第21話 スーパーで瑞と会った!
スーパーで買い物してたら、二見さんとばったり会った! 「あ」と言って、お互いに立ち止まる。
二見さんは買い物かごを持っていて、家の用事で買い物でもしてるみたいだ。
田舎から帰ってきてから、数日たった。 また普段の生活に戻ってきたわけだが、今日はこうして偶然の再会からのスタートである。
いま目の前の二見さんは私服で、肌の露出が多めの涼しげな格好だ。
二見さんは挨拶をしながら近づいてくると、私の買い物かごを覗き込んできた。
手元の買い物かごには、安売りされたカップ麺が大量に入っている。 二見さんはそれを見て、呆れた顔になった。
「またカップ麺? 黒縁さん、こんなものばかり食べてたら本当に体壊すよ?」
二見さんはそう言って、慮るように言ってくる。
それは私も分かっているのだが、余裕がないのだ。 私の家には台所もないし、外食する余裕などあるわけがない。
私ははぐらかすように相槌を打ちながら、周りの景色に目をやる。 ぼんやりとスーパーの中を眺めていると、近くにいた親子に目がとまった。
母親と小さな子供の組み合わせだ。 子供は小さく、まだ小学校にも入ってないぐらいだろうか。
あぁいいなぁ……。 こんな光景を見ると、なぜか自分の肌がムズムズするような感覚に襲われるのである。
腕を引っ張られてお菓子をせがまれて……。 『一個だけだよ?』とか言って。 あ”ぁあぁああっ!!なかなか良いじゃないwwぶへへwww
私が一人でニヤニヤと気持ち悪い笑いを浮かべていると、目の前の二見さんが大声で私を呼んできた。
「黒縁さんっ! また妄想?」
「あ、ごめんw」
二見さんに現実に引き戻されて、私は謝る。 私たちは一緒に歩き始めて、レジへと向かった。
『セミセルフレジ』で会計を終えると、奥のテーブルで荷物をまとめていく。 二見さんも隣に来て、一緒に荷物を整え始めた。
持参したカバンにカップ麺を詰め込みながら、隣の二見さんに話をふってみる。
「二見さん、家の用事で買い物?」
二見さんは、ネギをマイバッグに詰め込みながら答えた。
「いや。 ……これから、黒縁さんの家に行こうと思って」
「へぇ」
私は何も考えずに、相槌を打っていく。 カップ麺をカバンに入れ続けていたが、手が止まった。
……あれ、何かおかしい。 これから私の家に行くのに、買い物していくの?
そういえば、二見さんはなんでここで買い物してるんだろう。
横を見ると、隣の二見さんが買っているのは食料品に見える。
二見さんの住んでる場所もここから近いが、電車で行き来するぐらいには離れている。 ここのスーパーで、日常的な買い物をするほど近いわけではない。
……もしかして、私のために料理を作ってくれるとか? いや、そんなことは流石にないだろう。
「黒縁さん、聞こえてるよ」
「え、マジで」
会計を済ませて外に出ると、また暑さの中に逆戻りしていった。
私は思わずうめき声を漏らしながら、熱されたアスファルトの上を歩き始める。
「暑いねぇ……」
「うーん、暑いね」
日常会話をしながら、私たちはブラブラと歩いていく。
私が足を動かしていく隣には、二見さんが並んで歩いている。 もう友達といえるほどの人が、私の隣で一緒に歩いている。
……なんか、変な気分だ。 ちょっと前までは、街を歩く時にはいつも一人だったのに。
それに最近は、葉月たちと行動していて、不思議な感覚を味わっていた。 世界が色づいて、しっかりとした『意味』を伴って動いていくように感じるのだ。
一人で毎日同じことをして機械的に生活していると、次第に世界が色あせていく。 まるで目の前で見ている景色が意味を伴ってないような……写真のように、ただ貼り付けられた景色にすら見えてくる。
でも他の人といればいるほど、その人が親しいほど、再び世界が意味を持ち始める。 見慣れたはずの景色すら、まるで別物のように生き生きし始めるから不思議なものだ。
ところで、ここ数日はほとんど『部活』の動きはなかった。 田舎の活動で疲れたからか、葉月も何も言ってこなかったのだ。
一度だけ、私の家に2人がいきなり来て活動したことがあったのだが、今日もそういうことなんだろうか。
どうも葉月と二見さんは、私に何も言わずにやり取りしているらしく、私の知らないうちに話が進んでいることがあるのだ。
一応、私にも連絡してくれてもいいんだけど。
私がぼうっと考えながら歩いていると、二見さんが出し抜けに聞いてきた。
「ねえ。 ……フミって呼んでいい?」
「え? あぁうん、いいよ」
私は頷いて、返事をする。
うわあぁあっ、何この感じいぃっ!!ww なんか、ぞわぞわするわねw 二見さんの言い方も遠慮がちだったし、ちょっと可愛いかも。
私の方が1年だけ年上だ。 気を使ったんだろうか?
この際だし、私も二見さんのことを『瑞ちゃん』とでも呼んでみようかな。
私たちはアパートの近くに来ると、もう一つ買うべきものを思い出した。
「あ、そうだ。 キーボード買おう」
もう何度目か分からないが、またキーボードが壊れたのだ。
まったく、どうなってるんだ? 私はプンスカと怒りながら、瑞ちゃんと一緒に、例のレトロPC屋に入っていく。
中はいつものように冷房が効きすぎていて、寒かった。
「……寒っ」
思わず瑞ちゃんもそういって、腕をさすって体を縮めている。
相変わらず扉は全開で、ゴアゴアと風の音がしている。 回を重ねるたびに、ますます寒くなっている気がするが、気のせいだろうか。
店のど真ん中には、いつものようにソファが置いてあった。 しかし今日は、私と同い年ぐらいの女の姿が見当たらない。
あれ、どうしたんだろう。 うんこにでも行ってるんだろうか。 そう思いつつ、私はいつもの場所へと一直線に向かっていく。
部屋の隅で、安いキーボードを手に取っていると、瑞ちゃんが何かに気づいたように声を上げた。
「えっ? 大丈夫ですかっ!!」
瑞ちゃんは大声を上げると、部屋の反対側へと向かっていった。 え、何。どうしたの?
私は振り返ってその行き先を見ると、反対側の壁のところに倒れている人がいた。 あの女の人だ。
女は今日はソファではなく、壁沿いにいるらしい。
瑞ちゃんは心配したのか、慌てて近寄って覗き込んでいる。 私もキーボードを手にしてそこへ行った。
見ると、若い女は壁に向かって倒れているが、スマホをいじっているだけのようだった。 いつものように一心不乱に指を動かし、何かをやっている。
覗き込んでくる瑞ちゃんにも無反応で、ひたすらスマホを操作し続けている。
「この人、店員さんだよ」
当惑している瑞ちゃんに、私が説明する。
瑞ちゃんは、状況の何もかもが理解不能なようだった。 眉をひそめて若い女を見て、私を見て、もう一度若い女を見て、必死に考えている。
まぁそうよねぇ、私も最初はこの人が店員だとは思わなかったものだ。
それにもう3回目だが、毎回この人しかいない所を見ると、この人は恐らく店主なんだろう。
私と同じ年ぐらいなのに、レトロPCショップを運営するなんて、結構すごいじゃん。 色々適当に見えるけど、意外とやり手な人なのかも。
困惑したままの瑞ちゃんを置いて、私は女に声をかけた。
「すいません、会計お願いします」
女はそれを聞くと、3秒ほど待ってから動き始めた。 のっそりと立ち上がると、よたよたと弱々しい足取りでレジへと歩いていく。
だらけすぎて、筋肉が弱ってるんだろうか。 見た目は若いのに、肉体年齢は90歳ぐらいだ。 加えて、接客は子供のようである。
世の中変な人もいたものだと思いながら、私は値段を言われるまでもなくジャラジャラと2800円を置いた。
女は面倒くさくなったのか、硬貨を数えることもなく服のすそを使って器用に回収した。 バーコードを読み取らないどころか、もはやパッケージの箱もさわらないし、一言も言葉を発さない。 適当すぎない?まあいいけど。
怪訝な顔をしっぱなしの瑞ちゃんをよそに、私は店の外へ出ていった。
外に出ると、また暑い夏の中に戻ってきた。
2人で顔をしかめながら歩きだすと、瑞ちゃんがぼそっと言う。
「……ねえ、あの人変じゃない?」
「え? あぁうん」
私はもう慣れてきたのか、あまり変だとは感じなくなっていた。
別に人に危害を加えてるわけじゃないし、いいんじゃない。 知らないけど。
家に帰ると、葉月が勝手に上がり込んで、お菓子を食っていた。
「あ。 先輩、おかえひなはーい」
ボリボリとお菓子をむさぼりながら、私に挨拶してくる。
部屋の中に入ると、少し暑さが和らいだ。 冷房はあまり効いてないが、最低温度まで下げて風の強さを最強にすると、一応暮らせないことはないレベルだ。
電気代がどれだけになるか分からないから、すでに恐ろしいんだけど。
まあいっか! 考えても仕方のないことは考えないのである。
私はかび臭い畳に腰を下ろすと、さっそく買って来たカップ麺をバリバリと開け始めた。
ふぁああっっ!!! このジャンク感たまんないわww いつ病気になるか分からないのも、スリルを感じてゾクゾクするのである。
近くにあったお菓子の袋も、一緒に開けていく。
葉月はお菓子が好きらしく、やたらと買ってくるのだ。 食べていいと言ってくれたので、これも食料の足しにしているのである。
しかし、私たちが超ジャンキーな食事にありつこうとしていると、突然瑞ちゃんがキレ始めたっ!
「あぁ”あ”ああぁっっ!!!!!!!! 食べるの、やめてええぇぇええっ!!!」
ついにキレたっ! やはり瑞ちゃんは食生活については、かなり気を配るタイプらしい。
瑞ちゃんは頭を振り乱して、狂ったようにブチギレると、私たちが食べようとしていた食事を強引に回収していった。
お菓子を口にふくんだまま、葉月が言葉にならない叫びをあげる。 しかし瑞ちゃんは無理やりお菓子の袋やカップ麺をひったくっていくと、鞭を打つように大声で叫んだ。
「私が料理作るからっ! ちょっと待っててっ!!」
瑞ちゃんはスーパーで買ってきた買い物袋から、ネギやらトマトやらの食材をズンズン出していく。
でも、この部屋キッチンないけど。 私は眉をひそめて言った。
「でもキッチン無いよ?」
「無理やり作るっ!!!」
瑞ちゃんはそう言うと、触れがたいようなオーラを出して料理を作り始めた。
田舎で見たあの料理を考えると、瑞ちゃんなら作れそうでもある。
まあいいか……作ってくれると言うならお言葉に甘えよう。 私は自分のパソコンに向かった。
私たち3人は、今日はこんな感じで集まった。 特に集まる伝言などもしなかったのに、変なものだ。
みんなでご飯を食べよう!(黒縁)




