第33話 立ちションはダメ!
瑞と2人で、髪の毛を切った!
ここ数日は雨が続いていて、今日は久しぶりの晴れだ。 気温が落ちて、涼しく感じられるようになった中を、私たちは勢いよく歩いていく。
雨上がりの街は、なかなか気持ち良かった。
雨上がりって、緑が生き生きしてるように感じるわよね。 植物の横を通るだけで、その色合いと光が、匂いが、ドクドクと、ギラギラと生命を感じさせてくる。
少し歩いて、私たちは空港の近くに来た。
この街は、空港が近くにある。 歩いていると20分もしないうちに、空港の敷地の近くを通りがかっていく。 道路には多くの車が行きかっていて、民家なども見えていて、意外と普通の町中である。
空港の敷地のそばには、誰の土地か分からないたくさんの空き地のような場所があり、木や草が伸び放題になっている。
空港の土地ってすっきりしているから、ごちゃごちゃしておらず遠くまで見通せて、景色が良い。
私はあまりこの地域には来たことがなかったが、近くに住むようになってからここは結構気に入っているのだ。
空港の敷地の横を、3人で元気に歩いていった。
先頭を歩く葉月は、機嫌が良いらしく手足を振って歩いている。 私の横を歩く瑞もさっぱりした気分で、景色を眺めながら空気を味わっているみたいだ。
歩いていると、私はふと尿意をもよおした。 どうしよう、この辺、トイレなんて探してもないけど。
立ちどまると、周囲を見渡して、誰もいないことを確認した。 ここは植物が伸び放題になっているし、道からは隠れている。
私はすぐに判断して、ズボンとパンツを一気に下ろしてしゃがんだ。
「ちょっと、フミッ?! 何やってんのっ!!」
瑞はびっくりして、慌てて言ってくる。
しかし私が無視してしゃがんだままでいると、瑞は何を思ったのか、同じようにズボンとパンツを脱ぎ始めたっ!
「え? 瑞ちゃん?」
止める間もなく、瑞はしゃがんで隣に並んでくる。
状況を考える暇もなく、私の尿が出始めた。 じょぼじょぼと、草とアスファルトの中に液体が流れていく。
同時に頭上数十メートルの超至近距離を、飛行機が通過した。 耳をつんざくような音が、鼓膜を突き破ってくる。 ゴ”ア”アアアアアアアアァッッッ!!キイイイイイイッッッンンンンッッ!ふぉぁあああああああああああああああああっッ!!!!!!!!!!!wwwwwwwwww気持ちいいわああああああああああああああああぁぁぁあっっ!!wwwwwwwwwwwww
尿が出ていく気持ち良さと、飛行機の音がまじりあって、最高の快感が脳内を突き抜ける。 あぁ、ヤバいわね。 ロケット発射を見ながらうんこしたらどれだけ気持ちいいのかしら。
私は恍惚の表情を浮かべていると、横で別の音がしだしたのが聞こえた。 振り向くと、瑞もやっちゃったみたいだ、尿がじょぼじょぼと流れ出していた。
はははと笑いながら、なんとも爽やかな笑いを浮かべている。
「ギャーッ!!!! 先輩何やってるんですかっ!!!! 汚いですよっ」
前を行っていた葉月が、ようやく私たちに気づいたみたいだ。 後ろを振り返って、慌てた様子でこっちに走ってくる。
ちなみに立ちションは、山奥のような僻地でない限り、違法らしい。 もう嫌になるわぁ、あぁ、知れば知るほど息苦しさは増していく。
……でも、考えたらそうかも。
街の中なんて、誰かが所有してる土地しかないしね。 自分の土地にうんことかしょんべんされたら、嫌だしね。 衛生も考えなきゃいけないし。
この時は知らなかったから、許してw ごめん。
散歩を終えて、私たちは銀杏の家に戻ってきた。 部屋に入ってくるなり、ナミ子さんの声が飛んでくる。
「ねぇごはーん!」
ありとあらゆる人間としての義務を放棄したような声である。
部屋の中は、さらに汚くなっていた。 買ってきていたお菓子は食い散らかされ、袋や箱がその辺に散乱している。
あああっ、もうっ! この人は本当に、今まで一体どんな生活をしてきたんだろう。
……と思っていると、瑞が突然大声を上げた。
「いい加減にしてくださいっ!!!!! 30歳にもなって恥ずかしくないんですかっ!!」
びっくりするほど大きい声である。 こんな小さな体にどこにその声を仕舞っていたのかというほど大きく、そして圧がある声だ。
瑞の表情は真面目だった。 さすがのナミ子さんも驚いたのか、お菓子を床にポロリと落として振り返っている。
しかしその直後、ナミ子さんはわーんと声を上げて赤ちゃんのように泣き始めた。 力なく崩れ落ちて、涙をこぼし、体をひくひくと痙攣させ始める。
まったく、この人は何なんだろう。 口汚い、強気の姿勢はどこへ行ったんだろう。 本当に赤ちゃんのようになってきている。
瑞は言い過ぎたと思ったのか、慌ててそばに近寄った。 泣き崩れるナミ子さんを支えて、よしよしとさすっている。
「少しずつ勉強していきましょう」
「うん」
そんな会話をしていて、どっちが大人なのやらさっぱりである。
というわけで、ナミ子さんの特訓が始まった!
「まずは買い物っ!」
瑞が指揮を執り、ビシッと玄関を指す。 ナミ子さんは緩慢な動作で立ち上がると、老人のような足取りでよろよろと外に出ていった。
そういえばナミ子さんは、10年間同じような生活を続けてきたのだと言った。 毎日、寝っ転がってスマホばかりいじってたんだろうか。
だとしたら、全身の筋肉がすでに衰えていてもおかしくはない。
親のレトロPC屋にいるときも、動きがお婆さんみたいだった。
人間、動かなかったらそうなるのかぁ。 私も気をつけなきゃダメだな。ハハッ!w
ところで部屋の中には、色んな楽器が散らばっていた。
ギターやベースをはじめ、ドラムやキーボード、さらにはよく分からない東洋っぽい楽器なども置いている。 銀杏が用意したんだろう。
楽器を見つめていた瑞が、聞いてきた。
「ここって、お隣さんっているの?」
「いや、いないと思うけど」
このマンションに残っているのはあとわずかで、階が離れた住人が数人ほどだそうだ。
瑞はそれを聞くと、ギターを手に取って、突然じゃらじゃらとかき鳴らし始めた。
「あぁあ~~~あぁあああぁっああ~~~~~♪♪」
めちゃくちゃ下手くそだが、楽しそうである。 ギターの弦も押さえることなく、適当だ。
一体瑞は、どうしたんだろう。 さっきもそうだが、なんか最近変になってきてないか? 私の悪い影響を受けてなきゃいいけど。
とはいえ、音楽は楽しいっ! 私も弦楽器のベースを手に取ると、瑞ちゃんの音頭に合わせて歌い始めた。
「ああああああぁああぁ~~♪ ジャラジャラジャーン♪♪」
そうしていると、部屋の奥から音を聞きつけて、銀杏もやって来たっ! 嬉しそうに走ってきて、テンション高く、銀杏も一緒に音楽に乗り始める。
「フゥゥウゥッ!!ww イェエエエエェィッッ!! ドカドカドーンッ」
とか言いながら、ドラムのまねごとをしている。
トイレに行っていた葉月が戻ってくると、私たちを冷めた目で見てきた。
「先輩がた、何やってるんですか。 馬鹿みたいですよ」
冷めた目で見る葉月だが、よく見ればウズウズしていて仲間になりたそうである。 ほらほら、我慢しないでやってみなさいよ。 意外と気持ちいいかもよ?
私たちが即興の音楽ライブを開催していると、玄関が開いてナミ子さんが戻ってきた。
私は楽器を奏でる手を止めて、振り返る。 ナミ子さんは買い物に行ったはずだが、手ぶらで立っていた。 ……手ぶら?
「どうしたんですか?」
私が聞くと、ナミ子さんは呟くように答えた。
「……分からん」
「え?」
「レジが変なことになってた」
どういうことだろう? レジが変? 私と瑞は顔を見合わせる。
話が見えないので、私たちは一緒に買い物に行ってみることにした。
ついでにめんつゆ買おう。(黒縁)




