第39話 ナミ子さん、大丈夫ですか。
楓ちゃんと再会した!
イベントで会った、暗い顔をしていたあの子に、メッセージを送ってみた。
そして後日。 『SF大好きっ子』からの返信なし!
「無いんかいっっ!!!」
私は誰にともなくツッコミを入れながら、スマホの画面を見つめていた。
今ここは銀杏のマンションの前で、自分の自転車の『サビ取り』をしている最中である。 私はゴム手袋を両手につけて、お古の歯ブラシを用意して、サビ取りのスプレー缶を目の前に置いている。
時刻は昼の4時ごろだ。 まだ瑞と葉月はいないが、そろそろ帰ってくる頃である。
「返信ないなら、仕方ないかなぁ……」
私はひとり言をつぶやきながらスプレーを手に持ち、シャッシャッと自転車のチェーンに吹きつける。 あらぬ方向に毛がひん曲がった歯ブラシを手に持ち、シャコシャコとこすっていく。
その時、突然バンと激しい音が遠くから聞こえた。 手を止めて顔を上げると、「あぁああぁあああっ~~~~!!!!」と奇声が聞こえてくる。
ほどなくして、マンションの階段のところからナミ子さんの姿が現れた。
「黒縁いいぃぃっっ!!!! ご飯炊けたよおおぉっっ!!!」
ナミ子さんは炊飯器の釜を両手で持って、足を弾ませながら走ってくる。 まるで保育園児のようで、めちゃくちゃ良い笑顔だ。
実はさっきマンションの中で、ご飯の炊き方を教えていたのだ。 瑞が学校に行っている間、私がナミ子さんの教育係を引き継いでいるのである。
「あぁそう、おめでとう~」
私は適当に返事をしていると、ナミ子さんは勢いよく走ってきて、座っている私に釜を持ったまま頭から突撃してきた。 ぎゃーっ!!ちょっと、分かったからっ!
ナミ子さんは私の腹に入り込み、まるで恐竜のように、頭をぐりぐりと押し付けてきて甘えてきた。
「ほめて”ええ”ええぇぇえっ!! 黒縁ほめてええぇええっっっ!!」
「はいはい、よく頑張ったね」
「ごろにゃ~んんっぅwwww ふまふまwww」
ナミ子さんは意味をなさない言葉を発しながら、私の体を這いずり回って身をくねらせる。
なんか、どんどん幼児化してきてないか? はたから見れば大の大人が赤ちゃんのように身をよじっていて、奇異の一言である。
私は作業を止めて歯ブラシを横に置いて、ナミ子さんの背中をさすっていると、どさくさに紛れてナミ子さんが私の胸を触ろうとしてきた。 ぎゃーっ! 何やってんのっ!w
私は黙って手を掴んでどけさせようとするが、妙に力が強い。
しまいには腕相撲みたいになっていて、なんとしてでも私のおっぱいを触ろうとしてくる。
葉月と言いナミ子さんといい、なんでこうも力が強いんだろう。
私たちが意味不明の格闘をしていると、今度は別の方から声が聞こえてきた。
「フミいいいいぃぃぃっっっっ!!!!!!!!!!!」
今度は何よ。
私は半分笑いながら振り返ると、向こうから瑞が走ってきていた。 あら、帰って来たみたいだ。
瑞は楽しそうに叫びながら、こっちに勢いよく走ってくる。
「フミいいぃぃッ! 私、免許取りたいいいぃぃつっ!! きゃーっっ!!!!www」
そんなことを言って、私たちがもみ合ってる中に突撃してくる。
ぎゃーっ! ちょっと、あなたまでそんな感じになっていくの? やめてよ、可愛いから良いけどさぁ。
私たちは瑞を受け入れ、今度は3人でぐちゃぐちゃになっていった。 まだ夏の暑さも残っているというのに、アスファルトの上で私たちは無意味に絡まっていく。
私はなんとか体を起き上がらせると、話を戻した。 ……えーと、いま瑞は何て言ったっけ?
「……え、免許取りたい?」
「うん。 私もバイクの免許、取ってみたいの」
「バイク?」
「うん。 前にフミに乗せてもらったことあったでしょ? あの時死ぬほど気持ち良かったの」
山の神社に行った時のことか。 瑞を校門の前で待って、『乗りな!』『うん、フミかっこいいっ!』『イェイっ!w』みたいになった時ね。 あったなあ。
でも、うーん、バイクねぇ。 バイクって、普通の車に比べたら事故って死ぬ確率けっこう高いんだけど。 瑞は分かってて言ってるんだろうか?
「うん、分かってるよ。 別に、フミが乗ってたような大きいのじゃなくていいの。 小っちゃくてノロいのでもいいんだけど」
なるほど、原付のことかな。
ていうか『ノロい』って……。 言葉づかいもなんか荒っぽくなってきてない?
私たちが話していると、葉月も学校から帰ってきた。 私たち3人がアスファルトの上で絡まっているのを見て、意味も分かってないのに突撃してくる。
「きゃーっ!!先輩っ!! 私も混ぜてくださいいぃっっ!!wwwイェエエェイイッッッッ!!」
「ぎゃあああ、葉月待ってえええっ!! あ”ああぁあっ!!」
今度は4人でもみくちゃになるのを終えて、私たちはようやく落ち着いた。
私はサビ取りの作業の手を止めて、詳しく話を聞く。
どうやら葉月も免許を取ってみたいとのことで、2人の間で話が進んでいたらしい。
「どこか行くとき便利ですしねぇ。 金が余ってるんで、ちょうどいいんですよ」
マジかよ。 金が余ってるなんて、なんと羨ましいことだ。
まぁ自分たちで考えて決めたのならいいだろう。 確かにこの2人は、私よりも金を持っている。
それにもし2人が原付を買えば、どさくさに紛れて私も貸してもらえるかもしれない。 そうすれば、レンタカー代が浮くというものだ。ぐへへww
「先輩、卑劣ですね」
あ、バレたw
ところでお腹空いたなー……。ハンバーガーでも作ろうかな。(黒縁)




