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第12話 一人暮らしを始めようっ!

 葉月と二見さんと、部活(?)のようなものをすることになった!

 適当なクソ安い家を借りた! ボロボロのアパートの2階の一部屋である!


 「やった!自由だあああぁっ!!!イェイっ!wフゥウゥゥッ!!www」


 歓喜(かんき)が押し寄せた! 家の中で一人ではしゃぎ回るっ!

 一人暮らし最高っ!何でもかんでも自分でできるっ!! 未来が開けたように明るいっ!! ルンルン♪


 周りには段ボールが散らばっていて、これは実家からまとめて持ってきた荷物だ。

 小説のための資料ばかりで、あとは衣類とパソコンぐらいである。

 どうせ持ってきても仕方ないので、昔の思い出の品などはすべて捨ててきた。 断捨離(だんしゃり)的な感じである。 よく分かんないけど。イェイっ!w


 ウキウキと(おど)りながら荷物を整理していると、宅配が来たっ!

 ピンポーン


 「宅配です」

 「はいーっ!ww」


 私は踊り()いながら玄関へ行って、華麗(かれい)にドアを開ける。 シャランっ!つって。 目の前には、青い制服を着たおじさんがいた。

 よっ!配達員のおじさんっ! 今日わたし一人暮らし始めたよおおぉっ!!

 そんな私の心の声は聞こえず、配達員のおじさんは通常通り話しかけてくる。


 「サインをお願いします」

 「はい」


 だが私の口から出たのは暗い返事……。 まったく仕方ないわね私。ははっ!w

 はんこを押して……ぎゅっとね。

 おぉ、これも一人暮らしっぽくって良いっ! いいじゃん私っ!! イケてるううぅぅ!!ww

 配達員のおじさんが去っていくのをよそに、(こし)を下ろして届いた段ボールを開けてみる。 中には、古びたヨレヨレの本が大量に入っていた。

 これは小説の資料に使うものである。 ネットオークションでまとめて買ったものだ。 専門的な文章なんかは読んでもさっぱり分からないことは多いけど、少しずつ勉強しているのである。


 私は今度はパソコンをセットアップしていく。 パソコンたち上げて……おっ!ちゃんとネットにも(つな)がった。

 カタカタとパソコンを操作して設定をいじってると、キーボードの一つのキーが反応してないことに気づいた。 どうやら(こわ)れたらしい。

 あら、おかしいな。 このキーボード、買ってからそんなに()ってないんだけど。

 キーボードは、現代小説家の体の一部である。 キーボードがないと、仕事が始まらないと言っても過言ではない。

 気分も良いし、早速買って来ようっ! さっきこの辺りを散歩しながら来たんだけど、すぐ近くにパソコン屋があったのよ。 そこに行ってみましょう。

 私は家を飛び出していくと、鼻歌を歌いながら歩き始めた。


 私が住み始めたこの場所は、古い昭和みたいな雰囲気(ふんいき)が残る住宅地である。

 家を出ると道があって、ぼろっちい一軒家(いっけんや)が並んでいるさまが広がっている。 目の前にはマンションなんかもあるが、これも古くてボロボロで、廃墟(はいきょ)みたいな感じだ。

 地域全体にまで目を引くと、(さび)れているというわけではない。

 少し歩けば、向こうの方には公園とか、学校とか、大学なんかがあるみたいだ。 この辺りで一番大きな駅や空港なんかもあって、雑多(ざった)な場所である。

 私は仕事柄(しごとがら)よく散歩するから、あちこち行ってみるのが楽しみだ。


 私はアパートを出て歩いていると、すぐに目的の建物が見えてきた。 ボロっちい、まさに近所の店って感じの店である。 数軒しか離れてないから、簡単に行くことができる。

 シャッターは上げられており、扉も全開で開け放されていた。 私は鼻歌を歌いながら、店に入っていく。

 一歩踏み入れれば、中はガンガンに冷房(れいぼう)()いていた。 24℃ぐらいまで下がっていて、超絶快適である。

 ひゃーっ、涼しいっ! でも扉が開け放たれているから、冷気はドバドバ外へ出ていっているけど。 いいのこれ、電気代えらいことになるわよ。


 店の中には、いたるところに機械類が積まれていた。 ぱっと見は普通の店だが、入ってすぐに目がひかれたものがあった。

 店のど真ん中にソファが置かれているのだが、そこに若い女が一人で寝転んでいる。 女はだらけるように寝そべっていて、スマホをいじっている。

 二十歳ぐらいだろうか、私とほとんど変わらないように見える。 店に入ってきた私には無反応で、手元のスマホを操作している。


 私は入り口で立ち止まり、思わず女を見つめた。

 ……ん、なんか変な感じだ。 この人は店員だろうか、客だろうか?

 座っているソファも、もともとそこには設置していなかった感じに見える。 周囲の機械類を押しのけて、無理やり部屋の真ん中に設置したようなのだ。

 私は少しだけ立ち止まったが、すぐに店の中を歩き始めた。

 ま、気にしないでおこう。 客だか店員だか知らないが、こういう店もあるんだろう。


 しかし、今度は別の異常に気づいた。 あちこちに積まれた機械類が、古いパソコンばかりだったのだ。

 若干黄ばんだような、あるいはクリーム色の機械ばかりが並んでいる。

 げっ、ここってそういう店なの?

 ……そうだ、さっきチラッと見えた店の看板(かんばん)には、『レトロPC』と書いていた。 古いパソコン専門の店なのか。

 商品を(なが)めていくと、値段もそれなりに高いものが多い。 うわぁ、入るところ間違えたかも。 わたし金ないし、そんなの求めてないんだけど。

 とはいえ、入ってすぐに出ていくのも気が引ける。 私は少し動揺(どうよう)しつつも、そのまま店の中を歩いていった。


 店の中を少し歩くと、ここに来てよかったと思えるようになった。 (すみ)っこの方に、最近の新しいキーボードを置いているコーナーもあったのだ。 しかも値段の安いものまで置いてくれていて、私のような貧乏人にも優しい。

 おぉ、良かったっ! たかがキーボードを買うだけに、いちいち街中まで行くのも面倒だ。 近くで済ませられる場所があるなら、それに越したことはない。

 私は少し親しみを感じながら、適当な安いキーボードを手に取った。


 商品を手に持ち、改めて店の中を振り返る。

 店内には、他には誰もいなかった。 レジはあるが、そこにも人はいない。

 いるのはただ一人、店の真ん中のソファでだらけている若い女である。

 うーん、じゃあこの人が店員ってことだろう。 考えてみれば、客が堂々とソファでだらけるのも変だ。

 私はソファに近づいていくと、黙々(もくもく)とスマホをいじり続けている女に話しかけていった。


「すいませーん、店員さんですか?」

「………………」


 女は、こっちを見もしない。

 3秒ぐらい沈黙(ちんもく)が流れたのち、女は(だま)ったまま立ち上がった。 何も言わずに、レジの方へと歩いていく。

 女は(くつ)をはいておらず、裸足(はだし)だった。 歩くたびに、ぺたぺたと音が鳴っている。

 足取りがおかしく、まるで病人のようにふらふらだ。 どうしたんだろう、何かの病気だろうか。


 女はレジにたどり着いて、仕事を始めた。

 女の人は、どうやら仕事に慣れていないようだった。 渡したキーボードの箱を、商品とも思っていないがごとく雑に扱っている。

 角がテーブルにボカボカ当たるが、知ったこっちゃない。 ちょっと! さすがにどうなの、それ。

 箱を見慣れぬものを見るかのように凝視(ぎょうし)して、箱をひっくり返して、表に戻して、またひっくり返して……バーコードの位置を探しているみたいだ。

 私は黙って待つ。 やがて女はノロノロとバーコードをスキャンし始めた。 すべての動作がゆっくりで、とても店員には見えない。

 ピッ!と音が鳴って読み取りが終わると、近眼なのかめっちゃ画面に顔を近づけている。 (にら)むように数字を読み取って、一言つぶやくように言った。


「……2800円」


 です。 ぐらいいいなさいよっ! 私は心の中でツッコミながら、黙って会計を進めた。

 女はぼうっとしていて、他のことは何もせず、(たましい)の抜けた夏のセミみたいに突っ立っている。 私が出した10枚ぐらいの硬貨(こうか)も、数えるのが異様に(おそ)い。

 私はイライラしつつも、黙って待ち続けた。

 我慢(がまん)するのよ、フミ。 社会には色んな人がいるじゃない。

 私だって、他の人から見ればたいがい(かたよ)ってる人間だし、人をイライラさせることなんていくらだってある。 なんでこの程度でイライラしてんのよ、どんだけ自己中なの。ハハッ!w


 じっと黙ったまま、私は硬貨を数えるのを見つめる。 1・2・3・フゥウッ!! テンション上げてえぇつ!!ww

 ……どうでもいいけど、信号待ちの時間が長い交差点ってあるよね。 別に数えてみたら2,3分しか経ってないんだけど、待ってる間は異様に長く感じる。 あれと同じことなのだ。

 私は辛抱(しんぼう)強く、一秒をかみしめてええっ! 静かに待った。


 やがて永遠とも思える会計を終えると、私はレジを速やかに離れていった。 イライラしながら、出口へと勢いよく歩いていく。

 あぁ、疲れた。 でも、私はこれぐらいで音を上げないわよ。 絶対、また来てやるからね。 覚悟(かくご)しときなさい。

 私は意味不明な根性を発揮(はっき)しつつ、店を出ていった。



 家に戻ったら、葉月と二見(ふたみ)さんがいた。

 2人とも勝手に私の部屋に上がり込んで、ガサゴソと部屋の中を触りまくっている。 なに、あなたたち空き巣だったの。

 あれからまだ、日にちは経っていない。 数日間なにもなかったのに、示し合わせたようにいきなり3人が揃うとは。

 葉月が場所や日時を決めると約束したので、私は連絡を待っていたところなのだ。

 帰ってきた私に気づいて、葉月が振り向いた。


「先輩! 一緒に書きましょうっ! ついでに、一緒に生活しましょうっ! キャーッ!先輩かわいいいぃっっ!!ww」


 葉月はそんなことを言って、顔を覆って(もだ)えている。 何を想像してるんだ?

 私の机で、葉月は自分のパソコンを組み立てているようだった。 元々あった私のパソコンを押しのけて、自分の家から持ってきた大きなパソコンを設置しようとしているようだ。 正気の沙汰ではない。


 家の中には、元々テレビが設置されていた。 2人がつけたのか、今は画面がついていて、中から暗いニュースが流れてくる。

 『次のニュースです。 人が死にました。 以上です』

 ……以上かーいっ! フゥゥウッッ!!ww


「黒縁さん、冷房のリモコンは?」


 (たたみ)の上で、その辺のものを触りまくっていた二見さんが、顔を上げて聞いてきた。 見れば、二見さんは汗びっしょりになって、ぜえぜえと呼吸を乱している。

 あぁ、リモコンを探していたのか。


「冷房ね。 たしか、この辺にあったっけ……」


 散らばっている小説の資料をどけていくと、本の下敷きになって、リモコンが姿を現した。 元々設置されていたエアコンに向けて、電源をつけてみる。

 ……しかし、5分待てど10分待てど、まったく()かない。 ガタガタ音が鳴ってるし、変な臭いまで(ただよ)ってきた。


「うわ、くっさっ!w」


 今までの住人の生活臭が、すべて凝縮(ぎょうしゅく)されたようなにおいだ。

 タバコっぽいにおい、梅雨時の洗濯物のにおい、失敗した料理のにおい……。 あぁ、このエアコンにも人生があったんだと感じられてくる。

 二見さんは苦い顔をして、嫌がるように手を振っている。


「まあいいや。 しばらく放っておけば、よくなるかも」


 私は適当なことを言いながら、そのまま放置して自分の作業に移った。

 二見さんは釈然(しゃくぜん)としない様子だったが、(あきら)めたように畳の上に座っていく。


 部屋には、一つ低いテーブルが置いてあった。 これも、なぜか最初から置いていたものだ。

 私は畳にあぐらをかいて座り込むと、テーブルに自分のパソコンを置いた。 小説を書こうとパソコンを操作し始める。

 横に座っている二見さんが、部屋を見回しながら聞いてきた。


「……ここに住むの?」

「うん。 家賃(やちん)がめっちゃ安くてね。 値段しか見ずに借りたんだよねw」


 私が笑いながら言うと、二見さんは苦い顔になった。 二見さんは、結構まともな性格らしい。 というか、私が雑なだけか。

 臭いエアコンの風を受けながら、二見さんは別の重要なことに気づいたようだ。


「あれ? トイレは?」

「ないよ」


 トイレは、この部屋にはない。 6畳の部屋がただあるだけで、それ以外は何もない。 トイレも、キッチンも、風呂もない!

 しかしこのアパートの隣には、小さな風呂屋がある。 その風呂屋のトイレと風呂に入っていいという契約(けいやく)を、なんと月1000円でできたのだっ!! ふぅぅうっっ!安いっ!!

 これが私がこのアパートを選んだ、ただ一つの理由である。 ちなみに家賃は5000円で、合計6000円だ。 まさに神っ!

 これだけ安いところは、他には見つからないぜ。ふははっ!w


 私たちは3人で、隣の風呂屋に行ってみることになった!

 外観は普通で……いや普通過ぎて、もはや何の店なのか、そもそも店なのか、店だったとして開いてるのかも分からない。

 古い定食屋みたいで、引き戸でガラガラと開くようになっている。

 風呂屋とでも書いておけばいいのに、看板(かんばん)すら見当たらない。 小さく『男』『女』と書かれた、かまぼこの板みたいなのが2つの入り口にかかってるだけである。


 引き戸を開けて中に入ると、すぐに脱衣所のような場所だった。 壁に沿って、カビがかったプラスチックのカゴが置かれている。

 暖簾(のれん)などのしゃれたものもないから、着替え中に戸が開いたら、めっちゃ外から見えるんだけど。

 床にはすのこがあり、布が()かれていた。 乾かした雑巾(ぞうきん)みたいにカピカピになっている布を踏んで、私たちは奥へ進んでいく。

 奥に扉があり、そこを開けると風呂場だった。

 風呂自体は意外と広かった。 しかし掃除しているのか分からず、妙に汚い。

 床がぬめぬめしていて、気を付けていなければつるっと滑りそうだ。

 私は靴下を脱ぐと、床の上を慎重に歩いていく。 浴槽(よくそう)の中を(のぞ)いてみると、かなり(にご)っているが一応入れそうな感じではある。


「キャーッ!先輩汚いですよこのお風呂っ!!」


 葉月も靴下(くつした)を脱いでいて、別の風呂を見ているようだった。 隣にもう一つ、水風呂用の(?)黒い小さな浴槽があるのだが、その中を見ているみたいだ。

 近づいて覗いてみると、その浴槽の中は真っ黒になっていた。 こっちはお湯が止まっていて、お湯が長期間変わってないみたいだ。

 葉月は楽しくなったのか、足をドブンと汚いお湯に入れてはしゃいでいる。

 まったく、何をやってるんだか。 そう思いつつも、私も調子に乗って一緒に足を入れてみた。


「ぎゃーっ!汚いっ!!」

「ぬるぬるしてるぅぅ!!」


 汚い風呂ではしゃぐ私たちを見て、二見さんはドン引きしたように苦い顔を浮かべている。

 まぁ、でもメインの方の風呂が大丈夫なら、何とかなるだろう。 私は楽観的なのである。

 この風呂で住もうかな。(黒縁)

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