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第42話 スバルくんの話を聞こう!

 未来くんを捕まえてから、数日がたった。

 私たちは相変わらず、銀杏(いちょう)のマンションでダラダラと活動している。


 未来くんは無事に学校に行けたらしい。 私は実際に教室に行けるか心配していたが、大丈夫だったみたいだ。

 校門の前で立ち止まったが、頭を空っぽにして前しか見ずに歩いてたら、気づいたら教室にたどり着いてたらしい。 ……なかなか力強いわね、あなた。

 未来くんは家が近かったようで、たまにこの家に来るようになった。 小説の書き方が分からないらしく、瑞と葉月が教鞭(きょうべん)を振るっているみたいだ。


 今は私はまた、マンションの外にいる。 アスファルトの上にあぐらをかいて座り込んでいて、今度は自分の(くつ)補修(ほしゅう)作業をやっている。

 普通の運動靴だが、ゴム素材でできた靴底がベリベリと()がれているのだ。 何年も前に買った靴を押し入れから引っ張り出して使っているから、買った時の接着力が弱まったんだろう。

 いま私は両手にゴム手袋をつけていて、目の前にはバラバラに分解された運動靴と、100均で売ってる瞬間接着剤がある。 これをビャーッと靴底につけて、セロテープで固定して、靴を復活させようという算段(さんだん)である。

 ……え、適当すぎないかって? いや、多分うまくいくわよ、これ。 しょせん安物の運動靴だしね。ハハッ!w


 私は接着剤を手に持ち、靴底に()りたくっていく。 全体にいきわたるように、すみずみとね。

 ……ところで、さっき瑞からメッセージが来た。

 今日は平日で、そろそろ夕方なのだが、学校が終わったばかりらしく、『今から学校に来て!』などと、まるで葉月みたいなことを言い出したのだ。

 理由を聞いたら、私をネット小説部の部室に連れて行きたいということだった。

 しかし、私は拒否した。 完全部外者の私が、あの未来的で奇麗(きれい)な学校に入っていくのは、さすがに変だ。 許可を取るからいいとのことだったが、そういう問題でもない気がする。


 そんなわけで、私は結局動かずにここにいる。 瑞は納得いってないようだったが、仕方ない。

 私は靴の補修作業を続けていると、聞きなれた声が聞こえてきた。 顔を上げると、葉月が手を振って走ってきていた。 学校から帰って来たみたいだ。


「先輩ー! ただいまぁーっ!」

「おかえり~」


 私は返事をしながら、再び靴へ目を向ける。

 あぁヤバい、セロテープで固定している最中なのだが、接着剤を扱った後だから、(うす)いゴム手袋さえもくっついて破けてきた。

 私はやけになりながら、強引にセロテープを()っつけていく。

 鼻息を(あら)らげながら必死になって作業をしていると、私のすぐ後ろに野良猫(のらねこ)がいることに気づいた。

 人形みたいにただ座っているだけで、まったく人を怖がっていない。 1mにも満たない距離で、私の様子をじっと見ているのである。

 へぇ、今時の猫は人を怖がらないなぁ。 私が小さい時は、視界に入った瞬間から威嚇(いかく)されたし、()でようとしたら引っかかれて逃げられたというトラウマがあるのに。


 そばに来た葉月が、猫を見ながら言った。


「それは先輩、Z世代の猫なんですよ」

「Z世代の猫?」

「人がおどかさないから、猫も落ち着いてるんですよ。 この低エネルギー社会に、猫も適応してるんです」


 なるほど、一理あるかもしれない。 猫も本能だけで生きているわけではない。 生まれてからの経験によって行動は変わるだろう。

 でも、たしか野良猫の寿命はせいぜい数年だったはずだ。 Z世代って2010年生まれぐらいまでらしいから、今生きてる猫はとうに過ぎている。 なら、次のアルファ世代とか何とかなのでは?


 とかなんとか考えていると、遠くの方でバン!と大きな音が聞こえて、奇声が聞こえてきた。 ほどなくして、またナミ子さんが「あぁああぁぁ~~~~!!!!」と(さけ)びながらマンションの階段から現れた。

 猫もゆっくりと振り向き、ぼんやりと中年オヤジみたいにその方を見つめている。

 あれ、今度はどうしたんだろう。 さっき私が家から出ていくときには、ナミ子さんは昼寝してたはずだけど。


「黒縁いいぃぅっっ!!! ニート卒業する夢見たあぁあっ!!!!」


 ナミ子さんはそう叫びながら、純粋(じゅんすい)すぎる笑顔を浮かべて走ってくる。 小学生にもなっていない、幼稚園児のような純粋さだ。

 私は半分笑いながら、体に抱き着いてくるナミ子さんを受け入れた。


「そうですか、よかったですねぇ」

「う”う”うぅうぅんんんんっ!!Www ほ”あ”あ”あぁあぁっっwwwww」


 意味不明な鳴き声を上げながら、ナミ子さんは私の腹にぐりぐりと頭を押し付けてくる。

 まったく、社会はどうなっていくんだろうか。 いずれこんなことをする、50歳とか100歳とかが誕生(たんじょう)するのかしら。 まったく、面白いわねぇこの世界は。ははっ!w

 近くにいた猫は警戒(けいかい)しているようだった。 ドン引きするような目を向けながら、猫は(ゆる)やかに走り去っていく。 まぁ、そうよね。 分かるわ。

 私たちがもみ合っていると、葉月もウズウズして我慢(がまん)できなくなったのか、私たちに飛びかかってきた。


「先輩、私も混ぜて下さいっ! きゃーっ!ww」

「ぎゃーっ!」


 日差しの照るアスファルトの上で、3人でぐちゃぐちゃになっていく。

 16歳学生と、18歳引きこもりと、29歳ニートである。 いったい私たちはどこへ向かっているんだろう。

 3人で(から)まっていると、さらに追加の人がやって来た。


「フミイイイィィィィッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 見ると、今度は瑞が向こうから走ってくる。 気づいたときには目の前に来ていて、瑞は勢いよくタックルして頭から突っ込んできた。 ちょっと、またなのおおぉっ!!ww


「ぎゃーっ!!」


 頭突(ずつ)きを食らって、さらにみんなでぐちゃぐちゃになっていった。 何なのよいったい、瑞も本当に元気になったわねぇ。ははっ!w

 瑞がやって来たのを見て、ナミ子さんは飛び起きた。


「瑞ちゃああんっっ!!!! 私、ニート卒業する夢見たよおおおおぉっっ!!!!Ww」


 そう言って、瑞に向かって純粋すぎる報告をしていく。 まるで母親に向かう赤ちゃんのようだ。

 瑞は報告を受けると、ぱあっと顔を(かがや)かせた。 何をしに来たのかも忘れて、抱き着いてくるナミ子さんを受け入れると、持ち前の優しさ全開でナミ子さんを()でてやっている。


「へぇ、そうですか! よかったですねぇー」

「う”へええwww うっひゃあっひゃああぁぁっっQQwwww」


 ナミ子さんは(うれ)しそうに身をくねらせ、よだれを垂らして恍惚(こうこつ)の表情を浮かべている。 純粋さは子供だが、下品さは大人のそれだから、微妙に色々かみ合ってない気がするのは気のせいだろうか。

 瑞は少しの間ナミ子さんを()でていたが、ようやく何をしに来たのか思い出したみたいだ。 ナミ子さんを地面にボトンと落っことすと、靴の補修作業に戻っていた私の(うで)をつかんでくる。


「あっ!!! フミ、ちょっと来て!」

「ぎゃー! まだ、セロテープがぁ……」

「いいから来てえええぇつっっ!!!!」

「瑞ちゃぁん……もっと()でてぇ……」

「先輩いいいぃっ!!! 私を置いてどこ行くんですかあぁーーっ!」

「ちょっと待っててええぇっ!」


 そんな感じで、瑞は無理やり私を引っ張っていった!


 連れてこられたのは、近所の公園である。 ここは最初に瑞と会った場所だ。 周りの景色は自然がほどよくあって、すっきりしていて、遠くに瑞の通う綺麗(きれい)な未来学校が見える。

 公園に入ると、瑞は公園内に設置された木のテーブルへと向かった。

 テーブルには学生が2人いた。 瑞と同じ未来学校の制服に身を包んだ生徒らしき人が、男女一人ずつだ。

 私は嫌な予感がした。

 2人とも別々の方向を向いてるが、私たちのことを待っているんだろう。 引き合わせようとしているんだろうか。

 瑞は私を引っ張っていくと、2人に話しかけていった。


「田中さーん! 連れてきたよ」


 声に反応して、女子生徒が私たちを見た。 田中さんと呼ばれた女の子は私を見すえて、挨拶(あいさつ)してくる。


「あ、こんにちはー」


 私はとっさのことで言葉が出てこず、黙ったまま小さく会釈(えしゃく)を返した。

 いま私は帽子(ぼうし)をかぶってない。 こういう時、帽子をかぶっていたら、自分を(かく)せそうで安心できるのだが。

 2人のうちの、もう一人の男子生徒は、見覚えがあった。 あのマンガやらなんやらの混合イベントで知り合った、瑞の学校の後輩の男の子だ。

 瑞と同じようにネット小説部に所属している、1年生の、名前はたしか早川(はやかわ)スバルくんだった。

 今日もチャラい感じで、校則違反と見まごうほどのバリバリのファッションを決めている。


「おっす、フミぃー!」


 とか言って、気軽に挨拶してくる。 ……あれ、下の名前で呼んでたっけ? まあいいか。

 私たちはテーブルのそばに来ると、立ち止まって話を始めた。


「フミ、田中さんがフミの小説、知ってるって!」


 瑞はそういって、(うれ)しさを(かく)し切れないような顔で報告してくる。

 あぁ、あなた可愛(かわい)いわねぇ。 でも、別にそういうの報告しなくてもいいんだけども。

 だって、そう言われたって話が進むわけでもない。 小説を知ってるってだけじゃ、反応に困る。 ファンですとか、いつも読んでますとかなら分かるけど。

 私は何とも言えない気持ちになりながらも、変な嬉しさと気恥(きは)ずかしさでニヤケ顔になりながら答えた。


「あぁ。 …………ありがとうございますw」


 そう言ったっきり、私は(だま)りこくる。

 ………………シーン。 変な空気が流れた。

 瑞は別に気にしてないのか、『なんか話したらっ? ウキウキ』みたいな顔で私を見てくる。 あぁ瑞、可愛いわねぇ。 でも、そうじゃないのよ。


「あそうだ先輩、俺何したらいいと思います?」


 突然スバルくんが、別の話を始めた。 何か思い出した話題があるみたいだ。

 おっ、ナイス(たす)(ぶね)ぇっ!ww これ以上会話を(ふく)らませそうじゃなかったし、助かった。

 私たちは、一緒に木のテーブルに(こし)かけながら会話していく。


「何の話?」

「俺悩んでるんです。 小説とかマンガとか興味あるんだけど、何やったらいいか分かんないんすよねー」


 スバルくんは(かす)れたような低い声で、真面目(まじめ)な口調で話す。

 イベントの時にもそんなことを言ってた気がする。 ネット小説部には入っているが、スバルくん自身は小説を書いてないとか言ってたっけ。

 私は思い返しながら、答えた。


「うーん……。 ネット小説部に入ってるなら、小説書けば?」

「いや、俺、文章ムリだし」


 スバルくんは、何でもないことのように、あっさりと答える。 テーブルの向かいに座っていた女子の田中さんが、笑いながらツッコミを入れてきた。


「じゃあ、なんで入ってんの。 アニメ研究会とかに入った方が良かったんじゃない?」

「そうかも。 先輩、俺に何が向いてると思う?」


 スバルくんは私に聞いてくる。 いや、知らないよっ! 私たちはまだ会って2回目である。

 だが本人は真面目な様子だ。 一応、私は真剣にスバル君を見つめて考えてみた。

 スバルくんはかなり強烈(きょうれつ)なファッションで、昔ならバンドとかやってる感じに見えなくもない。

 私は適当な偏見(へんけん)をおり()ぜつつ、答えた。


「うーん、文章が苦手なら、音とか?」

「音?」

「創作って言っても、色々あるしね。 アニメだって、脚本(きゃくほん)とか絵を()く人とか、音楽作る人とか、色々いるよ」

「確かに! ……なるほどなー、そういうのか」


 スバル君は納得すると、考えるように別の方向を見ている。

 まあ、今どき創作に関われることなんていくらでもあるだろう。 探せば、何かあると思うのは事実だ。

 スバルくんは見た目は強烈だが、ちゃんと将来のことを考えているように見えるのである。



 そんな感じで、謎の会合は解散していった! 田中さんたちと手を振って別れて、私は公園を出ていく。

 この会合には果たして意味があったんだろうか。 道を一緒に歩きだしながら、私は瑞に聞いた。


「……なんで、連れてきたの?」

「え? なんとなく」


 瑞は適当に答えたきり、黙り込む。 私も釈然(しゃくぜん)とせずに黙っていると、瑞は沈黙を突き破るように力強く言った。


「いいじゃんっ! フミも、もっと色んな人と()れ合った方がいいって」


 まぁ、それはそうかも。

 田中さんは私の小説を知ってただけだったが、遠い知り合いと言えないこともない。 ちょっとずつでも、意味はなくても、色んな人と話すのは悪くない気がする。

 私たちが会話していると、ブゥっという()みたいなバイブの音がして、瑞はバッグを探った。 カバンの外側にスマホを突っ込んでいるらしく、そこからスマホを取り出して操作し始める。 何か通知が来たみたいだ。

 しかし瑞は、画面を見つめたのち、ため息をついた。


「……はぁ」

「どうした?」

「いや、なんでもない」


 瑞は見たものを振り払うように、スマホを再びバッグに突っ込んだ。 何か、嫌なことでもあったんだろうか。



 銀杏のマンションの近くに戻って来ると、別の人が見えた。 未来くんだ。 今日は夏用の男子制服に身を包んでいる。

 顔や髪形は女の子だから、変な錯覚(さっかく)(おちい)る。 行って戻ってまた行く、みたいな。


「未来くん!」


 私は近づきながら手を振ってみる。 未来くんは思わず反応するように、小さく手を上げて振ってきた。 あら、なに可愛いわね。

 見ると、ちょうど葉月もマンションから出てきていた。


「先輩ーっ! どこ行ってたんですか。 ずっと一人でさびしかったんですよっっ!」


 葉月は相変わらずの元気さで、服の(すそ)を風になびかせながら、ズンズンと歩いてくる。

 この元気さにも慣れてきた。 私は適当に謝った。


「はいはい、ごめん」

「あ、未来くんも来たんですね」


 歩いてくる葉月はそういって、未来くんの方に目を向ける。

 葉月はやっぱり普通に話ができるみたいだ。 人によって違うとはいえ、こうも極端(きょくたん)とは。

 合流して、マンションに向かって歩きかけていると、私はふと思い出したことがあった。


「あ、そうだ。 私これから本屋に行きたいんだった」

「え”?!!! 先輩、私も行きますう”う”うぅぅっ!!」

「私も本屋に行きたいかも」


 瑞も思い出したように言う。

 あら、みんな奇遇(きぐう)ね。 でも葉月は、未来くんに小説の書き方を教えるんじゃなかったの。


「そんなの、明日でいいでしょう。 ささ、行きましょう!」


 葉月は私の(かた)に手をかけると、()ねるように押していった。 再び道路の方へと、私たちは歩いていく。

 あーしたてんきになーれ。(黒縁)

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