人で叫びまくっていて、その意外と荒っぽい姿は瑞そっくりである。
私が話しかけるのも無視して、ぎゃあぎゃあと家の事情を一人で喚いている。 しまいには頭を抱えてしゃがみ込み、「あぁあの時あんなこと言わなかったら……」などとブツブツ言っている。
今までの様子を見た感じでは、かなり頻繁にメッセージを送っていたみたいだから、嫌になった瑞が家出したんだろう。
私は屈んで、小さくなって震えている瑞のお母さんに声をかけた。
「ともかく、落ち着いて探しましょう。 瑞さんはしっかりしてるし、変なことはしないとおもいますよ」
「まままままあそうですね。 わわわあ私より、あああああの子の方が冷静だし……ゴアァアア”ア”アアアッッ!!!!!!!!!オエ”エ”エエエェェツッッ!!!!!」
「大丈夫ですか、お母さんっ!ww」
ともかく私たちは、手分けして瑞を探すことになった!
私はいったん家に戻ると、ありったけの金をポケットに詰め込んで、再び家を出た。
サビを取ってもピカピカには戻らなかった古い自転車に乗り、暑い日差しの中をひーこら言いながら走っていく。
たまたま葉月の学校の前を通りがかったところで、スマホが鳴った。 ちょうど学校にいる葉月からだ。
電話に出ると、ウキウキの葉月の声が聞こえてきた。
「先輩っ!!wwwwwww 私も学校やめますうぅぅっっ!!!!wwwwww」
「瑞は、退学したんじゃないからっ!! いいから、あんたは学校に行ってなさい!」
まったく、ただのいたずら電話じゃないか。 私は自転車をふたたびこぎ始め、そのまま学校を通り過ぎていく。
全速力で自転車をこいで、私は叫んだ!
「どこ行ったの?! どこ行ったのーっ!!!! 瑞ううぅぅつ!!!!」
いや!!! ここは一旦落ち着いて、考えよう。
私は急に冷静になり、自転車から降りた。 自転車をその辺にドンガラガッシャーン!と置くと、道端に座り込み、『考える人』のポーズで深い思考を始める。
なにか、見落としてることはないか? 情報を探せ、私! 最近瑞が言ったこと……前に言ってたこと……言ったことがないこと……。 総合して見える結論は……!!
……ん? 最近、本屋に行ったとき、棚の前で瑞が悩みを話したことがあった。
その時瑞が、雑誌のパワースポット特集を見てたっけ。 どんな悩みも破壊するという、勢いのある神社が近くの山にあるという話だった。
そこに行って、悩みを吹っ飛ばしてもらおうと思ったとか……?
いやいや、まさか、そんなアホな話www
山に入ったら、瑞を発見っ!! いや、いるんかーいっ!!ww
「ぎゃーっっ!!!! 離してええぇぇっっ!!!!」
私を振り払って、瑞は山の奥深くに入っていこうとする。 気づけば雨が降り出して、私たちは土砂降りの中でもみ合っていた。
周囲は山道のど真ん中で、崖みたいに下の方へ落ちていく山の斜面が、一歩隣に見えている。 雨はざあざあと降りまくっていて、足元の地面はぐちゃぐちゃだ。
私が引き戻そうとするのを振り払うように、瑞は叫んだっ!
「もう嫌だあああぁあぁぁっ!!!!! 何もかもはっきりしなくて嫌だあああぁっ!! 私が嫌いっ! 私が嫌いっ!! 私が嫌いなのおおおぉぉぉつっっ!!!!」
瑞は雨に打たれながら、涙を流し……ているかは分からないが、ともかく目をつむって必死に叫んでいる。
私も大声を出して、叫びまくった。
「私はそんな瑞が好きなのおおおっっ!!! いやだあ”あああぁっ! 行かないでえええぇぇっっ!!!!!!!!!!!」
「ぎゃあああああああああああぁぁっ!!!!! いやあぁあ”あ”あぁぁぁっっ!!」
そんなこんなでもみ合っていると、2人で山道から滑って落ちそうになった!
ずるっと足を滑らせて斜面に落ちかけた瑞を、山道から私がつかむ。 しかし重心が落ちていくのは止まらず、私たちは山の急激な斜面を滑りだした。
ヤバいっ!! 私は急速に野性の本能が働き、必死にその辺の木の枝にしがみついた。 激しい衝撃が、腕や肩を貫く。 見下ろせば、もう片方の手には、瑞の手がつかまれている。
山の斜面にざばざばと大量に流れてくる水を浴びながら、私は必死に引き上げたっ!
数十秒後、私たちはなんとか斜面を上ることができていた。
山道に戻って、2人で地面に倒れこむ。 あぁ、なんとかなった……。
私と瑞は、近くにあった神社の境内で雨宿りした。
2人とも雨に打たれて、全身びしょ濡れである。 あぁどうしよう、このままだと風邪をひいてしまうっ!!
「ヤバいわよ、お互い裸になって温めあわないとっ!」
「え? ……あぁうん」
あら、妄想が口から漏れてた。 妄想に戻るわよ。 ……それで服から水分を絞ったり、服で体をふいたりして、なんとか水分を飛ばしていくのよ。 後ろには瑞の裸があって、ちょっと触れたら背中の温度を感じて……。 ふとした瞬間にずるっと足を滑らせて、あっ!てなって、倒れこむのよ。 そう、裸のままでね。 目の前には一糸まとわぬ瑞がいて、お互いドキドキして見つめあって、心臓がドクンドクン……。 あれ、でもお互い女だけど。 いいじゃない、女同士で。 何が悪いのよ。 前と言ってること違わないかって? そんなことないわよ。 あら、よく見れば、瑞って結構可愛い顔してるじゃない。 猫目がじぃっと私を見つめてきて、お互いに高まってるのが分かって……。 私がそのまま抱きしめたら、瑞どんな反応するかしら。 体がびくってなって、でも受け入れてくれて……
「ぶええっっくしょおおおっんんっ!!!ww」
また現実に引き戻された。 今年一番デカいくしゃみが、私の鼻から炸裂する。
今年の夏が暑くて良かったわ。 もし寒かったら、絶対これ風邪ひいてるわよ。
ところで私たちは、もう衣服を乾かし終えている。
妄想とは違って、お互いに裸になることもなく、驚くほど何も起こらず、普通に水分を飛ばしただけで終わった。 あぁ、やっぱり現実ってクソだわ。
神社の屋根の端っこで雨をよけつつ、私たちは並んで座っていた。
「……私は、趣味で小説書いてきただけなんだよ。 フミとは違うの」
私がアホなことばかり考えているのも知らずに、真面目に瑞が話を始めた。 OK、いいわよ、聞きましょう。
「このままプロを目指しても、ダメになるって分かるんだ。 最近は小説書いてなくて。 小説の更新が止まって、毎日どうしたらいいか考えちゃって……」
なるほど、そんなに悩んでたんだ。 でも、まあそうかも。 そろそろ将来のことを考えなきゃいけない時期なのは事実だし。
私は鼻くそをほじりながら答えた。
「ふーん、じゃあ小説書くの一旦やめれば?」
「はあ”あ”ああぁぁっ???!!!!!」
瑞はめっちゃキレて、睨みつけながら覗き込んでくる。 え、そんなにまずいこと言ったかしら。 でも、これは本心である。
私から見ると、瑞は小説を書くのに割と向いている。 でも迷ってるってことは、本人はそれに気づいてないってことだ。
やはり瑞は、自分がどんな人間なのかが分かってないのだ。 なら、いったん他のことをやってみて、自分がどれだけ小説に向いているかを確認すればいい。
もしかしたら、他にもっと向いていることがあるかもしれない。 そういう意味でも、一度小説をすっぱりやめてしまうのはアリな気がする。
残された道が小説しかないと分かれば、死ぬ気で小説を書くものだ。ふはっ!w
私は適当に考えながら、適当なアドバイスを送る。
「一回やめたら気分転換するかもよ。 私も似たようなこと無いことも無いことも無いし」
そういうと、瑞はうつむいて静かになった。 考えているみたいだ。
……まぁ私も、人のことは言えないんだけど。
私だって小説家が本当に一番向いているかは自信がない。 余裕がなかったから、がむしゃらにその時に興味のあるものをつかんだだけだ。
他にも選択肢はあった気がするし、できればいずれ他のこともしてみたいとも思ってる。
それに瑞には言えないけど、私はこういうのって学生のうちに決めなきゃいけないものだとは思わない。
自分のことなんて簡単に分からないし、人生を通して探していくものじゃないの? ……そう考えるのは、私がのんびりしすぎなんだろうか。
そんなことを考えながら、私は相変わらず必死の形相で、鼻くそをほじりまくる。 ……お、結構デカいクソが取れたわよ。 ほら見て。
「……そうだね、やめてみよっ!」
「へ?」
クソを草に押し付けていた私は、まぬけな声を出して振り向いた。
「一回、小説書くのやめてみる。 それで、色んな事やってみようかな!」
瑞はそう言って、キラキラした晴れやかな顔になった。 あら、この子もずいぶん単純ねぇ。 まったく、うらやましいわ。ははっ!w
そんなこんなで、私たちは無事下山してきた!
山のふもとには江戸人の格好をした銀杏をはじめ、葉月やナミ子さん、さらには未来くんやアキさんまで来てくれていた。 どうやらみんなで、本気になって探してくれていたらしい。
無事に合流できた親子は、お互いを見ると一直線に引かれあい、抱きしめ合った。 瑞も涙を流して、ごめんと言って謝っている。
いい親子だなぁ……。 本当にお互いのことを思ってる親子を見ると、ほっとする。
落ち着いたところで、私たちは山から離れていった。
帰り道を歩きながら、私は改めて瑞のお母さんと会話する。 いつも話を聞いているらしく、私のことはムダに知っているらしい。
「黒縁さんも、ありがとうございました」
「いえ、こちらこs●!¥>」
うまく言葉が出ずに、私は頭をペコペコと下げて誤魔化す。
ヤバいわ、引きこもってたら活舌まで悪くなってきた。 これから毎日発声トレーニングでもしようかしら。
あ~~~。アーーーーー♪♪♪(黒縁)




