第15話 河原で寝よう!
サークル系イベントに3人で行った!
結局、成果は何も無かった! 友達が出来ることもなければ、イベントの内容自体も満足いくものではなかったみたいだ。
葉月は最初から期待していなかったらしい。 「なにか違う」としきりに帰り道でも呟き続けていた。
一体何が違うんだろう、私にはさっぱりである。
家に帰って、私は一人になった。 電気をつけて、畳の上に座る。
イベントに行っただけなのに、なんか疲れた。
「……あぁ、風呂入ろう」
私は思い出したように呟くと、家を再び出て隣の風呂屋に向かった。
隣の風呂屋は、夜遅くになると閉まってしまう。 日が暮れてしまう前に、入ってしまわないといけないのだ。
……ん、風呂屋は夜には閉まる? トイレは風呂屋の中にあるから、これも同じことである。
夜遅くにはトイレには行けなくなるから、水分を調整しておく必要があるのだ。
夜中に催しても、垂れ流せる場所は無いのである。 キッチンもないから、台所で済ますという荒業も使えない。
おそらくそれが理由で、このアパートの側面には、シミがついていて汚れてる場所がある。 たぶん住人が、夜にそこでションベンするんだろう。
いざとなったら私もそこでやるしかないわね。 暗がりで股広げてシャーっ!とね。ぶははっ!w
脱衣所は誰もおらず、風呂の中も誰もいなかった。 服を脱いで、風呂場へ入っていく。
ここ数日で何度か入ったが、風呂場の様子が一ミリも変わってない。 利用してる人も誰もいないし、掃除もしてなさそうだ。 もはや何のために存在してるかも分からない、変な風呂屋である。
湯舟は相変わらず汚くて、ゴボゴボと変な音を立てていた。 新しいお湯が次々に溢れ出してるのが、せめてもの救いだ。
うわ、汚ーっ。 ……いや、いいじゃないの私。 奇麗なのが嫌だと、普段から散々言っているではないか。 そうそう、風呂なんてこれぐらいでいいのだ。
体を洗い終えた私は、タオルを肩にかけて、慎重に浴槽へと入っていく。 気をつけないと、床がぬるぬるしてるから滑ってしまう。
ゆっくり滑らないように足を動かして、お湯の中を進んでいく。 壁際に来て、お湯に浸かっていった。
……ふーぅ。 あったまるわぁ。
においは変だけど、お湯の質は悪くない。 ポカポカと全身が温められてきて、クサい湯気すら心地よく感じてくる。
と思ってたら、尻がつるっと滑った! ギャーッ!! お湯の中にどぼんと入って、顔も髪も汚い浴槽に埋もれる。 あぁ、なんか逆に疲れる。
私は無駄に体力を消費しながらも、お風呂を終えてお湯を出ていった。 誰もいない脱衣所で、服を着ていく。
突然、ガラッと外への扉があいた。 ギャーッ!! 私はびくっと身を震わせて振り返る。
見ると、80歳ぐらいのおばさんが立っていた。
おばさんは何も言わずに脱衣所に入ってきた。 私を見もせずに、スタスタと入って床に敷いてあるタオルやらを回収し始めている。
もしかして、管理人の人だろうか。
私は勇気を出して、話しかけてみた。
「あのー、管理人の方ですか?」
「そうよ! あんた、そこに住んでるの?」
「はい。 最近引っ越したばかりで……」
「あぁ、そう」
おばさんはそれだけ言うと、せかせかとタオルを片づけていった。 人生を生きすぎて、人への関心が無くなったようなおばさんである。
外に出ていこうとするおばさんに、私は気になっていたことを聞いてみた。
「……ここの風呂って、掃除してるんですか?」
「しとらんよwwwwwwwwwwブハッ!www」
おばさんはそういって、めっちゃ良い笑顔を浮かべた。 クソがっっっ!!!!!!
風呂屋を出て、私は夜道を歩く。 別にいいんだけどさ、掃除してなくても。
前にも言ったが、私は今の社会の奇麗さが嫌いだ。 やたらと奇麗に形を整えて、雑味を取り除いて、代償として身を縮めたような窮屈さをいたるところに感じる。
すべての活動は精神で繋がっているから、経済もコミュニケーションも同じだ。 これからますます窮屈になって、変化がなく新しいものを求めない、『弱い』社会になる気がするのだ。
気をつけないと、安定という停滞の渦に、引き込まれるような気がするのだが。
……まあ、関係ないか。
考えてみれば、私だって引きこもりで同じだ。 すでに知っている景色に囲まれて、安心感を得ている。 それのどこが違うというのか。
コミュニケーションでも、一般的なやり方にまだ頼っている。 それのどこが違うというのか。
不満をたれつつ、私もその影響から逃れることは出来ていないじゃないか。
風呂を上がって、6畳間の部屋に戻ってきた。 小さく息を吐きながら、寝る準備をしていく。
電気を消して、布団をかけた。 その瞬間、爆音が左右から鳴り出したっ! 祭りが始まったかと思うほど賑やかに、色んな音が聞こえてくる。
そう、これは隣人たちが帰ってきたのだ。
右隣の人は毎晩夜遅くまで音楽を全開にして歌いまくるし、左隣の人は毎晩女を連れ込んでイチャイチャしているらしい。
ここは2階だが、1階の真下の部屋からは、やたらとせき込む声とテレビの音が聞こえてくる。
これが夜中遅くまで続くのである。 ぐるりと騒音に囲まれていた部屋だったのだ。 どうりで家賃も安いわけだ。
両隣の人にはそれぞれ苦情を言ってみたが、何も変わらなかった。
いちばん話が通じそうだった右隣の音楽の人には、一度ではなく何度か苦情を言ってみたが、結局聞く耳を持たなかった。
でも、いいのだフミ。 これぐらいでいい。
私は我が強くてプライドが高くて、自己中だ。 これぐらい人を受け入れないと、中和しない。
私は布団の中にもぐり、耳栓をつけた。 しかし耳栓を貫通して、音は聞こえてくる。
『あぁああ~~~~♪♪』
『ダーリン見てぇ、今日はりきっちゃったぁ♡ きゃぁ♡』
『ゲフン、ゲフンッ!』
『あぁあああぁあ~~イェイぃえいっ♪』
『ゲフン、ゲフン』
『おいで……俺の素敵な子猫ちゃん』
『きゃあ♡いやん♡』
『うぉおおおおぉぉぉ~~~~♪♪ あああぁああ~~~♪』
『ゲフン、ゲフンッ! オエエエェッ。 ペッ』
私はしばらく布団にもぐって耐えていたが、我慢の限界が来たっ!
「あぁああ”あ”ああぁっっっ!!!!!!!!!!!」と叫ぶと、耳栓を引っこ抜きながら、勢いよく立ち上がる。
やっぱ無理!
こんなのを我慢する道理が、どこにあるというのだっ!
私は電気をつけなおし、玄関へ向かった。 向かう先は、音楽を歌っている、右隣の人である。
右隣の人は、最初は爽やかな顔でまともに応対してくれていたが、回を増すごとに面倒くさそうな顔になってきている。
今回は、まともに聞いてくれるだろうか。 私は淡い期待を抱えつつ、インターホンを鳴らした。
ピンポーン!
音楽はガンガンに鳴ったまま、若い男が出てくる。 私はここ数日で言ったセリフを繰り返した。
「すみません、少し音を小さくしてもらえませんか?」
「はいはい」
男はじろりと私とにらむと、一言あしらうように言った。 ガチャンと扉を閉めて、すぐに歌う声が聞こえてくる。
「あ”あ”ああああ””あああああぁああああ”あああああぁあぁあぁあぁっっっ!!!!!!! もうやだああぁ”あぁああああああああああああああっっっっっ!!!!!!!!!!!」
私はキレて、その場から走りだした。 もう嫌だ! もう嫌だ! もう嫌だあああぁぁっ!!!!!!!!!
自分の家なのに、なんで落ち着いていられないのおおおぉおぉぉおぉっっっ??????!!!!!!!!!
私はぜえぜえと息を切らして、全速力で街を走り抜けた。 信号無視したり警察官に声をかけられたが、全て無視して叫びながら走った。
気づけば広い河原が目の前にあった。 近くには高速道路の高架が幾重にも重なるように通っていて、ガンガンに車が通っている。
私はふらふらになって息を荒らげたまま、勢いあまって草むらの上に倒れこんだ。
車の音はうるさいが、人の声よりましだ。 こんなところで寝たら襲われるかもしれないが、知ったことではない。 私は疲れたのだ。
「もう私はここでいいわああああああああああああああぁあ! 好きにしなさああああああああああああああああいいぃぃぃっっ!!!!!」
一言そう叫んで、私はそのまま眠った。
むにゃ……。ハンバーグ……。ソフトクリーム……。(黒縁)




