第31話 黒縁の妄想っ!
銀杏の家で寝ることになった!
なんやかんや準備をしているうちに、寝る時間になった!
家の中にはもう銀杏の姿はなく、私とナミ子さんの2人だけのようだ。 話し声がないから、ひっそりと静かになっている。
ソファの上のナミ子さんは落ち着いたようだ。 楽な表情をして、寝息を立てて眠っていた。
私はもう一つの部屋の奥に行った。 別にそのままでもいいだろうが、その辺にあった突っ張り棒とカーテンを使って1畳ほどの就寝スペースを設けた。
仕切りの中に入ってカーテンを閉めると、得も言われぬ安心感が訪れる。 暗さと静けさに包まれた。 私は閉所が少し好きなのだ。 こういうところにいると落ち着くのである。
さっそく銀杏が貸してくれた毛布を体にかけて、寝ようとしてみると、毛布が銀杏のにおいで満ちていることに気づいた。 心拍数が跳ね上がり、心臓がドキドキしてくる。
あぁあああっ!眠れないわぁあああっっ!wwww 実は私は、匂いフェチなのだ。 この銀杏の匂い……結構男らしい匂いである。
そういえば、私の恋愛観を語ってこなかった。 でも私は、正直どういう人が好きなのかは分からない。 小学校とかで気になる男の子がいたことはあるが、恋愛までしたことはない。
今はどちらかと言えば、恋愛がしたいというより、子育て体験がしてみたいって感じなのだ。
今までさんざん授乳の妄想をしてきたけど、考えてみれば、子供を産むためには結婚しなきゃいけない。 順序が逆じゃないの、馬鹿ねぇ私。
結婚相手は誰かしら。 相手は……相手が銀杏なのおおおぉっ???!!!www マジぃ?!!ww
あぁ、銀杏だったのか、私の運命の人は。 意外とポロっと巡り合えたわねぇ。 まぁ人生そんなもんか。
どんなふうに、初デートするのかしら。 私が一人で待ってたら、銀杏が走ってきて、『ごめん、待った?』『ううん、いま来たとこ』とか言って。 一緒に歩きだしたら、銀杏は恥ずかしがって、手も繋ごうとしなくて、私の方がやきもきして……。 『手ぇ繋ぎなさいよ、あなた』『あ、ごめん』とかいって。 ……いや! ここは、ちょっと可愛く言ってやるかな。 『ねぇ……手、つなご?』とか言って、上目遣いで言ってやればいいのかしら。フウゥゥゥウウッッ!!!wwww
それで手を繋いだら、どうするの。 わたし多汗症だから、手汗が多いんだけど。
まあいっか、とりあえずどこかに行くかな。 考えるの面倒くさいわね、じゃあ初デートで結婚式でも挙げましょう。 私はせっかちだしね、うん。
どんなふうに結婚式を挙げるのかな。 リンゴーん♪つって鐘が鳴るううぅぅつ!!!www ……え、ここ教会なの?あそう、まあいいわw 『さあ誓いのキスを』つってww えぇ、親の前でチューするの?!! いやん、恥ずかしいわww 日本人は西洋式大好きねえ、ほんとにwwwぶははwww
挙式を終えて外に出ると、ブーケ投げたりするのかな。 しゃらーん!つってw ……あれ、でも友達誰もいないけど。 銀杏も友達いなさそうだし、さびしい結婚式ねぇ。 まあ親がいれば十分でしょ。 パチパチつって笑顔で手を叩いてくれて……はいはい、ありがと。
そしてついに初夜を迎えるのよね……。 シャワー上がった銀杏が来て……。 あら縄文人の姿で来たの? 分かってるわねぇ、あなた。 よし待ってて、私も縄文人のコスプレするわっつって。
そしたら銀杏がち〇こぶら下げたまま言うのよね……『俺と一緒に竪穴式住居を作ろうぜ!キラーんっ!』つってwwこの現代にww4丁目1-3は銀杏さん宅の竪穴住居ですってねぇwwwぶははっ!!www 家賃が安くて済むわwwwありがとうあなたって言ってぇっwwフォォアアアアァァアッッッ!!wwwwwwwww
……あぁ、疲れた。 妄想してると、脳内物質がバクバクと流れまくってるのが感じられる。
もう、まったく眠れる気がしない。 体は疲れてくるのに、脳はますます冴えてくる。
枕元に置いたスマホをつけると、もう夜中の1時である。 なんと数時間ずっと妄想してたらしい。 我ながら呆れる。
とりあえず、トイレに行こう。 相変わらず水を飲みまくってるせいで、夜中すらも頻尿ぎみだ。 飲んで出して、飲んで出して……。 まったく、何やってるんだろうねぇ私は。
やれやれと思いながら立ち上がり、私はトイレへと立った。
トイレに入って電気をつけると、黄色い光が目をさしてきた。 うわ、まぶしっ! ますます目が冴えてきたし、もう今夜は徹夜かも。
……考えてみれば、寝れないのは当たり前かも。 今まであのアパートで、早い時間に眠れたことなどないのだ。 寝る時間がズレまくって、毎日朝に寝ていたわけである。
トイレを終えると、再び暗い中を歩いて戻っていく。 ソファのそばを通りがかると、ナミ子さんの姿がうっすらと見えた。 ちゃんと落ち着いて眠っている。 冷房も効いてるし、ここなら快適だろう。
その時、目の前に人の姿が現れた。 暗い中に、たしかに別の人の輪郭がある。 え、誰? と思うヒマもなく、お互いよける間もなくぶつかってしまう。
「うわっ!」
私は叫び声をあげると、その人と一緒に暗い廊下に倒れこんだ。 私が仰向けで押し倒されて、相手が覆いかぶさっているような格好になる。
いたた……ん? 見ると、目の前にいるのは縄文人の格好をした銀杏だった。 銀杏もびっくりしている。
何故ここにいるのかなど考えるヒマもなく、銀杏の男のにおいが鼻に流れ込んできた。 クンクン……ぎゃーっ! やばいっ!!ww さっき脳内で繰り広げた妄想が、一瞬にして再生されていく。 初めてのデート……結婚……そして初夜……。 銀杏のあられもない姿が浮かんでくる。
銀杏も突然のことに固まっていた。 やはり外は暑かったのか、見れば汗がにじんでいる。 あぁなるほど、だから家の中に戻ってきたのかな。
私が冷静に考えていると、銀杏は覚悟を決めたのか、おもむろに目を瞑って唇をチュウの形にしてきた。
まったく、あなたやる気じゃない。 私はもうちょっと先でもいいんだけど。
ここで時間を止めて、固まったままの銀杏の下から抜け出して、10年ぐらいたってから戻ってこようかしら。 10年たてば、私もその気になってるかも。
私はそんなことを思いながら銀杏のキス顔を眺めていると、その瞬間パチンと部屋の電気がついた。 辺りが明るい光で満たされる。
私たちは玄関の方を振り返ると、そこには葉月と瑞が立っていた。
2人はこっちを見て、何が起こってるか分からないような様子で突っ立っている。
……あれ、なんでこの2人がいるの? 私の考えがまとまらないうちに、葉月の大声が辺りを貫いた。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああぁぁっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 先輩、だめですううううううううううううううううううううううううううううううぅぅつっつっつ!!!!!!!!!!!!!!」
葉月はそう叫ぶと、生死をかけたイノシシのように私たちに向かって突進してきた。 銀杏はタックルに突き飛ばされ、部屋の端っこまで吹っ飛ばされる。
話を聞くと、2人は帰った後に示し合わせて、それぞれ真夜中の家を抜け出してきたとのことだ。 結構やるわね、この子たち。
のんきに座って話を聞いていた私を、葉月が引っ張ってくる。
「先輩いいいいっっ!!! こんなところにいたらダメですっっ!!! 帰りましょう!!!!」
そう言って叫びながら、私を玄関へと無理やり引っ張っていく。 あぁっ! 相変わらず力強いわねぇ、あなた。
しかし玄関を開けると、その瞬間辺りに轟音が鳴り響いた。 目の前に大量の影が下りてきて、湿気が感じられてくる。
「雨だあああぁぁっっ!!!!!!!」
立ち止まった葉月の横で、私は雨の中に飛びこんでいった。 狂ったように叫びながら、ガッツポーズをして叫ぶ。
銀杏や瑞も、傘も持たずにマンションの外に出てきた。 雨の中でびしょびしょになりながら、みんなで踊り狂うっ!
「いぇええええぇぇいっ!!!!!wwww」
「いあっほおおおおおおおぅっううっ!!!!!!」
「フウウウゥゥゥッッ!!!!!!!!!!!!!wwwwwwwww」
数十日ぶりに、雨が降ってきた。 私はえもいえぬ安堵に包まれ、しばらく雨に打たれていた。
それから私たちは、シャワーを浴びて眠りなおした。
葉月と瑞も、大雨で帰れなくなったので、今夜はここでお泊りである。
ちなみに、この後2人は親にめちゃくちゃ怒られたらしい。 まあ、そりゃそうでしょう。
私たちは、さっき作った1畳ほどの仕切りに入ってきて、そこで固まって眠った。 いま私の横には、葉月と瑞が体を丸めていて、重なるようにして身を寄せている。
あぁ、次から次に色んな事が起こるわねぇ。
8月に入ってから、びっくりするほど時間の密度が濃い。 少し前は機械みたいな生活だったのが、嘘みたいだ。
私は疲れ切って、ようやく眠気が押し寄せ、眠りの中に入っていった。
おやすみー……。ぐぅ……。(黒縁)




