第30話 ナミ子を介抱しよう!
ナミ子が熱中症になってた!
「よし、いったん銀杏の家に行こう」
そんなわけで、ナミ子さんを銀杏の家まで連れていくことになった!
幸い重症ではないらしく、ナミ子さんは自力で歩けた。 5人で一緒に歩いて、目の前のマンションを目指す。
ちなみに熱中症は、『涼しいところに連れていくこと』、『体を冷やすこと』、『水分補給をすること』の3点が重要らしい。 症状がひどい場合は、病院に行く必要があるらしい。
マンションの扉を開けて、私たちは銀杏の家の中に入っていく。
「失礼しまーす……」
私は小声で言いながら、玄関に入っていった。 銀杏が先に上がっていき、明かりをつけていく。
家の中は古かった。 いかにも昔のマンションって感じだ。 玄関の扉も、壁も、ありとあらゆるところが色あせて剥げている。 材質も明るくなく、全体的に暗い。
狭苦しい玄関から上がり、廊下を行くと、正面と左側に部屋があった。 どうやらこの2部屋だけらしい。
正面の部屋が居間みたいなもので、左側が寝室みたいだ。
居間の部屋にはソファが一つあった。 その周りには大量に散らばった本や、大学の資料があった。
私たちはソファまでナミ子さんを連れていくと、散らばっていた書類をどけて、ソファの上にナミ子さんを寝かせた。 銀杏がリモコンを操作して冷房をつけている。
瑞はスマホで熱中症の対処法を調べているらしく、ささっと色んなものを用意してくる。 冷凍庫の中には保冷剤がはいっていたらしく、濡れたタオルなどを使って体を冷やすことにした。
真夏というのに、ナミ子さんはやたらと服を着こんでいたので、それを脱がしてから、タオルなどを体に当てていく。
葉月は扇風機をその辺から持ってきて、「あ”あ”あ”あ”ぁ~~」と一通り言ってから、ナミ子さんを冷やし始めた。
私と葉月は、瑞のスマホの熱中症ガイドを一緒に覗き込んでいると、ナミ子さんが何か言葉を言った。 口元が動いている。
「みず」
私は顔に近づいて、聞き返した。
「え?」
「おみず」
あぁ、水が飲みたいってことね。 そうだ、水分補給は重要だ。
私は家から持ってきたペットボトルの水を、「はい」とそのまま渡した。 しかしナミ子さんはペットボトルを受け取らず、うーんと言いながら顔をもぞもぞ動かして、こっちに寄せるようにしてくる。
え? なに、飲ませてほしいってことかしら。 自分で歩けるなら、それぐらいできるでしょう。 まったく、しょうがないわね。
私はペットボトルのふたを開けると、ナミ子さんに近づけていった。 ナミ子さんは目をつむったまま口をつけると、小さくこきゅこきゅと音を鳴らして飲み始める。
あら、なんか不思議な感じ。 目の前のナミ子さんが、ちょっと赤ちゃんみたいに見えてきた。
私は意味不明にドキドキしながら、優しく肩に触りながら飲ませていく。 ナミ子さんも受け入れているのか、顔をもぞもぞと動かして近づけてくる。
ほら、ミルクよ。 しっかり飲んで、元気に育ちなさい……なんつって。ぶははっ!ww
「先輩、あの部屋で寝るの、危ないですよ」
葉月が唐突に言った。 瑞が操作するスマホの画面を見つめながら、ボソッと呟いている。
私は水をやりおわって、振り向いた。
「え?」
「だって、全然冷房が効かないじゃないですか。 あそこにいたら、先輩も熱中症になりますよ」
まぁ、確かにそうかも。 さっきの様子を見るに、冷房はすでに壊れているのかもしれない。
最近は、夜も暑くて寝苦しい。 周りの部屋がうるさいのも相まって、もはや私の睡眠環境は地獄である。
夜中の間じゅう河原などをさまよって小説の内容を考えて、疲れ切ってその内容を忘れてから、ようやく早朝から寝始めているぐらいだ。
早朝は誰もが寝静まっているし、一番静かで、気温が落ち着いて眠りやすいのだ。
でも、行く当てなんてないんだけど。 唸る私の前で、銀杏も同意するように頷いた。
「確かに、危ねぇな」
「うーん、でも他にないしなぁ……」
「ここに泊まるか?」
銀杏が言った。 私は意味が分からず、一瞬思考停止する。
「え?」
「余裕あるぞ。 向こうの部屋に、ちょっと空いてる場所あるし」
ここ以外にも、もう一部屋あった。 狭苦しい場所だが、別に悪くない。 銀杏が言うなら、泊まらせてもらおうか。
「あっ、いいの? じゃあ、そうしようかな」
「ギャーッ!! 先輩が犯されるっ!!」
「え?」
私が話に乗っていると、葉月が突然大声で叫びだした。 なにいきなり。
話が見えないまま、葉月は慌てた様子になり、手足をジタバタさせ始める。
「先輩、こんなところにいたらだめです! さあ、家に帰りましょう」
何言ってんの。 あの家に帰ったら危ないって、あんたが言ったのよ。
しかし、葉月は私の腕を引っ張ってくる。
「ぎゃああーーっっっ!!!ダメですううぅぅっっ!!! 男はみんな、野獣なんですよおおおおぉぉっっ!!」
「大丈夫だよ。 別に、変なことしないでしょ?」
そう言って、私は銀杏の方を見る。 銀杏は急に話を振られて、慌てた様子で答えた。
「え?! あぁ……うん……」
銀杏は曖昧な感じで、首をかしげる。 ……え、マジ? 自信ないの?
葉月はそれ見たことかと言わんばかりに声を張り上げた。
「ほらや”っぱり”いいいぃっ!!!!! ダメですよ先輩、こんなところにいたら獣の餌食ですよおおおおっっ!!!!!」
そう叫んで、私を引っ張って家の中で引きずり回す。
暴れ散らかす葉月を、私と瑞はなんとかなだめた。
さすがにこの状況では、これ以上良いやり方は考えられない。 葉月は「私の家に泊まってくださいっ!!」などと言い出したが、葉月がよくても家がダメだろう。
それに、ナミ子さんも放ってはおけない。 29歳だから十分すぎるぐらい大人とはいえ、ニートなら家族が心配する可能性もなくもないかもしれないとも言えなくもない。
これ以上の選択肢がないと分かった葉月は、しぶしぶ了承した。
「じゃ、おやすみ」
玄関で別れの挨拶をすると、葉月は恨めしいような目を向けてくる。
まったく、しょうがないじゃない。 私も、あの激安アパートが、ここまで住むことが困難な場所だとは思ってなかった。 これを機に、さっさと別の家を探した方がいいかも。
2人を見送ると、私は家の中に戻っていった。
もう一つの部屋では、銀杏が準備をしていた。 少し狭いが普通の部屋だ。 ふだん使ってないのか、物も散らかってない。
「ここで、寝ていいの?」
「うん。 布団はどうする? 一応予備あるけど」
銀杏はそう言って、その辺から毛布を引っ張り出してくる。 私は頷いた。
「それでいい。 ……銀杏はどこで寝るの?」
「俺は、竪穴住居の中で寝る。 あの中で寝てみたかったから、ちょうどいい機会だな。ははっ!w」
なるほど、その手があったか。 竪穴住居は意外と涼しいらしい。 半分地下にあるから、外気の影響を受けにくいのだ。
その後、私はシャワーも借りることにした。 汚い風呂屋に行ってもいいが、気分を変えたくなったのだ。
シャワールームに入っていくと、風呂屋とは別の意味で汚なかった。 妙に生活感があって、ごちゃごちゃしている。 浴槽はなく、ただシャワーがあるだけだ。
おぉ、いいじゃない。 私は奇麗なところが苦手だしね。 むしろこれぐらいの方が落ち着く。 ……銀杏の脱ぎ捨てたパンツやらがその辺に見えるのが、気になるけど。
私は脱衣所の扉を閉めると、自分の服に手をかけていった。
♪♪♪~。……けっこう快適なシャワーじゃん。(黒縁)




