第11話 家の中で葉月噴火っ!
山の神社で、二見さんと日常的なことを話した!
そのまま家に戻ると、家の前には見覚えのある人影があった!
なんということか、私の家を教えてもないのに、葉月が家の周りをウロウロしている。 あなた、ストーカーだったの。
私たちが近づいていくと、葉月はこっちに気づいて笑顔で走ってきた。
「先輩!またまた会いましたねっ!!」
葉月は目の前に勢いよく来ると、私の手をガシッと握って、楽しそうにブンブン振ってくる。
ちょっと待ちなさい、あなた。 一つ二つ、聞きたいことがあるんだけど。
隣にいた二見さんも、事情は知らないものの流石に変だと思ったようだ。 怪訝な顔で葉月に聞いている。
「上代さん、ここで何やってるの?」
「先輩の家ってどんなところかなーって思って」
いや、論点はそこじゃなくて、なんであなたが私の家を知ってるかなんだけど……。
しかし二見さんは納得したようだ、「あぁそう」とだけ言って頷いている。 え、それで納得するの? 私の常識がおかしいのかしら。
私が一人で混乱していると、葉月は元気に歩き出した。
「先輩、一緒に入りましょうっ! ついでに、先輩のご両親に挨拶したいので……」
「ぎゃー!! やめてっ!」
私は慌てて葉月の腕を掴むが、葉月はまったく気にしない。 引っ張るのを無視して、ズンズンと玄関へと向かっていく。
「あーもうっ! 入っていいけど、こそっと入って!」
「やったああーっ! イェエエイっ!」
なんだかんだで押し切られてしまった。 二見さんも何も言わずに一緒に入ろうとしているし、何が起きてるんだろう。
家の中は電気はついていて、家族は帰ってきているようだった。 もう夕方だ。 誰がいるのかは分からないが、奥の方から音がする。
私は玄関を上がると、抜き足差し足でフローリングの床を歩き、階段を上がっていく。 振り返ると、後ろに葉月と二見さんの2人もついてきて、周りをきょろきょろ見ながら階段を上がってきている。
あぁ、なんかドキドキする。 ふだん一人で上がってる階段を、初めての人が通っていく感じ。 二見さんの靴下が床をこする音が、葉月が周りを眺める視線が、私の日常を非日常へと変えていくのである。
2階は私と兄の部屋があるだけだが、今は兄はいないようだ。 2人を引き連れて廊下を歩いて、私は自分の部屋へ入っていった。
部屋に入ってドアを閉めると、葉月が突然大声を上げて部屋の中へと突進していった。
「あああぁぁ”ああっ! 先輩の部屋ああぁぁっ!!!!! スーハースーハー……あぁ”いい匂い”ぃ”……」
部屋の空気を吸い込みながら、葉月は恍惚の表情を浮かべてそんなことを言っている。 どこが良い匂いなんだろう、汚いものしか置いてないけど。
部屋の中はもはや籠城するがごとく、色んなものが揃っている。
カセットコンロで軽い料理を作ることが出来るし、小さな冷蔵庫も部屋の端っこに置いてある。 洗った服や下着を、窓際のハンガーにかけて干してる。 ここで生活の大半が完結するのだ。
後ろから入ってきた二見さんは部屋の中を見ても、意外と動揺せずに普通な感じで眺めている。
あれ、もっとドン引きされるかと思ったけど、意外とそうでもないのかな。 それとも、私の小説を読んで性格が分かってるから、最初から期待してなかったとか。
ところで暑すぎる。 外とは違う熱気に満ちていて、もはやサウナである。
さすがに電気代云々以前に、こんなに暑いと本当に死んでしまう。 他人もいることだし、今日ばかりは空調を整えよう。
私はエアコンのリモコンを探していると、また葉月が叫び始めた。
「キャーーーっ!!!!先輩の下着いっっ!!!wwwぐへへえぇっww」
とか言いながら窓際にすっ飛んで行って、下着をつかみ取って頬ずりしている。 適当に洗ってるから汚いわよ、それ。
ところで、葉月はなんで私の家に来たんだろう。 私は落ち着いて、改めて葉月に聞いた。
「えーっと……上代さん、どうしたの?」
「葉月でいいですっ!」
葉月は力強く足を踏み出して、私にぐいっと迫りながら言ってきた。 私は気圧されるように一歩後ずさりして、話を続ける。
「葉月、どうかしたの? いきなり家に来て……」
「数日間何もなくて、寂しかったんですっ!!」
葉月は少し怒ったような口調で、私に向かって叫び始めた。
何もなかったって、それは正しいけど。 連絡しても、結局活動をする場所や時間の指定をしてこなかったのは、あなたの方では。
「でも、連絡したじゃん。 あの返信は……」
「今までずっと一人だったんですよっっ!!!!」
私の言うのを無視して、葉月は一人で叫ぶ。
何、いきなり。 話がすり替わってきてる気がするけど。
私が言葉を差しはさむのも待たずに、葉月はさらに大声で叫び始めた。
「みんな私を変な目で見るんですぅっっっ!!! 親も分かってくれないんです”よ”おおぉっっつ!!」
「えっと……」
「16年間、ずっと寂しかったんですよお”お”おっっ! ゴア”ア”アァァァアアアッッッ!!!!!!!!」
葉月は覚醒したモンスターのように、あるいはエネルギーがたまっていた火山が噴火したように叫び始めた。
やばっ! こんなに大声出してたら、家族にバレるっ!
私は慌てて、葉月に向けて静かにするように仕草した。
「ちょっと、静かにっ!」
「いつも”一人だったんでずよ”お”おぉぉつっっ!!!! 私を受け止めてくださいっ!!せんぱーーーいっっ!!!!!!!」
葉月はそう言いながら、私に向かって思い切り突進してきた。 ぎゃーっ! 勢いに負けて、私はそうめんの袋の山に尻もちをついていく。
二見さんはそんな私たちの様子を見て、立ったまま何も言わずに見つめている。 ちょっと、助けてよっ!
私は揉みくちゃになりながら、迫ってくる葉月に再び静かにするように言った。
「しー、分かったからっ!!」
「せ”んぱあああいっっ!! 私を受け入れて下さああいっっ!!!!!! さもなくば死あるのみっ!!!」
葉月は聞こえていないのか、侍のような口調で叫びながら突撃してくる。 前も見ずに、有無を言わさず抱き着いてきて、体をまさぐりながらさらに床へと押し倒そうとしてくる。
はっと気がつくと、別の足音が聞こえていた。 ヤバいっ、家族だっ!
「分かったから、静かにしてっ!!」
私はなかば強引に、葉月の口を手でふさいでいった。 ジタバタする葉月の体を後ろから羽交い絞めにするようにして、むりやり黙らせようとする。
ようやく葉月は動きを止めて、静かになった。 お互い汗で湿っていて、体温が熱く感じられる。 荒い鼻息が、私の手にかかってくる。
同時に、部屋の前で誰かが立ち止まったのが分かった。 兄か? それとも母だろうか。
ドアの前で立ち止まっていたその人は、やがて足音を再び響かせて部屋の前から遠ざかっていった。
それを確認してから、私は力を抜く。
「ふーぅ、危なぃ」
私の拘束を離れると、葉月は勢いよく冷蔵庫の方へ向かっていった。 今度は冷蔵庫に興味を持ったのか、扉を開けて中身を確認している。
せわしない子だなぁ。 まるで気まぐれな猫のようだ。
「ていうか、暑いねこの部屋」
ようやく、二見さんが初めての言葉を発した。
まだエアコンもいれてないから、今は多分この部屋は38℃ぐらいである。 毎日死にそうになりながら、命を削って小説を書いているのだ。
私はようやくエアコンのリモコンを見つけて、電源を入れた。
「先輩! 何ですかこれ」
葉月はウキウキと、冷蔵庫から濡れたタオルを取り出した。
水に濡らした濡れタオルを冷蔵庫で冷やしているのである。 暑い時はこれを額に乗せて、扇風機をかけるのだ。
説明を聞いた葉月は、さっそく試し始めた。 扇風機をつけると、顔を近づけて意味も無く「あ”あ”あ”あ~」と一通り言ってから、タオルを額に乗せて風にあたる。
「うーん、暑すぎると意味なくないですか、これ」
うん、そうなんだけど。 扇風機なんて、周りの空気を流してるだけだ。 そもそもの気温が高すぎたら、ほぼ意味はない。
電気代は親が払ってるから、なるべく電気を使わないようにしたいという、意味不明な私の青春的抵抗である。
二見さんは、その辺に積んでいたそうめんの袋に興味を持ったようだった。 そうめんの袋を手に取って、そばのカセットコンロをしげしげと眺めている。
そうそう、一人で勝手に籠城作戦してるのよ。 栄養が炭水化物に偏りまくった、きわめて不健康な生活になっているのは言うまでもない。
葉月はカセットコンロの火を無意味にカチカチとつけたり消したりしながら、言った。
「先輩、一人暮らししてると思ってました。 なんでしないんですか?」
「あっっっ!!! ……そうだ、18歳になったんだった」
私の誕生日が、いくらか前に通り過ぎていたことに気づいた。 18歳になれば成人だから、自分の意志だけで家を借りられるのだ。
成人したら家を出ようかなと、ずっと考えていたのになんで忘れてたんだろう?
生活費は一人暮らしするにはギリギリだが、一度出てみる方がいい気がするのだ。
指摘されるまで、気づかなかった。 そうだ、こんな息苦しい生活なんかやめて、最高の一人暮らしライフを手に入れようっ!
私はテンションが上がって、こぶしを上げて叫んだ。
「よーっし、一人暮らし始めてみようぅっつ!! おーっ!!!」
「先輩、キャラ違うと思います」
結局、私たちはこれから一緒に活動をしてみることになった。
よく分からないが、これも何かの縁かもしれない。 部活か何か知らないが、やってみてもいいのかも。
相変わらずクソみたいに暗くてつまんない社会だし、私の生活も不安定だけど。 とりあえずノリで行動していけば、突破口が見えるはずっ!
よーっし、みんなでそうめん食べよう!(黒縁)
結構です。(葉月)




