第44話 みんなで宴会っ!
マンガ家の男の人のアキさんに誘われて、製本してみることになった!
そして数日後、みんなで集まる日がやって来たっ!
製本をする前に、そのための説明などを含めて会食をすることになったのだ。
アキさんの指定した場所は、とある飲み屋である。 中には座敷の部屋がいくつも用意されていて、なんか高級そうだ。
アキさんは『金はいいよ、私が出すから』とか言っていたが、本当だろうか? あの人の言葉はいつも裏がある感じで信用できないのだ。
一応全財産をポケットに詰め込んできたが、これで足りるかも不安だ。
『松の間』『梅の間』とか書いてある中を進み、とある座敷へ集まった! 私は松の間じゃーいっ! 道を開けよ。ドゥッハッハッ!!ww
みんなそろって、さあ宴会スタートっ!
ワイワイと賑やかな会食の始まりである。
周りを見回すと、あのイベントの時に出会った人たちが全員そろってるみたいだ。
それに加えて、アキさんは自分の友達も2人連れてきていた。 2人とも学生時代からの友達らしく、距離が近く親しげに話している。
昔ながらの友達も連れてきて、イベントで出会った私たちも呼んだのか。
製本のためという名目だったが、アキさんは本当は、知り合った人たちと懇親会でもしたいんじゃないのか?
友達と話していたアキさんが、座敷に入ってきた店員に声をかけている。
「あー、ビールこっち! あと、枝豆も追加でもらえる?」
すごいなぁ、なんであんなに店員さんに親しげに話しかけられるんだろう? 私は相変わらず規模の小さすぎる悩みを頭で転がしながら、その光景を眺めた。
イベントの時に、私と同じく係員だったスモモさんという女の人もいた。 床に倒れていたアキさんを、一緒に運んだ優しそうな女の人だ。
この人は仕事をしながら、一人で小説を書いて投稿しているということだった。
……ちなみにこの人の小説を読むと、結構ドロドロの人間関係を書いていたり、殺人や流血などのグロテスクな表現が出てきたりする。
仕事でストレスがたまってるんだろうか、大丈夫ですか。 見た目は優しそうなのに、人間分からないものである。
さらに、私と同い年の楓ちゃんも来ていた。
楓ちゃんは、初めて私服になっていた。 あのイベントの時にも学校があったのか制服を着ていたので、今回が私服を見るのは初めてだ。
結構派手な格好で、カラフルな色合いと毒々しいデザインがちりばめられていて、ややもすればゲームキャラのコスプレみたいだ。
会食が始まってから、葉月はずっとうつむいていたが、楓ちゃんから熱心に話しかけられていた。
楓ちゃんは、やはり葉月とも話してみたいと思っているみたいだ。 葉月もコーヒーショップでのことがあるからか、今度はもう少し話そうと頑張っているみたいだ。
葉月は気が合う部分とそうでない部分がはっきりしているのか、気分が爆上がりしたり、一気に落ち着いて冷たい機械のようになったりと、乱高下している。
「あぁ”っそうですよねっ!!! 私も同じこと思ってて……いやでもそこは違うと思います。 全然わかりません」
とか言っている。
未来くんは、休日ということもあり、また女装だった。 やたらと肌がきれいで、服も清潔感があって、やはり女の子にしか見えない。
そんな未来くんに興味があるのか、アキさんは横に行って、首筋やら足やらをなめるように眺めまわしている。
漫画の参考にでもしたいんだろうか? このご時世、ほぼセクハラだけど。
私は入り口から一番離れて、反対側の壁際にいた。 テーブルの隅っこにいて、うつむいてちびちびとお茶を飲んでいる。
そばにはチャラい感じのスバルくんと瑞がいて、2人に挟まれるようにして座っている。
隣のスバルくんは、相変わらず『俺どうしたらいいんすかねー』と言い続けている。 私はそのたびに、『どうしたらいいんだろうねー』と返して、このカオスの宴会の中で保守性を全開にして、必死に安定にすがりつくようにしている。
瑞はしばらく私と一緒にいたが、思い切って立ち上がっていった。 テーブルを回りこんで入り口の方に行くと、アキさんの友達2人に話しかけていっている。
私はその光景を見て、感嘆のため息がこぼれた。
うーん、やっぱり瑞は度胸あるなぁ。 私だったら、あんなにまっすぐ話しかけていくのは怖くてできない。
今まで見ていて、瑞は心の強さがあるような気がしていたのだ。
そう思っていると、瑞はこっちを振り返った。 テーブルを隔てて、遠くから私を呼んでくる。
「フミー! こっち来て」
え?! 向こうを見ると、アキさんの友達2人が、興味深そうに私の方を見ている。
もうやだなぁ、なんか話したの?
私はしぶしぶ立ち上がり、瑞のところへ向かった。
テーブルを回りこんでいき、入り口付近の、アキさんの友達たちがいる場所に来る。
「ねえ、フミの小説、知ってくれてるってよ!」
またか。 瑞はぱあっと明るい笑顔で報告してくれるが、私はまたなんと言えばいいのやら分からない。
「あぁ、ありg$★&+」
私がそれっきり黙っていると、場の空気が一瞬静まったのを感じた。 相手の2人も貼り付けたような笑顔のまま何も言わず、変な沈黙が流れる。
それに気づいているのか否か、瑞が2人の方に向いて、話の続きに戻っていった。
「お二人は、漫画とか描かれてるんですか?」
「いや、私は最近は描いてないかなー。 ……昔はやってたんだけど、最近は見るだけになってきたw」
「へー、そうなんですか」
「でも、今度またアキと一緒に同人誌作ろうって誘われて。 描きだしたら、意外と楽しくなってね。 もうだいぶ前なのになー、やっぱり私は漫画が好きなんだなって思って」
瑞は少しコミュニケーションの波に乗ってきたのか、自然に次々と聞いている。
「漫画を描いたら、どうするんですか? 売るんですか?」
「うん、コミケでね」
「私、コミケって行ったことないんです」
「へー! そうかぁ、最近の子はコミケとか行かないのかなぁ」
楽しそうに話す3人の横で、私は黙り込む。
まただ……。 また私は、うまく話せない。 瑞はちゃんとうまく話せてるのに。 この違いは何だろう。
私はどうしようもなくなり黙り込んでいると、アキさんがやってきた。
「何の話? あ”あ”ああぁっっ、よっこいせ”え”ぇぇっ」
おっさんみたいな呻き声を漏らしながら、隣に座り込んでくる。
瑞はようやく私の異変に気付いたのか、振り向いて聞いてきた。
「フミ、どうかした?」
「いや、ちょっとトイレが……」
「なんで我慢してんの! 行ってきたら」
「うん」
私はうつむいたまま、アキさんと入れ違いになるようにして、座敷を出ていった。
必殺、頻尿発動っ!ww(黒縁)




