第38話 楓ちゃんとの再会!
イベントでのボランティア活動を終えて、ようやく夏休みが終わった!
夏休みが終わって、葉月や瑞は学校に通うことになった。 学校が終わったら、またこのマンションに集まってくるけど。
なんやかんやで、私たちもお互いのことを知りつつある。 どうせ2人とも、友達いないんでしょう。 よく分からない活動だが、一人でいるよりはいいのかもしれない。
私は新しく住む家を探しているが、まだ見つけられておらず、マンションにだらだらと居候を続けている。
銀杏も家を探しているらしいが、見つけられてないらしい。
私たちは何となく、この部屋で一緒に暮らしているのだ。
ふだん私はマンションの中にいるが、銀杏は外に出ていることが多い。
銀杏は今度は植物に興味を持ったらしく、道端の雑草を調べたりしている。 食べられるものは家に持って帰って、その辺に置いたりしている。
今も、目の前に雑草がいくつか置いてあるんだけど。
……これ、食べていいよってことなの。 道路沿いに生えてたやつなら、排気ガスとかで汚れてそうだけど、大丈夫なんだろうか。
ナミ子さんはというと、一人でパソコンの前にいる姿が増えてきた。
今も、超スピードのタイピングが炸裂しているのが見える。 何をやってるか分からないが、真剣な表情だ。 もしかして仕事でも探してるんだろうか。
ちなみにナミ子さんは、生活リズムがぐちゃぐちゃだ。 夜中に起きてることもあれば、真昼間に猫みたいに寝ているときもある。
たまに夜に、私の布団に潜り込んできて、頭をこすりつけてきながら一緒に眠ることもあるけど。
さて、時刻は昼の3時半である!
一人の時間が増えてから、少しペースが上がって、投稿する小説のストックが増えてきた。 今日はまだ昼間なのに2日分も進んで、なかなか調子がいい。 余裕を持ちたいのに、いつもギリギリなのだ。
ひと仕事終えた私はうーんと伸びをすると、立ち上がった。 さあ、外に出かけようっ!
マンションを出ていくと、むっとするような重苦しい暑さを感じた。 空を見上げると、強い日差しが目に飛び込んでくる。
9月になったというのに、まだ暑いっ! 汗をかき始めながら、私は勢いよく歩いていく。
前は、うつむいて歩いていたような気がする。 毎日散歩はしていたが、縮こまって歩いていて、陰鬱な気分がぬぐい切れなかった。
だけど最近は、歩くだけで健康的なのを感じる。 心も体も、すっきりしているのを感じる。
人と関わりだしたからだろうか。 葉月たちと出会ってから、私も良い方向に向かっている気がするのだっ!
今日は、私たちはちょっと違う活動をしてみることになった。 先のイベントで知り合った、高校3年生で私と同い年の楓ちゃんとの合同活動をしてみることになったのだ。
楓ちゃんはどうやっても私たちの活動に興味があったらしく、あの後イベントから帰る電車の中でも、『私にも、そんな友達がいたらなー!』『部活に入ってたら、高校生活楽しかっただろうなーっっ!』『夏休み明けてからでも、文芸部に入ってみようかなーーーっっっ!!!!あぁあああ”あぁ”ああっっ!!!』などとしまいには電車の中で叫んでいたのである。
高3の秋から部活に入るって、なかなかぶっ飛んでていいじゃない。 私は好きよ、そういうの。
活動への誘いのメッセージを送ってみると、『私もやってみたい!』と勢いよく食いついてきたのである。 葉月は乗り気ではなかったが、私が突っついて少し強引に誘ってみたのだ。
でも、楓ちゃんって高校3年生なんでしょう? 受験勉強真っ最中だって言うのに、まったく何やってんだろうねぇ。 いいじゃない、どんどん秩序に逆らっていきましょう。
楓ちゃんにとっては、本当に嬉しいことなのかもしれない。 今まで一人で小説を書いてきたらしいし、興味があるのは間違いないんだろう。
そんなわけで、私はいつもの駅ビルにやって来たっ! 葉月と瑞は、現地集合である。
駅ビルの前で2人と待ち合わせて、私たちは一緒に歩き出した。
「いいんですよ、もう」
集合して早々、葉月は暗い顔でブツブツと言い始めた。
「私は、もう諦めてるんですよ。 どうせ社会は私のことなんて認めてくれないし、そんな社会が嫌いなんです。 あの楓さんって人もそうなんですよ。 いつか絶対、私を馬鹿にして笑うんです」
「そんなことないっ! もしそうだったとしても、その時はその時よ。 知らんけど」
適当なことを言いながら、私はズンズンと歩いていく。 駅ビルの前で人が多く、あちこちの入り口から常に人が出たり入ったりしている。
私は葉月にとっても、これは良い機会だと思っている。
葉月は誰も理解してくれないというが、そんなことはないだろう。 だって小説サイトでこの中で一番人気があるのは葉月だ。
葉月は、自分が好きなものを自由に書いてるらしいから、多くの読者が共感してくれてるということだろう。
なら本人が思っているより、理解してくれる人は多いんじゃないか。
いつものチェーン系コーヒーショップに入って、私たちは窓際のカウンター席に座る。 外れものの私たちには、こんな端っこの席がお似合いなのだ。フハッ!
コーヒーを買って席に座り、少しの間、楓ちゃんの到着を待った。 葉月はその間も、社会に対する恨みつらみを呪詛のように垂れ流し続けていた。
私はコーヒーをちびちび飲みながら、適当に相槌を打つ。
「これが嫌だったんです……。 あれが嫌だったんです……」
「うん、分かるよ。 私も社会は嫌いだし」
「先輩は自信があるんですよ……。 だからそんな適当なこと言えるんです……」
「適当なのは元々だけど」
「それ私も同意ですぅww ブハハッ!ww」
そんな意味のないことを話すこと数分、楓ちゃんが現れたっ!
「よっす! 元気いっ?」
軽い感じで挨拶しつつ、楓ちゃんは待ち合わせにやって来た。 イベントの日と同じで、軽い色の夏用の学生服を着ている。
肩にカバンを持った手をひっかけていて、なかなか元気な感じだ。
楓ちゃんの小説も読んでみたが、葉月たちとも違って、また癖のある小説だった。
物語は基本的には現実を舞台にしたファンタジーものだが、脈絡なく街に宇宙人が襲来したり、猫が巨大化して暴れまわったりなど、想像力がぶっ飛んでいるのだ。 読んでいて、もはやツッコミが追い付かないほど意味不明な展開も多い。
そして、もっと癖が強いのは文章の方だ。 セリフが主体で地の文は少なめなのは良いとして、記号や絵文字を多用しすぎていて読みづらいのである。
しかしそんな小説は、ネット上ではさほど珍しくはない。 適当に読み漁っていれば、たまにそんな作品は目にする。
ネット小説を読み始めた頃は、なるほど今時はこんなものもあるのかぁと、時代の流れに感嘆したものだが、よく調べてみると、私が生まれる前からネット小説はそんな側面を含んでいたらしい。
例えば『ケータイ小説』と呼ばれるものだ。 スマホが出現する以前から、情報端末はあった。 パカパカと開く小さめの携帯電話である。
それでインターネットにも接続できたし、さらには小説を書く文化まであったのだ。 そしてそこでは、まさに今のネット小説に通じるような、自由な文章の書き方をしていたという。
そんな話を聞くと、いかに時代の流れが遅いかを痛感してイライラしてくる。
……え? 昔の人に親しみを感じるところじゃないのかって?
馬鹿言わないでよ、私は時代の流れが遅くて常日頃からイライラしてるのよ。 変化の早い時代だとか言うけどねぇ、私からすれば全然遅いのよ。
なんで全身入り込めるタイプの仮想空間がまだ無いのかしら。 網膜型の情報端末はいつなの? コールドスリープでもして未来に行きたい気分だわ。 棺桶みたいなカプセルに入って、死人みたいに手を前に重ねてね。 おやすみーっ!グー……zzzつって。 起きたらAIとの戦争で荒廃した世界が広がってて、うわー!て絶望したりしてね。ははっ!w
私が適当な妄想を繰り広げていると、楓ちゃんが近くにやって来た。
「いやー、わざわざ私のためにごめんねぇっ! なんで私だけ遠くに離れてるんだろうねぇ、ははっ!w」
楓ちゃんは椅子に座りながら、ペラペラと社交的なセリフを喋っている。
いいのよ、どうせ部活かどうかも分からない、変な活動だ。 いかに柔軟に動けるかがカギと言っても過言ではない。
瑞をはさんで向こう側にいる楓ちゃんに、私は社交的に挨拶してみた。
「ごめん楓ちゃん、受験勉強は大丈夫だった?」
「た・ぶ・ん大丈夫ですっ!!」
楓ちゃんは腕を曲げて、力こぶみたいなポーズで笑って見せる。
相変わらずテンション高いなぁ。 でも、これぐらいやってもらえると、こっちは気が楽だ。
互いに笑顔になり、私たちは緊張が少しゆるんだ。
楓ちゃんは喋りながら荷物を置くと、コーヒーを買いに行った。 ほどなくして戻ってくると、また座りなおし、今度は瑞に話を振っていく。
「瑞ちゃん、ネット小説部には行ってきた?」
「あぁ、うん! そうだ、フミも聞いてよ、今日私すごく久しぶりにネット小説部に顔を出したの」
瑞は嬉しそうに、ぱぁっと顔を明るくさせて話している。
相変わらず可愛いわねぇ、まったく。 私はボケっと瑞の笑顔を堪能しながら、話を右から左に流していく。
「早川くん……あの目つきの悪いチャラい人だけど、あの人とたまたま校舎の中で会ったら、私の小説を読んでくれてる人がいるらしいって教えてくれて。 早川くんが私のことについて、部室で何人かに聞いて回ったんだって」
「へーっ! 良かったねっ!」
楓ちゃんは、本当に良い人みたいだ。 心から素直に、一緒に喜んでくれてるように見える。
あぁ、いいなあこの空間。 私みたいな邪悪は引っ込んで、世界がみんなこんなんだったら良いのにね。ははっ!w
私が黙り込んだまま下らないことを考える前で、話は進んでいく。
「それで、久しぶりにネット小説部の部室に行ったんだけど。 そしたら、一人の先輩が私の小説を前からずっと読んでくれてたって言ってくれて。 私が去年初めて行った時には、まだ読んでなかったみたいなんだけど」
話を聞きながら、私はコーヒーのカップを無意味に開け閉めした。 中に入ってるコーヒーの量を見て、あぁあと300円分ぐらいは残ってるわね。ぐへへw とか考えつつ、そっとカップを閉める。
横を見ると、瑞は心から嬉しかったようで、ウキウキしながら喋っている。
「それから、たまたま読むようになったんだって。 私もっと早く行けばよかったかもっ! ……ねぇフミ、聞いてる?」
「え? うん、まあ」
私は頷きつつ、適当に答えた。
ほんのちょっとだけ、嫉妬してしまったのだ。 瑞が受け入れられたのが、遠くに行ったみたいで寂しくなったのだ。
だって、私は変わらず社会の外れものだ。
何やってんだろう、私。 自分のことしか考えてないから、こんな時に楓ちゃんみたいに素直に喜べないのだ。
瑞が少し社会に溶け込めたのは、私も本当は嬉しい。 瑞が言うように、いつまでたっても3人で孤独のままじゃしょうがない。
一歩前進したことを、せめて論理的にだけでも祝っておこう。 フゥゥッッ!!! 瑞おめでとおぅっ!w
横を見ると、葉月は私の影に隠れるようにして黙っていた。 うつむいて、手を膝の上に置いて、何もせずにじっとしているみたいだ。
あなた下手ねぇ、せめてスマホぐらいいじりなさいよ。 そんな露骨にしてたら、楓ちゃんも楽しめないじゃない。
私は肘で葉月を突っついて、こそこそ声で言った。
「葉月っ! 何してんの」
「いいんですよ。 私にはこれがお似合いなんです」
葉月は暗い顔のまま、ボソッと意味不明なことを言っている。
お似合い? 暗い顔でどんよりして人見知り超絶発動している状態がだろうか。
もう、しょうがないなぁ。 私は呆れて、鼻息を小さく鳴らした。
……まぁ、私も人のことは言えないしね。 楓ちゃんとも感覚は合うが、話がそこまで捗るわけではない。
こういう時も、適当なことを言って無意味な会話をしたくないという頑固さが発動してしまうのだ。
まったく、馬鹿ねぇ私。 言葉には、表面と中身がある。
無意味な会話だろうが、ただのお互いを知るための交流だと思ってやればいいのだ。 一見無意味に見える会話にも、ちゃんと交流という……お互いの気持ちを知ろうという『中身』はあるのである。
そんなことも分かっているのに、それでも言葉が出てこない。 ふだん他人と喋り慣れてないのもあって、言えそうだと思ったことも言えなくなるから嫌になる。
「あっそうだ! あの『SF大好きっ子ちゃん』って子はどうなった?」
楓ちゃんが思い出したように声を上げた。 今度は瑞を飛び越えて、私の目をしっかり見て聞いてきた。
あぁ、これは『お前も喋れよクソが、黙ってたらコミュニケーションになんねぇだろボケ』っていう意味なのだ。
私は無駄にネガティブに解釈しつつ、ドキドキしながら答えた。
「特に何もないよ」
「何かメッセージ送ってみたとかは?」
「いや、してない」
「そっかぁ……」
楓ちゃんは心配するように、息を吐きだしている。
うーん、私が何か行動すべきなんだろうか。 別に他人事だと思って怠けているつもりはない。
法律やら慣習やらあるとはいえ、しょせん人の社会だ。 極端な事情があるなら、無理やり助けるのも考えられなくはない。
だけど、それ以前に情報が少なすぎて、私もどうしようもないのだ。
私たちは腕を組んで、考える。 うーん、でもどうするかねぇ……。
「……一応、メッセージ送ってみる?」
私は気乗りしないながらも言うと、楓ちゃんは顔を明るくさせた。
「あっ、そうしてみよう! 私が送ろうかとか思ってたけど、違うじゃん。 そそ、黒ぶっちゃんが送るのがいいよっ」
そう言って笑顔を見せて、楓ちゃんは体をこっちに向けていく。
……というか黒ぶっちゃんって、私のこと? そんな呼び方で呼ばれたのは、生まれて初めてだ。
大抵は黒縁とか黒縁さんとか、まともな呼び方しかなかったから新鮮である。
私がスマホを取り出すと、送る内容をみんなで一緒に考えた。
「じゃあ、なんて書く?」
「うーん、『その後どう?』とか?w」
「また一緒にごはんを食べよう、とかは?」
「あっ、それだっ!! 瑞ちゃん、さすがっ」
私はそれを聞いて、なるほどと思った。
確かに、これで終わりと決まったわけじゃない。 第一波で無理だったなら、第二波を作ればいいじゃないか。 うーん、良い考え方だな。
私は文字盤をタップしていって、文字を入力していった。
ついでに『いつ予定が空いてる?』と疑問文を書き足して、送信してみる。 フッフッフ、これでまんまと引っかかってくれると楽でありがたい。ムハハッ!w
それから私たちは雑談をして、しばらくして『合同部活』はお開きになった。
小説的な活動をすることもなく、何をやってるのかいまいち分からないのは変わらないが、それを考えるのはやめた。
楓ちゃんはよほど集まってもらえたことが嬉しかったらしく、しかし同時に過剰ともいえるほどの卑下的な言葉をペラペラと連ねて、「いやぁ、私もこの街に生まれたかったなぁっ!」「怪獣が私の街をめちゃめちゃにしてくれればいいのにーっ!」「私の街の人たち、みんな宇宙人かもおおおおぉっ???!!!!」とか、もはや意味不明なことを叫びつつ、適当なタイミングを見計らって笑顔で去っていった。
私は笑顔で手を振って見送りながら、ぼんやりと考える。
あぁ、あの奥にも恐ろしい裏の顔があるのかしら。 姿が見えなくなった後に、『受験で忙しいって分かんねぇのかよ、オラァ”アアッ!』とか言って壁をゲシゲシ蹴ってたらウケるわね。ふははっ!!ww
そして後日。 『SF大好きっ子』からの返信なし!
「無いんかいっっ!!!」
私は誰にともなくツッコミを入れながら、スマホの画面を見つめていた。
今ここは銀杏のマンションの前で、自分の自転車の『サビ取り』をしている最中である。 私はゴム手袋を両手につけて、お古の歯ブラシを用意して、サビ取りのスプレー缶を目の前に置いている。
時刻は昼の4時ごろだ。 まだ瑞と葉月はいないが、そろそろ帰ってくる頃である。
「返信ないなら、仕方ないかなぁ……」




