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第43話 本屋にて……瑞の悩みを聞こう!

 スバルくんと話をした!

 いつもの駅ビルに来ると、私たちは無駄(むだ)に長いエスカレーターに乗って、上の方の階にある本屋を目指した。

 実を言うと、本屋に来る意味はあまりない。

 私は本屋の雰囲気(ふんいき)が好きなのだ。 新しい情報が動いているさまが、何ともいえず気持ち良いのである。

 自分の興味のある知識にも()れられるから、有意義(ゆういぎ)でもある。


 あと、流行が分かるというのもある。 私は漫画(まんが)もアニメもほとんど見ないから、何もせずぼうっとしてると流行が分からなくなる。

 動画サイトで、オススメ動画が横に出てくるのが救いだ。 (かたよ)りはあるかもしれないが、最新の流行を含んだ動画が出てくる。 あれがなかったら、色んな流行をすっ飛ばしてしまってる気がする。


 ……え、なんで流行が気になるのかって? うーん、なんでだろう。

 実際、はやりものを見ても、見なくてよかったって思うことの方が多い。 面白くないと思えば思うほど、自分がズレているのを感じてしまって嫌になる。

 でも、社会の今の流れを知っておかなければという義務感めいたものを感じるのである。


難儀(なんぎ)な性格ですねぇ、先輩」


 私がエスカレーターに乗りながら、ぼうっと考えていると、相変わらず思考に割り込んで葉月がツッコミを入れてきた。


「別に、流行なんてどうでもいいじゃないですか。 先輩、意外とミーハーなんですね」


 いや、別にそういうわけじゃないけど。

 私も、以前は流行を気にすることは無かった。 しかし小説で食っていこうと決めた時から、敏感(びんかん)にならざるを得なくなったのだ。

 私は小説では、自分の好きなものを書いている。 伝承ものや、地域密着型和風ファンタジーなど、自分が好きだから書いているのであって、他人に合わせて書いたことはない。 自分の強い欲求や気持ちが入ってないと、どうせ売れないと思うからだ。

 しかし、もっと売れたいと思っているのは事実だ。 あのアニメが人気だ、あの漫画が売れてるって聞くと、つい見てしまう。


「まあ、それは分かりますよ」


 葉月はエスカレーターの上の方を見ながら、理解を示すように相槌(あいづち)を打つ。


「私も、全く気にならないわけじゃないです。 でも、そんなの気にしてもしょうがないでしょう。 どうせ自分が書けるものは、自分が持ってるものだけなんですから」


 葉月の言うことは、もっともだろう。 でも、せめてこの貧乏(びんぼう)生活から脱するほどには(かせ)ぎたいという、割と切実(せつじつ)な思いなのだ。

 すでに私の倍ほども稼いでる葉月には、どうでもいい話だろうけど。



 私たちはエスカレーターを上り終えると、本屋に入っていった。 各自散らばって、自分の求める本へと向かっていく。

 私は目的もなくブラブラと歩き回った。 漫画コーナーに立ち寄って、一通り流行作品を(なが)めて、そして雑誌コーナーにも行ってみる。

 (たな)の間に入っていくと、ちょうど入ってすぐのところに瑞がいた。 本棚の前に立って、雑誌をパラパラとめくっている。

 私は声をかけながら近づいた。


「瑞ー」

「うん」


 瑞は身動き一つせずに一言だけ答えて返す。 私は瑞の隣に立って、本棚を眺めた。

 瑞の読んでいる雑誌は、神社特集みたいなやつだった。 パワースポット云々とか言って、色んな神社が説明とともに写真付きでのっている。

 瑞が瞬き一つせずに見ているのは、『悩みをすべて破壊してくれる!イェイ!神社』らしい。 大丈夫、瑞。

 さほど遠くない山にある神社だ。 私も今度、一人で行ってみようかしら。 『金ください、金ください』つってね。ブハハッ!ww

 またブゥっという()みたいなバイブ音が聞こえた。 瑞は足元に置いていたバッグへとしゃがむと、立ち上がりながらスマホを見る。 瑞は暗い顔になってため息をついた。


「……はぁ」

「どうかした?」


 さっき道を歩いてた時も、同じことがあった。 顔もさっきと同じで、陰鬱(いんうつ)で暗い。


「夏休みが明けてから、塾に行くかを早く決めろって、親に毎日言われてるの。 もう、分かってるって」


 瑞はイライラした表情を見せて、荒っぽくスマホをバッグに突っ込んだ。

 なるほど、そういうことだったのか。 親がうるさいところは、大変だなぁ。

 私の親は放任主義ぎみだから、私は割と気楽にやらせてもらった。 親がうるさい家の子供は、今までも見たことはあるが、どういう気持ちで普段過ごしているのかが分からないのだ。

 外から見れば息苦しそうだと想像するが、慣れるんだろうか。

 本棚の前で、瑞は何も持たずに、ぼんやりとして言う。


「……私も、早く決めた方がいいとは思うんだけど。 最近、小説も書けなくなったし」

「え? 書けなくなったの?」


 突然の言葉に、私は驚いて聞き返す。

 瑞は頷いた。


「うん。 ここ数日書けなくなって、更新もしてないし」


 え、そうだっけ。 私は自分のスマホを取り出すと、瑞のユーザーページを表示させた。 葉月や瑞たちのはブックマークしているから、すぐに飛んでいける。

 最近の活動がまとめられている部分を見ると、数日分の活動がすべて止まっていた。


「あ、ほんとだ」

「うーん、どうしようかなぁ……。 ……大体、私って自分が嫌いなんだよね」


 いきなりどうしたの。 瑞はひとり言のように語り始めた。 しかし瑞の顔を見ると、本気の表情だ。


「塾がどうとか、将来がどうとか、正直どうでもいいの。 何に関しても、はっきり決められない自分が嫌なの」


 はぁ、なるほどねぇ。 そういう悩みか……。

 たしかに瑞は、そんな感じに見える。 自分の気持ちの形もよく分かってなさそうだし、決断する力も弱そうだ。

 私がふーんと適当に調子を合わせる横で、瑞は続ける。


「今までもずっとそうだったんだけど。 小説を書くようになってから、余計に自分のそういう所が嫌になってきたんだ。 文章を書くたびに、自分がふらふらしてるのが自分でも分かって……」


 それは私も分かる。 小説を書いていると、自分のことが分かってくる。 気持ちを洗い出して表現するからだ。

 好きなものや嫌いなものも分かるし、自分自身の性格が見えてくる。

 瑞は小説を書くのを通して、自分の性格の弱さや、気持ちがおぼろげなのに気づいたんだろう。


「……フミに会ってから、余計にそう思うようになったし」

「え、私?」


 なんで私? 私はびっくりして聞き返すと、瑞はまっすぐな目でこっちを見てきた。


「だって退学とかしてるじゃん。 私だったら、絶対無理だと思う」


 なるほど。 たしかに、瑞は私と正反対の要素を持っている気がする。

 瑞は、無意識に周囲を気づかったり、周りに合わせようとする部分があると思う。 でもそれが、自分の本来持っている性質を出さないように抑えているように感じられているんじゃないだろうか。

 普段の生活では(おさ)えているが、しかし小説の中では自分が好きなように、好きなものを書ける。 自分を、最も自由に表現できる場でもあるからだ。

 瑞が爆弾の知識が云々とか言い出したのは、無関係ではない気がする。 立ちションを一緒にしてジョボジョボ尿を垂れ流したり、私のおまるに尿をジョボジョボ垂れ流していいか許可を取ってきたり、もともと瑞はある程度解放的な性格のように見えるのだ。

 それに本人が言うように、我が強くてプライドが高い面もあるみたいだし。


 ふと気づけば、私のスマホの通知ランプが光っていた。 誰かからのメッセージが来ている。

 イベントの時に足をつったと(さわ)いでいた、よく分からないやり取りをしてくる男の人からだった。 プロの漫画家で、名前はアキさんとか言ったっけ。

 瑞も(のぞ)き込んできて、一緒にメッセージの内容を見ると、今度一緒に集まらないかという誘いだった。 『今度みんなで一緒に、製本してみない? 自分のネットに上げてる小説を実物の本にして、自分で売るんだけど。 同人誌(どうじんし)づくりみたいなもんだね』


「へぇー、何それ!」


 瑞は興味津々である。 話していると、葉月と未来くんも近くに集まってきていた。 みんなで一緒に画面をのぞき込んで、話す。


「何ですか? ……自分の小説を製本する?」

「自分で自分の本を作ってみるってことでしょ」

「へーっ! そんなこと出来るんですか」


 できるも何も、ただ製本すればいいだけだ。 イベントで個人で売ってる人は、大抵そうしているだろう。

 しかし、よく考えてみれば変な感じだ。 だって昔は、小説って本の形でしか売ってなかったはずなのだ。

 でも私たちはネット小説に慣れてるから、本の形ではない、ただの文章としての小説のほうが親しみがある。 ちゃんとした本の形になってる自分の小説を想像すると、変な気分になるのが変な気分なのである。

 さっき暗い顔だった瑞も、ワクワクした顔で興味津々である。 私は(さそ)った。


「ともかく、製本してみよう! 気分も晴れるかもよ」

「そうだね! 考えても仕方ないし、悩みを吹っ飛ばすように行ってみようっ!」

「瑞って、そんなキャラだったっけ」


 葉月の冷静なツッコミはともかく、みんなで製本してみることになった! 私は元気に腕を振り上げる。


「よし、みんなで製本してみよーぅっ!! おーっ!」

「先輩、静かにしましょう。 ここ本屋ですよ」

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