第40話 未来くんの話を聞こう!
葉月と瑞が、免許を取りたいらしい!
そんなわけで、私たちは教習所にやって来たっ!
私も18歳になったことだし、普通免許が欲しかったので、3人で来たのだ。
ちなみに田舎に車で行った時には、銀杏に運転してもらった。 銀杏も車は持ってないらしいが、大学に入りたての頃に、サークルの活動で何度か車を運転したらしい。
私たち3人は教習所に乗り込んでいき、各々で修行することになった!
「あっ!」
と声を上げたのは、第1回の教習を終えた時である。
教習所のロビーで一人でくつろいでいた私は、見覚えのある顔を発見したっ!
なんと、『SF大好きっ子』さんである。 偶然にも彼女も、この教習所に来ていたのだ。
しかしさらに驚いたのは、彼女の服装である。 彼女は学生服を着ていたのだが、男子用の制服を着ていたのだ。
なんということだ……あんなに可愛い女の子なのに、男装の趣味があったとは。 などと私がボケている間に、SFくんはダッシュで走り出したっ!
「あぁっ、待ってえーっ!!」
私は慌てて手元のコーヒーを落っことしながら、SFくんを追っていく。
SFくんは全速力で走っていく。 しかし施設の中ということもあり、あっという間に追いついた。
建物を出て自動ドアを出たところで、私はSFくんの手首をつかむ。
「ごめん、話聞かせてくれる?」
そう言うと、SFくんは大人しくなって立ち止まった。
ちょうどその時、葉月と瑞が教習を終えてやってきた。 葉月は手を振って、呼びながら歩いてくる。
「せんぱ~いっ!! せんぱ……先輩っ?! 誰ですかそれ」
葉月が顔をしかめて、驚いた声を上げる。 彼氏ができました。イェイっ!w
私たちは外に出て、建物のそばの駐車場で話を聞く。
結局SFくんは男の子で、名前は未来くんというらしい。 年齢は葉月と同じで、高校1年生だそうだ。
未来くんはどうやら、色んな悩みがぐちゃぐちゃになって自分でもどうしたらいいか分からなくなったそうだ。
とりあえずは、学校のことで悩んでいるらしい。
「なんとなくイライラして、学校の嫌なところを指摘しまくってたら、色んな先生たちと険悪になってしまって……。 廊下ですれ違う時に、殺意みたいな目つきを感じてくるんです……。 僕、思いっきり睨み返してるんですけど……。 もう僕、どうしたらいいのか……」
そんなことを言って、未来くんは頭を抱えている。
話を聞く限りでは、未来くんは結構真面目なタイプらしい。 学校での悩みが主だそうだ。
正直、もっと深刻な悩みを想像してたから、ちょっと安心した。 今の時代、家庭内暴力やらいじめやらうつ病やら、重い問題はいくらでもある。
未来くんはうつむいたまま、話し続ける。
「……将来のことも分かんなくて、何も手がつかなくなるし……。 もう僕、どうしたらいいのか……」
「性別とかは? 悩んでないの?」
葉月が、適当な感じで聞いた。
ちょっと葉月、雑過ぎないか? 見た感じ、未来くんは性別に関する問題も抱えてるようにも見える。 そういう話は繊細だし、遠回しに聞いた方がいいのでは。
しかし未来くんはうーんと首をひねった。
「うーん……。 まぁ、それはそんなに悩んでないかな……」
ないんかいっ! 私は実は、一番悩んでることかもと勝手に心配してたのに、本人はそこまで悩んでないらしい。
未来くんは、見た目がめっちゃ女の子っぽい。 顔の造形というよりは、肌の奇麗さや身なりの整え方が、完全に女子のそれなのだ。
あのイベントの日には服装も女だったから、あれは女装してたってことだろう。
まったく、最近はややこしいわね。 社会で論争が起きる理由も、こういうのを見ると理解できる。
そこまで言うと、突然グーという音が鳴った。 どうやら未来くんはお腹がすいてるらしい。 昼時は過ぎてるけど、ちゃんと食べたのかしら。
私は続けて、今まで気になっていたことを聞いた。
「なんで、私に声かけたの?」
「小説を読んで、コトハさんなら、理解してくれるかもって思って……」
なるほど、そういうことか。 不登校とかヤンキーとか、私が反抗的な主人公を書きまくってきたから、それに感じるものがあったらしい。
……あ、ちなみに『コトハ』は私のペンネームね。
うーん、話を聞いてると、2年前の自分を思い出した。
高校は、私は最初の1か月しか通ってなくて、あとは不登校だった。
保健室にだけ通って出席日数を稼ぐという姑息な手段を使ってたら、昼休みの保健室で大喧嘩したのだ。
何やってんだろう、私。 周りの生徒が引いてたわよ。
……今考えたら、馬鹿なことをしていたと思う。 教師も大変だ、私みたいなのと付き合わなきゃいけないんだから。
今になると、逆に教師に同情するのだ。
教師だって、たいていは好きで生徒を苦しめているわけではない。 しょせん人間だし、未熟さも個性もある。
加えて大人としての無力感とか、システムとの力関係とか――なんとなくだけど、今の時代に特有の問題もある気がする。
素晴らしい教育者であって欲しいと願うのは、社会的に無力すぎる学生の、エゴを含んだ自然な欲求だ。 ある意味、そこで衝突や摩擦が起きるのは仕方のないことなのである。
ちなみに私が学校をやめた理由は、極端に大きなものはない。
学校に嫌な慣習が残ってたとか、教師と馬が合わなかったとか、そういうのを挙げることはできる。
でも、今考えると何か違う。
学校という場所は、社会の流れや模様を間接的に映し出す場所だ。
高校ともなれば、能力も社会認識も大人のそれと近くなるから、感じるものも増えてくる。
私は学校という場所や組織そのものも苦手だが、うっすらと滲み出してくる社会の空気感が嫌だったのだ。
……でも、もうちょっと我慢して行っても良かったのかなー……。
私は自分の道がはっきりしていて、独立性を維持したいタイプだ。 与えられるように物をこなして、意味も考えずに勉強するのは性に合ってないとは思う。
でも後になると、学校に行かなかったことが重くのしかかってくる。
何をするにも知識はいるし、ちゃんとした教養を身に着けておいたほうが良かったかもと思うことは多い。 仕事の選択肢も狭いから、融通もきかなくなる。
一応、学校には行っておいてもよかったと、今更になって思うこともあるのだ。 ……後悔は、別にしてないつもりだけど。
……と、私の話はほどほどに、目の前の未来くんの話に戻るわよ。 シュインッ!つってw
ともかく、未来くんは反抗的な意味で、私に共感したってことらしい。 それで、私にメッセージを送ってきたわけね。
葉月と瑞の2人は、適当な格好でふーんって感じで聞いてる。 あんまり興味なさそうね、あなたたち。
葉月はしゃがんで、腕に顎を乗っけながら聞いていたが、言った。
「別に、良くない? 学校とか、適当にやっとけばいいんじゃないですかね。 どうでもいいし」
「うん……。 教師とか勉強とか、嫌なことあるかもしれないけど、あしらえばいいと思うけど」
あなたたち、どんだけ学校に興味ないの。 性格によって、ここまで捉え方が違うとは。
この2人は、私から見れば、なんだかんだ言って我慢強い。 嫌なことがあっても、悩みとやり取りしながら生活していけるタイプに見えるのだ。
私みたいに無駄に我が強くて、敏感で、反発して集団から外れてしまうようなタイプではない。
この未来くんって子は、私に近い気がする。 嫌なことがあった時に、正しいと思う自分の言い分を通したくなるんだろう。
葉月は、未来くんの悩みは本当に関心がなさそうだった。 もう興味が失せかけているが、一応って感じで聞いている。
「他には、悩みないの?」
「うーん……イライラするけど、どうやって発散したらいいかも分かんないんですよね……。 どっかで叫べばいいんですかね……」
叫ぶって……。 なんか、この子も適当じゃないか?
葉月が頬杖を突きながら、どうでもよさそうに鼻息を鳴らして言う。
「小説読めば? 私は、いつもそうやって解消してるけど」
「あ、ロボットもの好きなんだってね?」
私は、小説サイトでの未来くんのユーザーページを思い出しながら聞く。 『SF大好きっ子』さんは、ロボット系のSFをたくさんブックマークしていた。
未来くんは頷いた。
「はい。 だけど、それでも足りない感じがして……。 なんか、いつも体がムズムズするっていうか……」
身体が……。 運動不足ってことだろうか?
同じことを思ったのか、瑞が聞く。
「運動とかはしてるの?」
未来くんは首を振る。
身なりが整いすぎてるし、体のキレもないしで、あまり運動はしてないように感じる。 してないなら、やった方がいいかも。
あと男の子だから、そういう系のエッチ系のアレな悩みがあるかもしれないけど。
そういうのは私たちには分からないから、銀杏にでも相談したらいいかも。 知らないけど。
話していると、また未来くんの腹がグーと鳴った。 よほどお腹が空いているらしい。
私は立ちあがる。
「まあいいやっ! とりあえず、ごはん食べよう」
「どこか行く?」
瑞が辺りを見回して、料理店でも探そうとしている。 私は言った。
「いや、家でいいよ。 銀杏もお腹すいてるだろうし、一緒に済ませよう」
見た感じ、変な子には見えない。 葉月と瑞は一瞬たじろいだが、まあいいかって感じで頷いた。
よぉーし、食べまくろうっ!(黒縁)




