第28話 ナミ子を加えての日常開始っ!
ナミ子さんと知り合ってから、数日がたった!
ナミ子さんは本当に私の家に居候するようになった。 しかし、これが大変だった。
「ねえ、ごはんまだー?」
アパートの部屋の中で、赤ちゃんみたいな声が飛んでいる。
私は玄関から部屋の中へと入っていくと、低いテーブルの前でだらけているナミ子さんのもとに歩いていった。 少し慎重な足取りで歩く私の手には、ラーメンの入った深めの紙皿がある。
今まで、クソ暑いアパートの外で、一人ラーメンを作っていたのだ。
ナミ子さんは動かないくせに食欲旺盛らしく、1日に4回も5回も食べたがる。 ただでさえ苦しい家計が、激しく圧迫されているのだ。
「はい」
私はナミ子さんの前にラーメンの入った紙皿を置き、新しく買ったナミ子さん用の箸を添えていく。
ナミ子さんは、自分に出された料理が何なのかも確認せずに、スマホから1mmも目を離さずにラーメンをすすっていった。 一口食べて、不満をこぼす。
「まず」
うるっさい! 私は心の中でキレながら、黙って横に座って自分の作業に戻っていく。
今日も、葉月と瑞はうちに来た。 今は瑞は買い物に出ていて、葉月は部屋の中にいる。
私たちは、なぜかここに集まるようになってきている。 冷房は効かないし臭いから、むしろ私の方が別の場所に行きたいのだが。 金がないから仕方ないのだ。
目の前には、一緒に低いテーブルに座って、葉月が新聞を前にしている様子がある。 葉月は銀杏から指摘されて、自分の知識を見直すことにしたらしい。 その手始めとして、新聞などでニュースを見るようになったようだ。
……しかし、どうも様子がおかしい。 後ろのテレビはついているが、流れているのは何かのアニメだ。 見ればテレビスティックが差し込んであって、葉月が差し込んだらしい。
新聞もまともに読む気はないらしく、葉月は新聞のすべてのページの写真に落書きをしていっている。
「殺人とか、経済の不調とか、どうでもいいですから」
葉月は政治家の顔にマジックを塗りたくりつつ、ぼそっと言う。
「今どき、誰があんなテンション低い番組を見るんですか。 新聞も、宇宙人に操作されてますからね。 こんなの読んでたら、頭おかしくなりますよ」
葉月はそう言いながら、『バカ』とか『うんこ』とか小学生みたいな言葉を写真に落書きしていっている。
テンション低い番組てw まぁ、ニュースとか新聞とかが暗いと思うのは、私も同意だけど。
前に私も、英語の勉強もかねて英字新聞をとったことがある。 だが、内容が暗すぎて数日で読むのをやめてしまった。 勉強以前に、気持ちが暗くなって辛くなるのである。
せめて言い方だけでも元気にできないのかな。 『今日は殺人で2人死んだよっ!イェイっ!w 次ぃっ! 総理大臣が不倫したよっ!フウウゥゥツ!!ww』とか言って……いや、さすがにおかしいか。
そんなことを考えていると、瑞が帰ってきた。
「ただいまー。 ……銀杏さん、何やってんの?」
「古代人の生活をやってみたいんだって」
銀杏は今、古代人の生活を体験中なのだ。 私は立ち上がると、瑞と一緒に、玄関の扉を開けて外の様子を見る。
アパートの前には、簡単に作った藁ぶきの家があった。 竪穴式住居と呼ばれる、日本の昔の建物である。
アパートの前には少しだけ余った土地がある。 銀杏が管理者に電話して、許可を取ったらしい。
そばには原始人みたいな布切れをまとっている銀杏の姿があった。 ウキウキで火をおこしたりしていて、一人で楽しそうである。
銀杏は、今まで学んだことの見直しをしているらしい。 自分が本当に向かいたい方向を、0から模索するのだそうだ。
とりあえず自分の興味が動く方向へ従い、学問の枠などは何も考えずにやってみたいらしい。
私は部屋の中に戻ると、再び低いテーブルの前に座っていった。
瑞は買い物袋から材料を取り出して、冷蔵庫の中に入れていっている。 ナミ子さんが食料を食いまくるせいで、私が食べるのを我慢していると、瑞が何も言わずに自腹で買ってきてくれるようになったのだ。
金欠の私にとっては、本当にありがたい。 これがなかったら、もうとうに死んでるかも。
目の前のテーブルの上のガラス管を手に取り、私は意味もなく触る。 これは、理科の実験用の真空管である。
私は高校の内容を独学で勉強しているわけだが、現象を目の前で見ないと落ち着かないのだ。
磁石や電気回路、ただの鉄球やそれを転がすための滑り台など、色々なものが散らばっている。 部屋の端にはヘリウムや水素の入った缶や、圧力計なども置いてある。
私はパソコンの画面をぼうっと眺めながら、手元の真空管をくりくりと動かしていると、瑞が手元を覗き込んできて、聞いてきた。
「ねえフミ、爆発物の知識とか知らない?」
「いや、知らない」
私が答えると、瑞はうーんと唸りながら引っ込んでいく。 なに、瑞。 爆発物とか興味あるの。
私も、いずれそういう知識も欲しいとは思っている。 銃器とか爆弾とか、まだ私は小説の中に登場させたことはないが、いずれ使う気がするのだ。
「爆発物のこと、知りたいの?」
瑞はうーんと曖昧に首をかしげている。 私は言った。
「本屋にでも行ってみる?」
「あ、先輩、私も行きたいです! ちょうど、買わなきゃいけない参考書もあるし」
新聞に落書きを終えた葉月が、顔を上げて言ってきた。 よし、じゃあ3人で本屋に行こう!
私たちはナミ子さんを残して、外に出てきた。
外に出ると、強烈な熱気が体を襲ってくる。 あっつ……! 私たちはアパートの廊下を歩いて、階段へと向かっていった。
さすがに暑さがヤバい。 加えて今年は、数十日も雨が降ってないのだ。 日本の夏もおかしくなってきたんじゃないか?
「異世界が近いですからね。 気候もおかしくなったんですよ」
「……え? 異世界?」
葉月の意味不明な発言に、思わず上ずった声で聞き返す。 少し前を歩く葉月は、当然というように答えた。
「そうですよ。 知らないんですか? 異常気象が頻発してるのは、異世界がすぐ近くに来てるからなんですよ」
「あぁ、Xデーがどうのって……」
「いや、違いますよ。 Xデーは関係なく、異世界が別方向から近づいてきてるんです。 もうすぐ大変革が起きますよ!」
「マジぃ?!w やった、大歓迎だぁ! ブハハッ!ww」
私は適当なことを言って笑い飛ばす。 銀杏じゃないけど、私もこういう風にしておこう。 ポジティブな方が楽しくて好きだし。
私も異世界転生しようかな。(黒縁)




