第14話 ビルの前、銀杏との出会い
サークル系イベントにやって来た!
しばらく話を聞いていた私だが、途中でイベントを抜けることにした。 休憩時間になったのをきっかけにして、2人を置いて先に建物の外に出た。
「はーぁ」
外は超がつくほどの良い天気で、めちゃくちゃ暑かった。 外に出て数秒としないうちに汗が出てくる。
ビルのクリーム色の古びた外壁に背をもたれて、私はぼんやりと景色をながめる。
多くの車が通っている大きな道路だ。 街路樹の近くで、赤ちゃんを抱いた親がいた。 あぁ良いなぁ……。 抱っこして道路を歩いて、一緒に車の排気ガスを吸い込みましょう。
でもここで授乳を求められたらどうしよう。 周りに隠れる場所なんて無いけど。
しょうがないわね、街路樹のそばで済ませましょう。 しゃがんで、木々に隠れるようにして、おっぱいをボロンと出してね。 ほら飲みなさい。
私の乳首をちゅうちゅう吸って……うーん、やっぱり可愛いわね。
顔を上げれば、木漏れ日が視界に入ってくるのよ。 向こうには物流系の倉庫が見えていて、感慨にふけるのだ。
しょせん生物の世界よねぇ。 自然の中に、コンクリートを貼り付けただけじゃない。 それ以外は、要はサルが飯食ってウンコ垂れて歩いてるだけなのよ。
なんで私たちは、頑張って土くれの形を整えてるのかしらとか思ったりしてね。ははっ!w
「ふわーっ……!」
うわ、びっくりした。 気づけば、すぐ横に男の人が一人いた。 あくびをしたらしい。
私と並んでビルの壁にもたれて、どこか遠くをぼうっとながめている。
男はデカいあくびを終えると、今度は目をつむって苦しそうな顔になって、「あ”あ”ぁぁぁ…………」などとうめき声を上げ始めた。
大丈夫かな。 人が隣にいるのかも気づいてない感じである。
私はなんとなく気になって、話しかけてみた。
「……イベントの参加者ですか?」
男は振り向くと、ぎょっとした顔を浮かべた。 逆にびっくりされているらしく、何だこいつみたいな目で見てくる。
「え?! いや、違うぜ」
「あぁ」
私は一言いうと、黙ってうつむいた。 あぁ、話しかけなくてもよかったかも。 私が一瞬で後悔し始めていると、男は後ろのビルを振り返った。
「なんかやってんのか? ここ」
お、話が進んでる? 私は説明した。
「はい。 小説サイトのイベントがあってるんです」
「ネット小説かーっ! ネット小説も大きくなったよなぁー、俺がガキの頃は何にもなかったのに。ブッハッハッ!!!!!!!wwwwwwww」
男はいきなり声を上げて、豪快に笑い始めた。 うぁ、びっくりした。 声の圧が大きくて、さっきの疲れたような様子からは想像できないほどだ。
少し話しだしたかと思えば、男はペラペラと、一方的に話し始めた。
「最近は、色んなサイトも出来たよなぁー! 知ってるか? 小説サイトって、もう1つじゃないんだぜ。 最近は、イベントなんかもやってるらしくて……」
男はペラペラと、一方的に話してくる。 物知りなのか、いちいち細かいところに豆知識を入れてくる。
小説サイトの話を終えても、男は話し続けた。 「エンタメといえば、音楽の方にもこんな話があってな……」「イラストのプラットフォームは、分散しまくってて正直分かりにくい……」「AIを使った新たな試みが……」などと一方的に話してくる。
私が話し出そうとしても、次々に話してくるものだから、話す隙間がない。
私は途中から諦めて、聞くことに徹することにした。
エンタメなら興味のある話だし、聞くだけでも構わない。 「ふぅーん」とか「へぇ」とか適当な相槌を打っていく。
一通り言いたいことを言い終えると、男はすっきりしたような顔になった。 はぁと気持ちよさそうに息を吐いている。
私はもう何を話したらいいか分からなくなり、何も言えずに黙りこんだ。 男はこっちを振り向いて、まじまじと見つめてきた。
「君ぃ、高校生?」
「えーっと……そうだったんですけど、退学したので……」
「退学かぁーっ! 俺も、大学退学しそうでなあーっ! もう3か月行ってないんだぜ。 休学でもするか。ボッハッハッッ!!!!wwww ところで休学といえば、こんな話があってな……」
あぁっ! またそう言って、勢いよく話し出すのである。 さっきは自分の興味のある話だったが、今度はそうでもない。
こういう時私はイライラしてしまうわけだが、これでいいのだ。
我慢しなさい、フミ。 自分だけではなく、自分以外のことも考えなきゃいけない。 社会に負けずに立つ必要はあるが、同時に社会を受け入れることも重要なのだ。
それに私は自己中で我が強い。 これぐらい相手のことを聞かなければ、バランスが取れないというものだ。
私はこらえるようにして、男の話をひたすら聞いた。
時間がたち、葉月と二見さんが建物から出てきた。
「うーん、やっぱり違いましたね。 ……先輩っ?!」
気づけば、私は魂が抜けたようになっていた。 壁にもたれたまま、目の前の景色が白くなっている。
あぁ、もう昇天したかも。 ここが天国ね。なんつって。ははっ!w
葉月は走ってくると、意識がもうろうとする私の肩を揺らしてきた。
「先輩っ! どうしたんですか?! まるで仏のようですよ」
気づけば、男の姿は横にはいなかった。 道路を見ると、腕を上に伸ばしながら悠々と歩いていくのが見える。 すっきりしたぜ!って感じだ。
気のせいかもしれないけど、あの男は、人としばらく話していないような様子だった。 もしそうなら、話し相手を提供できてよかったわ。
あー……。肉まん食べたい。(黒縁)




