表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/66

第23話 博物館を回ろう!

 小説の参考に、博物館に行くことになった!

 次の日の朝っ!

 朝から4人で電車に乗り込む。

 電車の中には、制服姿の学生たちがたくさんいる。 夏休みだが、部活やらなんやらで(いそが)しいんだろう。

 不思議な気分でもある。 私は本来この中に混じって、制服を着ていたはずなのだ。

 私が学校をやめたのは自分の意志だが、胸がほんの少しだけ痛むのはなぜだろう。 ……今さら遺恨(いこん)などないはずだが。

 そう思いつつ、私は高校生向けの参考書を取り出した。 科目は生物である。

 実は私は大学に行きたいのである。 これはそのための勉強で、いつも隙間(すきま)時間を見つけては、ほんの少しずつ勉強しているのだ。

 参考書を読んでいると、葉月が横から(のぞ)き込んできた。


「先輩、何やってるんですか」

「今は生活が安定してないから無理だけど、いずれ大学に行きたいんだよね」


 学校をやめて小説家をやろうと思ったのに、また戻ってきて勉強してるのだ。

 小説を書いてると、なんだかんだで知識がいる。 当たり前だが、物語はこの世の物事について書くからだ。

 この世界でないファンタジーや、日常的な恋愛ものならまだ抵抗できる。

 だが、歴史ものは? 推理小説は? SFは?

 そうやって知識が必要とされるところを避けていると、小説家としては息苦しく感じてくるのだ。

 葉月は話を聞くと、感心するようにため息をついた。


「はぁー、そうなんですか凄いですねぇ。 でも高校やめたのに大学行きたいとか、意味不明ですよ」


 まあ、そうなんだけど。


 しばらく()つと、町を離れて景色は自然が広がってきた! あぁいい景色っ!

 バイクもいいが、私は電車も好きだ。 次々に新しく移り変わっていく景色を(なが)めていると、気持ちがいい。

 目的の博物館がある駅は、駅の目の前に遊園地があるようなところだ。 電車から観覧車とかジェットコースターとかが見えて、ワクワクしたものよ。

 駅に降り立つと、キャラクターがお出迎えしてくれて、楽しい風船を渡してくれて……。 あぁっ! いまでもワクワクしてくるっ! 小さいころだったんだけど、今でも当時の興奮を覚えている。


 30分ほど電車に()られて、やっと目的の駅に着いたっ!

 あぁお(しり)が痛い。 電車に乗ってると、目立ちたくないからじっとしてて、尻が痛くなるのよね。 私だけなのかしら。 みんなも我慢(がまん)してんのかな。

 駅のプラットフォームに電車が侵入していくと、私は違和感を覚えた。 窓の外は妙に閑散(かんさん)としていて、さびれた風景が広がっている。

 ……あれ? この駅って、結構新しくて未来的な感じじゃなかったっけ? 遊園地がすぐ駅の目の前にあって、観覧車が……。

 しかし、見れどもその影はない。 土くれと、空気と、青空しかない。

 葉月は淡々(たんたん)と降りる準備をしながら言った。


「その遊園地なら、閉園しましたよ」

「え?!」


 ……閉園したの? マジ? 私は突然の出来事にショックを(かく)せないまま、オロオロしながら電車を降りていった。


 駅に降り立つと、そのあまりのさびれ具合に呆然(ぼうぜん)とした。 プラットフォーム自体は広くて長いが、そこには何もない。 電車からは人がポツポツと降りているが、静かなものだ。

 他の3人は特に何も感じてないようで、階段の方へと歩いている。

 周りを眺めながら、私はまだ動揺(どうよう)しながら歩いていく。 うっそお、こんなに静かな場所だったっけ。

 駅を取り囲むようにして設置されていたはずの、未来感あふれていた壁も消えていた。 キャラクターの影も形もなく、楽しかった風船はどこかへ飛び去っていた。

 薄汚れてどこまでもシンプルになった、マジでただの駅である。


 一階の改札口がある場所も、微妙な地域的なポスターがいくつか張ってあるだけで、驚くほどひっそりとしていた。


 改札口を出ていくと、さらに虚無(きょむ)的な景色が目に入った。 人を大量に受け入れる気まんまんの広い待合(まちあい)場所に、人が誰もいないのだ。

 とにかくだだっ広いのに、どこまでも人がいない。

 私はきょろきょろと辺りを見回しながら、(つぶや)いた。


「……なんでこんなにさびれてんの? 昔、ここめちゃくちゃ(にぎ)わってたけど」

「経済が落ちてるからだろ」


 銀杏が事もなげに答える。 すると、横の葉月がツッコミを入れてきた。


「何言ってるんですか銀杏さん。 いま日本経済、絶好調ですよ」

「へ?!」

「知らないんですか? 上部構造の陰謀(いんぼう)で、みんな知らされてないんですよ。 いま経済爆上がり中ですよっ!」

「でも株価が……」

「株価も全部デタラメです。 政府を裏で操ってる宇宙人に操作されてるんですよ。 そこに並んだ政治家のポスター、見てください。 みんな変な顔でしょう。 宇宙人が電波で操作してるんです」

「そうだったのかあぁぁっっ! 日本の将来、安泰(あんたい)だなあぁっ!!ボッハッハッ!!www」


 銀杏はそれを聞くと、大声で爆笑し始めた。 いや、宇宙人に操られてたら安泰じゃないのでは。

 聞いた話では、銀杏は葉月の小説を全部読んだらしい。 この人、真面目な性格みたいだ。

 しかし(いわ)く、葉月は知識にかなりの(かたよ)りがあるのだとか。 高校生だし、仕方ない部分はあるのだが、興味がある部分とそうでない部分で激しく偏っているらしいのだ。


 話はそこそこにして、私たちは駅を離れて歩き出した。 何もない広大に続く土地には、駅から人がちまちまと出てきて歩いていた。

 近くに博物館や科学館なんかがあるから、そこの職員の人たちだろう。 男の人まで全員日傘を差して、影の中に(かく)れるようにして歩いている。

 そうよねぇ、これだけ異常な暑さだもの。 最近の男女的なブームもあるし、これぐらいは日常的に思えてくる。

 周りを見れば、しかし客らしき人は見えない。 夏休みはまだ終わってないのに、子供の姿なども見えない。


「……なんか、人少なくない?」

「こんなもんでしょう」


 いちいち周りを見る私とは対照的に、葉月は気にしていないみたいだ。 4人で博物館に向かって歩いていく。



 博物館に入ると、人はやはりそんなに多くはなかった。 しかし、想像していたよりは多く、ほとんどは子供のいる家族のようだ。

 博物館の中には、色んなものが展示されていた。 ただの岩だけでも、色んな種類が展示されていて、岩や石を見るだけでも時間がつぶせる。

 ルビーやエメラルドみたいな、分かりやすい宝石みたいな石もあるし、なんと『波の形がそのまま化石化した岩』なんてものもある。

 最初は「別に博物館なんて大したことないでしょう」とか言ってた葉月も、入ってすぐに設置されていた恐竜模型を見て、はしゃぎ始めた。


「先輩、恐竜ってこんなに大きいんですよっ! キャーッ!w」

「馬鹿ねぇ葉月、こんなのではしゃぐの? 子供みたい」


 瑞は少しわくわくするような目で恐竜模型を眺めながらも、すました表情を(くず)さない。

 しかしいざ展示物を回り始めると、負けんばかりに楽しみ始めた。 古代の大きな虫の『三葉虫(さんようちゅう)』を見て、「きゃー!かわいーっ!」などと言って、私の(うで)をつかんで()らしてくる。

 ちなみに三葉虫は、大きくて平べったいダンゴムシみたいなやつである。

 うーん、三葉虫って食べるとおいしいのかしら。 身がぷりぷりしてそうで、エビみたいな感じかな。

 銀杏はこういう知識にも詳しいらしく、得意げな顔になって解説し始める。 聞いた話では、銀杏は地球環境うんぬんかんぬん学部らしいから、恐竜とかも詳しいのかも。


 今度はアンモナイトが大量に展示されているコーナーに行く。

 アンモナイトも色んな種類がいるみたいだ。 曲がりくねっていてもはや芸術作品みたいな形のもあり、なかなか自然って複雑ねぇ。

 ところで、アンモナイトも食べるとおいしそうだ。 ポン酢とかかけて食べるとよさそうね。


「アンモナイトって、サザエみたいな味がするのかな」

「先輩、お腹減ってるんですか」


 さらには、古代っぽい魚のシーラカンスやカブトガニを見ていった。 葉月はシーラカンスの説明文を眺めていたが、振り返って言う。


「先輩! シーラカンスって、今も生きてるらしいですよ」


 なんと、驚きだ。 生きる化石とは聞いていたが、本当に今も海の中で泳いで生きているらしい。

 カブトガニも、絶滅(ぜつめつ)の危機に(ひん)しながらも、ひーひー言いながら生きているらしい。 その辺の干潟(ひがた)にいるよと書いてある。


「シーラカンスは(たい)みたいな味かなぁ? カブトガニは……」

「先輩、お昼ご飯を待ちましょう」


 展示されている説明によると、今までの地球は5回大量絶滅が起こったらしい。 『これから6度目の絶滅に行くぜ!フゥゥゥツッ!!イェイ!』と書いてる。

 次の絶滅は、人間が引き起こすと考えられているらしい。 うーん、確かにそうかも。

 それに代わって、今度はどんな生物が地球上を歩き回るのかしら。 宇宙人みたいな知的生物が動き回って、同じように博物館作るんだろうか。

 裸の現代人の模型が見世物(みせもの)になって、『やりたい放題やって自滅(じめつ)したホモサピエンス』とか書かれたりして。

 ざまあないわね、人類。 人なんて、その見世物場所がお似合いよ。フハハッ!w


 中を見て回っていると、一組の親子がいた。 若い母親に連れられて、子供は5歳ぐらいで、元気に走り回っている。

 あぁ良いなぁ……。 え?!ここで授乳(じゅにゅう)するの?

 しょうがないわね、(こし)を下ろして座り込んで……あ、でももう5歳か。 まあいいや、ほら来なさい。 5歳でも何歳でも、吸っていきなさいな。

 ちゅうちゅう私の胸を吸って、あら可愛いじゃない。

 顔を上げると恐竜模型があって……。 あぁ自然って大きいわねぇ。 この遠大(えんだい)な歴史の中だと、私のおっぱいなんてたかが知れてるのよねぇ。 でも数十億年の中の、確実な一つの授乳なのよねぇ……。 これを積み重ねて生物は成り立ってるんだから、そうでしょう?

 私はぼうっとそんなことを考えていると、目の前の母親の声が耳を切りさいた。


「ちゃんとしなさいよっ!!! ほら黙って向こうに行って!!! みんなと一緒に行動してって言ってんだろうがよょおおぉおっっ!!!!!!! ゴア”ア”アアァァアァッッ!!!!」


 すごいブチギレ具合である。 口からごうごうと火を()いていて、まるで現代によみがえった恐竜だ。 横の恐竜骨格よりも迫力(はくりょく)がある。

 それを見て、葉月がすかさず振り返った。


「先っ輩! 今の見ましたか」


 さすがの葉月も驚いたようで、目を丸くしている。

 あぁ、たまにこういうの見るわよねぇ。 見た感じ若い親だし、余裕が無いのかも。

 母親になったらめっちゃ大変だって、私も自分の母親から聞いたことがある。

 昔はおじいちゃんおばあちゃんが一緒に住んでたりしたから、子育ても手伝ってもらったりしてたけど、現代は核家族(かくかぞく)社会だから、母親に負担がかかりすぎる……という話だ。


「意外と真面目に考えるんですね、先輩。 今みたいな親、私は普通に嫌いですよ」


 葉月が歩きながら、さらっと毒づいてくる。 まったくあなた、相変わらず私の思考を読むわね。 そろそろ超能力の域になってくるわよ。


 私たちは親子のそばを通り過ぎて、近くの別のコーナーに入っていった。

 この博物館では模型(もけい)だけでなく、実際に生きている生き物も水族館みたいに展示しているようだ。 そこらを見ると、生き物たちがたくさんの飼育(しいく)ケースに入って展示されている。


 後ろの親子は落ち着いて、静かになったみたいだ。 他の同行者らしき人たちと、一緒に歩いているのが見える。

 妙な沈黙(ちんもく)(かか)えつつ、私たちは近くの飼育ケースに近づいていった。


 ……でもさっきのは、果たしてそれだけなんだろうか? 忙しいのは分かるが、違うものも感じる。

 街中(まちなか)でも、あんな親は普通に見かけるが、そのたびに違和感を感じてしまう。

 親が自分本位というか……。 子供のことを、物のように(あつか)っているようにも見えることがあるのだ。

 まあ、子育てとともに、親も成長するっていうしね。 最初のうちはしょうがないのかな。

 私は親になったことはないから、まだ分からないけど。

 よーし、昼ご飯だよ! おにぎり食べよう!(黒縁)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ