第41話 テンション上げパーティー開催!
女装好きの未来くんと再会した!
一緒に家に帰って、銀杏に事情を話す。
銀杏は「はーん」とか言って全く興味なさそうだったが、あまりに暗くうつむきがちな未来くんを見て、提案した。
「なんか、元気ねぇなぁ、君ぃ。 テンション上げパーティーでもやるか? おいっ!ww」
「え? 何それw」
意味不明すぎて、私は眉をひそめる。 テンション上げパーティー? 聞いたことも発想したこともないんだけどw
しかし銀杏は真面目な顔で説明する。
「いやー、俺よくやるんだよ。 カラオケボックスとかで一人で。 とにかく音楽かけまくって、メシ食いまくって、歌いまくって踊りまくって、意味もなくテンション上げるんだよ。 一人で。ぶっははっ!www」
「銀杏さん、頭大丈夫ですか」
葉月が冷たい目を銀杏に投げている。
しかし私は、意外に良いアイデアかもと思い始めた。 確かにここで静かにお通夜みたいにごはんを食べても、前みたいに『じゃあ……』って何事もなく帰っていくことになるんじゃないのか?
ちょうどこのマンションは廃墟同然になってきて人がいないから、どれだけ騒いでも迷惑にならないし、試してみてもいいかも。
それに、小説のネタにもなるかもしれない。 意味不明なところにこそ、変で面白いアイデアはあるものだ。
……と、私はこういう合理的な思考回路は辿らずに、ほぼノリで同意した。 気づけば自分の首が動いて、勝手に頷いている。
「うん、やってみようっ! 意味わかんないけど」
「先輩、病院を紹介しますよ」
いいのよっ! 無意味にテンションを上げる必要がある時もある!……と思う。
私たちは散らばって、準備を始めた。
そんなわけで、テンション上げパーティーが始まった!
「フゥゥウウゥゥッッッ!!!!!!!!!!!!wwwwwwwwwwwwww」
「いぇええぇぇええいっっっっ!!!!!!!!!wwww」
「楽しーーーーっっ!!!wwwwww」
みんなで意味不明に叫びながら、狂喜乱舞してご飯を食っていく。 ヤバいわ、なんかの宗教みたいで怖くなってくる。
私も激安の唐揚げをほおばっていると、歌う順番がやってきたっ!
カラオケマシンはないが、銀杏が持っていたCDプレイヤーがあったので、それにスマホを接続して音楽を再生しているのだ。
マイクを持つ格好をして、私はノリだけで歌っていく。
「あぁああ~~~~!!! ふぅううぅっ!! イェイっ!!ww」
「キャーッ!!w 先輩~~っ!! へたくそーっ!!w」
そんなことをやっていると、ついに未来くんもカラオケで歌う番がやってきたっ!
「悲しみの~……雨がー……」
「イェイ!! ふぅうっふっうっ!!ww」
「天に……消えていくとき~~っ」
「未来くんっ!!! かっこいいよおーーーっ!!!w」
「太陽がああぁあっ! 光るううぅぅつっ!!!w」
「フウウウゥゥッッ!!!www」
こうして順調にテンションが上がっていった未来くんは、ようやく笑顔を取り戻した。 あははとずっと笑っていて、よかったぁああ!! イェイっ!w
と思うと、未来くんはその辺にあった着色スプレーを引っつかむと、ハンガーにかけてあった自分の制服にぶっかけた!
「ぎゃーっ!何やってんのっ!! 落ち着いて、未来くんっ!」
「先輩! 何してんですか、次先輩の番ですよおおぉっ!!ww うははw」
「私、瑞が歌いますっ! あなたの紙飛行機~♪ ほしいのよ~」
「フォオオオオォオォォオオオォアアァアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!!!!!wwwwwwwwwwwwww」
「ぎゃー! ちょっとみんな、落ち着いて! 一回やめえええっ!!」
その後すったもんだののち、ようやく場は沈静化した。 音楽をBGMとしてかけながら、みんなで落ち着いて腰を下ろして料理を食べていく。
私ももう疲れて、筋肉がだらけていてヘロヘロである。 ぼうっとしながら味噌汁をすすっていると、横の未来くんがご飯を食べながら聞いてきた。
「小説って、どんな風に書くんですか?」
「興味あるの?」
私が答える前に、葉月が身を乗り出して聞いていく。 未来くんは頷いた。
「うん。 葉月さんたちみたいに小説を書いてみたら、イライラが発散できるかなって……」
「なるほどっ! 分かりました、私が教えてやりますよっ!」
葉月が立ち上がって、燃え上がりながら言う。
あら葉月、なんか未来くん相手は積極的ね。 それに、やっぱり話しやすそうに見えるのは気のせいだろうか。
未来くんは話題を変えて思い出したように言った。
「そういえば僕、いま不登校になってて……」
不登校? そんな話、聞いたっけ。
私は聞き返す。
「え、そうなの?」
「はい。 夏休みが明けてから、学校に行ってないんです。 担任の先生と、教頭先生と、校長先生と、取っ組み合いで殴り合ってケンカしたので、行きづらくて……。 もう僕、どうしたらいいのか……」
そう言って、未来くんは頭を抱えている。
ヤバいわね、この子。 色んな意味でヤバいし、しかも見た目に反して意外と男らしい。
葉月が遠慮ない感じで言葉を返す。
「じゃあ、行けばいいんじゃない?」
「うーん、でも、夏休みの宿題もやってないし、勉強もしばらくしてないし……。 授業についていけるかとか、考え始めたら、何も手につかなくなって。 もう僕、どうしたらいいのか……」
未来くんは、また頭を抱える。
まったく、えらく生きづらそうだ。 これを見てると、私なんかよりも不器用に思えてくる。
……でも、気持ちは分かる。 私も似た状況だったから分かるが、不登校というのは多面的に圧がかかってくるものだ。
教室のクラスメイトともしばらく会ってないから、どんな目で見られるかももちろん考える。
勉強をやってなかったら、ついていけるかとか、厳しい教師に怒られないかとかも頭をよぎる。
そんなことに悩んでいると、さらに期間がのびて悩みが増える。 悪循環に陥ってしまうのだ。
私は立ち上がった。
「よし、分かった! じゃあ、みんなで未来くんの宿題を終わらせて、勉強を教えよう!」
「先輩、どうしたんですか。 そんなにやる気出した先輩、私初めて見ますよ」
失礼な。 私だって、こういう時はあるのだ。
他人事とは思えないし、単に昔の自分を助けたいって気持ちもあるかもしれないけど。
私は張り切って、ついでに銀杏にも手伝いを頼む。
「銀杏も、手伝って! あなた大学生なんだし、高校の内容は楽勝でしょ」
「いやー、もう俺忘れたぞ。 ブゥッハッハッ!ww」
そんなこんなで、早速みんなで勉強を教えることになった!
私も普段たまに勉強しているから、いくらか教えられるところはあるはずっ!
「えぇと、ここはXの3乗が3乗でねぇ」
「先輩、そこ間違ってますよ」
葉月が冷静に突っ込んでくる。
あぁもうダメだ。 普段しっかり勉強してないと、こういう時にボロが出る。
口々に教えている3人を置いて、私は床を這って離れていった。
「あ、そうだ」
私はパソコンの前に来ると、身を起こしてマウスを操作していった。 普段使っている小説サイトを表示させて、楓ちゃんのページに行ってみる。
このサイトはSNS的なコミュニケーション機能が搭載されていて、他の人と簡単に話すことが出来る。
楓ちゃんは、未来くんのことを心配していた。 今日のことを話しておこう。
私は楓ちゃんに、今日起きた出来事をメッセージで送った。 数分後、楓ちゃんからメッセージが返ってくる。
『よかったー! これで枕を高層ビルにして眠れるねっ!ははっ!w』
とか何とか書いている。 うーん、やっぱり楓ちゃんは優しさを感じるなぁ。
……なんか、変な気分だ。 なんとなく、私は今、個人が分離されている時代のような気がしていた。
人が何かを抱えていても、突っ込まないし、関わらないし、助けたくても助けられない。
小学校の頃に見ていた弱小の動画投稿者が、精神を病んで一人で死にかけになっているのを、誰も見ているだけで助けられないのに、妙な違和感を感じたものだ。
もちろん、そばにいる人が誰か助けているかもしれない。 見えないところで、人が通じ合っているかもしれない。
でも、個人的な感覚ではあるが、そういう強い分離感を感じてしまうのだ。
時代の流れは、個人の分離を表しているような気がする。 個人主義だからかは知らないが、その流れはこれからもっと加速するのかもしれない。
でも社会の土台となる人自身は、昔から変わってないのだ。 しょせん社会の仕組みや流れが変わっただけで、人は人なのだ。
私は変にほっとしたような気持ちになりつつ、返信を入力していった。
唐揚げおいしー。モグモグ。(黒縁)




